カディスの育成戦略:ラ・リーガ・コース第3回

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 ラ・リーガがスペイン政府の文化機関インスティトゥト・セルバンテス東京と共同で開催するオンライン講座「Curso de LaLiga #PLAYLaLigaSantander(ラ・リーガ・コース #プレイ・ラ・リーガ・サンタンデール)」。10月11日に行われた第3回はカディスCFの下部組織コーディネーター、“キケ”ことエンリケ・ゴンサレス・ガルシア氏が「クラブ文化とゲームモデル、カンテラモデルの分析」というテーマで語ってくれた。

カディスの下部組織コーディネーターを務めるキケ・ゴンサレス。自身はユース代表経験もある有望選手だった 【(C)LaLiga】

 キケは1999年に選手としてカディスに入団。怪我の影響で若くして引退した後はクラブのフロントに入り、2006年から下部組織のコーディネーターを務めてきた。その間には一時期アルメリアで活躍したチコ・フローレス、現在セビージャでプレーするスソ、今季ビジャレアルからマジョルカにレンタル移籍したフェルナンド・ニーニョといった選手の育成を手がけている。

 キケは講義の冒頭でクラブの現状を説明した後、経営の柱として重視している5つの項目を列挙した。その1つが今回のメインテーマであるカンテラであり、キケはクラブが掲げる目標を以下のように話していた。

「第一の目標はもちろん、トップチームでプレーできるコンプリートなプロ選手を育成すること。トップチームはできる限りクラブ生え抜きの選手で構成し、かつトップレベルで戦い続けることを目標としています。バルセロナのように、いつかはカンテラ出身者を11人起用してプリメラの試合を戦うことを目指しています」

 ただ、そのために乗り越えるべき障害は少なくない。近年は娯楽の増加や環境の変化により、ストリートでボールを蹴る子供が減少。子供の出生率も低下しており、キケは「私が学生の頃は1クラス47人いたが、現在息子のクラスは25人くらいで構成されています。子供が減れば、当然ながら出てくるタレントも減ってくるでしょう」と現状を分析している。

 さらにカディスは資金力で上回るアンダルシアの2大クラブ、セビージャとベティスが車で1時間の距離にあるため、地元出身の有望選手を引き抜かれやすいというハンディキャップも抱えている。スペインで最も失業者が多い地域であり、教育水準が低いことも若い選手を育成する上で障害となるケースがあるという。

カディスを取り巻く現状は今も厳しいが、クラブはそれを受け入れた上で育成クラブへの道のりを探っている 【(C)LaLiga】

 このような状況下でも、現在カディスでは11歳から19歳まで、男女合わせ約400人の選手が明日のスターとなることを夢見てプレーしている。講義の後半にはクラブの育成メソッドやスカウティングの基準、バラエティーに富んだトレーニング方法が多くの具体例と共に紹介されたが、彼らが何よりも重視しているのはサッカーにとどまらぬ人間形成だとキケは言う。

「誰もがプロ選手になれるわけではないが、誰もが大人にはなります。だから我々には選手が人間として成長していく過程で正しい教育、価値観を与える義務がある。クラブ出身でプロになれなかった選手たちが、良い教育を受け、生きていく上で役に立つ価値観を教えてもらったと言ってくれるようなカンテラでありたい。これは我々がとても重視している、他クラブとの差を出したいところでもあるのです」

 カディスは昨季15年ぶりにラ・リーガ・サンタンデールに昇格したばかりだ。それまでは長く経営難に苦しみながら、2部と3部を行き来していた。現オーナー会長の下で経営が安定してきたのはここ6、7年のこと。クラブと共に激動の時代を生き抜いてきたキケにとっては、ようやく地盤が固まってきたところなのだろう。

「いつも私はビジャレアルを例に挙げています。私が現役でプレーしていた20数年前はヨーロッパの勢力図に存在していませんでしたが、今ではスペイン有数の強豪となりました。しかもカンテラに力を注ぎながら」

 育成クラブの模範として確固たる地位を築いたビジャレアルとは違い、カディスはまだ育成面で優れた実績を積み重ねてきたわけではない。それでもキケの講義からは、発展途上のクラブだからこそ持つ熱量を感じることができた。

クラブのスローガンは「La Lucha No Se Negocia(戦うことに交渉の余地はない)」。関わる全ての人々のたゆまぬ努力によってカディスの1部復帰は実現した 【(C)LaLiga】

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