崖っぷちからの帰還。ロコ・ソラーレ、運命を切り開いた"決死の変化"|カーリング女子日本代表決定戦

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【(C)Getty Images】

ロコ・ソラーレのラストストーン。ハウスの中心には北海道銀行の石が2つ。5戦に渡った激戦は最後の一投まで勝負の行方がわからなかった。決めれば日本代表決定、決められなければ北京五輪出場の可能性が絶たれる――。

緊張感の漂う中、藤澤五月が投じる。スイーパー2人とラインコールに導かれながら、ストーンはハウスの中心に止まった。LOCO SOLARE(ロコ・ソラーレ)がたった1枚しかない北京五輪最終予選行きの切符を手にした瞬間だった。リンクには歓喜の声が響き渡り、ロコ・ソラーレのメンバーは人目をはばからずに涙を流した。

9月10日からスポーツパーク(北海道稚内市)で行われた全農2021女子カーリング日本代表決定戦。3日間におよぶロコ・ソラーレと北海道銀行の戦いは劇的な展開で幕を下ろしたのだった。

◉「運」がなかったロコ・ソラーレの葛藤

2連敗スタートとはいえ、ロコ・ソラーレも内容的には互角の試合をしていた。2戦目は終盤に大きなミスが出たものの、その局面以外ではどちらが白星を手にしてもおかしくないハイレベルの戦いをしていた。

そんな中での2敗――。

崖っぷちの状況で行ったチームミーティングで出た結論は「運が足りない」だったという。サードの吉田知那美が明かす。

「私たちは作戦のレパートリーも上回っていて、ショット率も上回っていて、ラインも美しく滑っているのに星だけ取れない。最後に何がないのかって言ったら、私たちには運がなかったんです。なので、運が味方してくれないんだったら、自分たちで運命変えようって。だから今回は、相手は北海道銀行さんではなく、私たちの運命と戦った気持ちです」

実際に3戦目以降のロコ・ソラーレはそれまでの2戦とは違う一面を見せていた。それまでも「ステイポジティブ」というモットーのもとで明るいコミュニケーションを行ってきたが、自分たちを奮い立たせるような声がけがより一層多くなっていた。スキップの藤澤がショットを決めるたびに吉田知から「さっちゃん、天才!」という声が飛んだ。大げさなまでの表現だったが、自分たちを鼓舞し「私たちの運命と戦う」ためには必要な変化だった。そしてこの変化が運命を変えていくことになる。

3戦目では、それまでの接戦が嘘だったかのようにロコ・ソラーレの戦略がハマっていく。北海道銀行が「あと1勝で日本代表」というプレッシャーのかかる状況だったことも影響してか、ロコ・ソラーレが先手先手を取る展開が続いた。結果としてスコアは9‐3という大差に。苦しんだロコ・ソラーレが初白星を手にした。

◉崖っぷちで溢れる"らしさ"

こうなると流れはロコ・ソラーレに傾いていく。

彼女たちはこれまで幾度となく崖っぷちを経験してきた。そして状況をひっくり返してきた経験を持っている。2018年の平昌五輪でもラウンドロビンの終盤に黒星が重なった。辛くも準決勝進出を果たしたが、試合後のインタビューで吉田知が涙を流す苦しい状況だった。準決勝の韓国戦では敗れはしたものの、それまでの苦しい流れを払拭するパフォーマンスを披露。崖っぷちからの帰還が、銅メダル獲得につながった。

4戦目でも白星をつかんで迎えた最終5戦目。序盤は勢いのままにロコ・ソラーレが得点を重ねて試合を優位に進める。フロントの2人、吉田夕梨花と鈴木夕湖はどのエンドでもショット率を落とさず、チームの土台を支えた。特に大会MVPを獲得した鈴木が得意のテイクに加え、ドローやソフトウェイトのショットもピタリと決めて吉田知と藤澤にバトンを渡せたことが勝因の1つとなった。

それでも北海道銀行が食い下がり、最終エンドの最後の一投までわからない展開に。しかし、崖っぷちでこそ力を発揮するロコ・ソラーレが"らしさ"を全開に出して日本代表の座をつかんだ。

◉いざ五輪最終予選へ

12月11日から18日にオランダ・レーワルデンで行われる最終予選には平昌五輪銀メダルの韓国、強豪スコットランドなど出場予定。最後の3枠を争い、激しい戦いが予想される。

もっとも、ロコ・ソラーレは国際大会での経験が豊富だ。平昌五輪銅メダル、2016年の世界選手権銀メダル、さらにグランドスラムでも世界の強豪チームとしのぎを削っている。

歴史的なベストオブ5方式の代表決定戦を戦い抜き、崖っぷちでさらに成長を遂げた彼女たちであればオリンピックへの道筋を切り開いてくれるはずだ。
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