【浦和レッズスペシャルインタビュー】川崎戦での痛恨のミスから5ヵ月。苦境を乗り越えたルーキーが挑む捲土重来の一戦
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大久保智明。スピードに乗った切れ味鋭いドリブルを武器に、抜群の運動量とスプリントでサイドを駆けるアタッカーだ。
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だが、たった数ヶ月前、大久保はほとんど公式戦のピッチに立てていなかった。3月の最終週から6月の初戦の2ヵ月強の間、大久保が出場した試合は1試合。たった6分間だった。J1リーグはもとより、連戦で迎えるYBCルヴァンカップも出場できないばかりかメンバーにすら入れなかった。
2019年の練習参加 【©URAWA REDS】
「悪いきっかけをつくってしまった試合だったと思っています。僕にとって、川崎フロンターレは、その試合をきっかけに約2ヵ月間、出場できなくなった相手です」
チームは前年王者に対して互角の戦いを演じていたが、前半終了間際に失点を喫すると、後半に崩れた。49分、51分、53分と立て続けに失点を重ねる。一矢報いるべく、大久保は56分からピッチに入った。
そのおよそ10分後。相手のシュートを味方がブロックしたこぼれ球を拾った。自陣ペナルティーエリアの手前からドリブルを仕掛ける。しかし、相手にボールを奪われると、そのままゴールを決められた。チームは0-5で敗れた。
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「(Jリーグデビューした北海道コンサドーレ)札幌戦は自分の中でも結構良かったですし、次の(川崎)フロンターレ戦はミスが失点に直結してしまいましたが、その後のプレー自体は悪くなかったと思っています」
失点に直結するミスの印象が悪かったであろうことは予想していたが、それ以外は悪くなかった。0-4で大差をつけられた状況で、チームは生気を失っていた。チームとしてまとまっていなかった。だから、自分のプレーができなくても仕方なかった――
言い訳だった。
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今ならそう思う。それからさらに3ヵ月弱が経ち、大久保の考えは変わった。そして、はっきりと言える。
「プロは結果の世界です。他に何をやってもあのプレーはハイライトに映り込みますし、他のいいところよりも失点が強く強調されるのがプロだと思います。失点に絡んだけど他は良かった、では通用しません。あの時期、言い訳のように『プレーは悪くなかった』と言っていましたが、その時点でアウトだったのかなと思います」
言い訳をしていたころの大久保は、トレーニングでもレギュラー組と思えるチームに入ることはなかった。そればかりか、22人のチームメートがピッチで躍動している様を横でただ眺めているだけの日もあった。
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だが、大久保がその間に関われた試合は、1試合。たった6分間。時間はあのときで止まっていた。
「監督、俺のことを全然見てくれていないんじゃないか」
そう思うこともあるほど、公式戦のピッチは遠かった。埼玉スタジアムのスタンドから見るピッチは、実寸距離よりも遠い気がした。疎外感に苛まれていく。そして、結果を残せなかった選手がピッチを去る姿を見るたびに自分を重ね、その気持ちは強くなっていった。
試合に出ているチームメートは記憶が更新され、川崎戦は『過去』のものとなっていく。しかし、試合に出られない大久保の脳裏には川崎戦、特にあの場面がしつこいくらいにこびりついて離れない。トレーニングでも自陣ゴール前でボールを受けると、あの場面がフラッシュバックする。
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「大学2年生のとき、僕自身も最初はサブやメンバー外でしたが、そのチームが団結して『革命軍』と言いながら、紅白戦も毎回バチバチ戦っていました。それが先発組にも響きましたし、先発の入れ替えもありました。その結果、関東2部リーグで優勝したんです」
そこにレベルの差は関係ないはず。プロでも同じはず。そう信じて、大久保は常に全力でプレーした。
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そして、YBCルヴァンカップ プレーオフステージの2試合に挟まれた連戦の最中だったとはいえ、優勝チームにはチームの目標であるAFCチャンピオンズリーグ出場権が与えられることもあり、「毎試合、決勝戦のつもりで臨む」と話していた天皇杯2回戦 カターレ富山戦で先発メンバーに抜擢した。
そして大久保は自らの力でチャンスを手にした。それから中断前は連戦の中で2試合ごと、週に1試合のペースで先発出場し、中断明けは前述の通り。そしてリカルド監督は選手たちにこう話すようになった。
「トモは、数ヵ月前は当たり前のようにメンバー外で紅白戦にも入れなかった。だが、普段の練習から毎日努力してここまでやってきた。だから私は彼にチャンスを与えた。そして彼は今、J1リーグに出場している」
富山戦前日の練習後、大久保とリカルド監督 【©URAWA REDS】
それでも、反省を忘れようとは思わない。
「しっかりボールを出し切ること、クリアし切ることは今でもトレーニングから意識しています。クリアすべき場面やこぼれ球を拾う瞬間は、一番緊張感をもってやれていると思います。あのときはまだ手探りの状態だったのでああいうプレーを選択しましたが、今もし同じ場面があったら、フリーであろうと時間帯を考えたらクリアすると思います」
そもそも、忘れたくても忘れられない。どんなに試合を重ねても、どんなにいいプレーを見せようと、その相手は川崎ではなかったからだ。
「今の自分のJリーグの立ち位置とまでは言えないと思いますが、あれから自分がどれだけ成長しているのか、個人としても、そしてチームとしても、自分たちを測れる相手になると思います。勝ちにいきますし、勝つことで川崎に対してのモヤモヤとした気持ちが整理できるのかなと思います」
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それでも、YBCルヴァンカップ プライムステージ 準々決勝は2試合。公式戦6試合連続で出場している大久保に、川崎との2度の対戦で出場機会が巡ってこないはずがない。
そして、第1戦は浦和駒場スタジアムで戦う。今季はJ1リーグを2試合戦ったが、それまで11年間の試合のほとんどが天皇杯の一発勝負だったスタジアムは、ファン・サポーターに『聖地』と呼ばれる一方、選手たちにとっては普段以上の緊張感を感じる場所となっていた。
しかし、大久保は違う。公式戦にして12試合ぶり、期間にして約1ヵ月半ぶりの出場機会を得た天皇杯2回戦 カターレ富山戦の舞台は浦和駒場だった。そこでのプレーが大久保の立場を一変させた。
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そして川崎戦で、浦和駒場の試合で一番欲しているものは単純明快だ。
「ゴールです。ドリブルが通用するようになってきて、出場したら一つ二つ抜くというところまではできていますが、それだけでは結果としては何も残りません。『うまかったね』とはなるかもしれませんが、怖い選手だとは思われないと思います。僕自身は『うまい』と言われることはそれほど求めていませんし、怖いと思われるためにもゴールが欲しいです」
ここで結果を残せば、大久保は変わる。おそらく周囲の目も変わるだろう。捲土重来の一戦。舞台は整った。
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