日本フェンシングが挑む前例なき未来と、直面する課題とは?「INNOVATION LEAGUE 2021」説明会開催レポート

SPORTS TECH TOKYO
チーム・協会

【 INNOVATION LEAGUE】

 東京オリンピックで男子エペ団体が金メダルを獲得という素晴らしい成果を得た日本フェンシング協会。今回コラボレーションパートナーとして「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション」に参画するにあたり、どのような課題感や狙いを持っているのか。2名の登壇者のからは「楽観」というよりもむしろ、日本フェンシングの更なる発展と価値向上を目指す力強い言葉が聞こえてきた。

 8月11日(水)に、昨年度に続く開催となる「INNOVATION LEAGUE 2021」のプログラム説明会が行われた。「INNOVATION LEAGUE」はスポーツ庁が目指すスポーツオープンイノベーションプラットフォーム構築の推進を目的としたプログラムであり、昨年度よりスポーツ庁とSPORTS TECH TOKYOが共同で開催している。

「INNOVATION LEAGUE 2021」説明会全体の開催レポートはコチラ
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202108260055-spnaviow

 アクセラレーションプログラムの実証の場を提供するコラボレーションパートナーとして、公益社団法人日本フェンシング協会から理事の皆川賢太郎氏およびパートナーシップマーケティング担当の野口雄大氏が登壇。

公益社団法人日本フェンシング協会 理事 皆川賢太郎氏 【INNOVATION LEAGUE】

最上位概念は金メダルではなく、多くの人に感動を届けること

 日本フェンシング協会が目指す最上位概念は金メダルではなく、『突け、心を。』というスローガンに従い、そのプロセスを通じて多くの人に、感動体験を届けること。これまで日本スポーツ界のロールモデルになることを目指すとともに、フェンシングを通じた感動体験の提供をミッションとして様々な取組にチャレンジしてきたと、野口氏は語った。

日本フェンシング協会スローガン 【INNOVATION LEAGUE】

 過去、日本におけるフェンシングの大会は世界トップレベルの選手が出場するにも関わらず、ほとんど観客の入らない状況が続いていた。そのような中、フェンシングの魅力を発信すべく、フェンシングの見える化とプロモーションの強化を実施。具体的には、選手の心拍数や試合中の歓声の大きさが視覚的に分かるよう大型のLEDを設置する等、新しい観戦体験を追求するとともに、蜷川実花氏さんを起用したポスターデザインの作成など大会前のプロモーションにも注力してきた。
 結果として、2018年の東京グローブ座で行った大会では、多くの観客の方の来場につながり、大会改革は一過性のものではなく、コロナ禍の今も引き続き創意工夫を続けている。

左)写真がかつての大会の様子、右)写真が2018年に東京グローブ座で開催した大会の様子 【INNOVATION LEAGUE】

深い魅力を起点としたファンベース拡大が課題

 皆川氏は、日本フェンシング協会が直面する4つの課題について以下のように述べた。

 1、競技進行に向けた発信力の向上
 2、強化・育成・普及の体系化と推進
 3、協会ビジネス推進基盤の構築
 4、国内外の団体との連携強化

 その中でも、ファンベースの拡大を重要視しており、フェンシングの深い魅力を起点に、その面白さを多くの人に伝達していきたいと語っている。

改革の加速に向けて対処が必要な4つの課題 【INNOVATION LEAGUE】

 続いて、「INNOVATION LEAGUEアクセラレーション」参画に際し、フェンシング協会の課題解決に向け設定した3つのテーマについて、発表があった。


1、試合における『緊張感』と『先進性』を拡張させる新たな観戦体験の設計

 フェンシング協会は、これまでの改革の中で『フェンシングビジュアライズド』という名のもとに剣先の軌跡が追えるようなテクノロジー開発や、試合中の心拍数を測定してリアルタイムに見られるような取組など、視覚に訴えかけるような仕掛けに注力してきた。

 それを更に拡張し、視覚以外の五感に訴えかける新しい観戦体験のフォーマットを、企業とコラボレーションしながら実現することをテーマとして掲げた。

五感に訴えかける、新しい観戦体験とは...? 【INNOVATION LEAGUE】

2、フェンシングファンとのエンゲージメントを深めるアプローチ開発。

 フェンシングの競技者に関するデータは既に多く蓄積されている一方、ファンに関する情報を集められていない部分はフェンシング協会の課題であり、まずは顧客情報を把握できるような設計が急務となっている。

 またそのデータを活用して、フェンシングをより楽しんでもらえるような仕掛けを実現する、双方向的なコミュニケーション設計を2つ目のテーマとして掲げた。

ファンと相互に繋がるコミュニケーション設計の開発 【INNOVATION LEAGUE】

3、これまでフェンシングとの接点がない生活者も気軽に楽しめるフェンシング体験の開発

 『痛い』『怖い』『コストが高い』『場所がない』など、フェンシング参加を促すために越えなければならないハードルが依然ある中、どのように競技参加に繋げることができるのかが課題となっている。

 この観点から、フェンシングの競技性を担保しつつ、よりライトに楽しんでもらえるような「“第4の種目”の開発」を3つ目のテーマとして掲げた。

気軽に誰もがフェンシングを楽しめる“第4の種目”とは...? 【INNOVATION LEAGUE】

公益社団法人日本フェンシング協会 パートナーシップマーケティング担当 野口雄大氏 【INNOVATION LEAGUE】

 最後に、野口氏はこれら3つの具体的なテーマについて、アクセラレーションに参加する企業様と連携して日本フェンシング協会として新たなチャレンジを進めていきたい旨を改めて強調した。

 日本スポーツ界における様々な前例を作ってきたフェンシング協会と事業共創できる機会は滅多に訪れるものではなく、スタートアップ企業や新しいテクノロジー・アイデアを持つイノベーターにとっては非常に稀有なものになるだろう。東京オリンピックの盛り上がりを受け、今後更なる価値向上に取り組むフェンシング協会の新しいチャレンジに注目したい。


「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション」への応募を希望される企業担当者の方は以下のURLよりご応募ください。
https://innovation-league.sportstech.tokyo/acceleration/



執筆協力:五勝出拳一

『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。
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著者プロフィール

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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