【自主トレ密着】強度も量もケタ違い!まるで修行のような千葉選手の自主トレは覚悟の現れだった
【【クボタスピアーズ(ラグビー)】自主トレ密着記事】
午前6時5分 140キロのベンチプレス
目の前にセットされた140キロのベンチプレスを見て、この取材を依頼したことを後悔した。
「これ(ベンチプレス)を8回3セット。それからダンベルでインクライプレス、そこで胸はいったん終了して、次は肩にいきましょう。ダンベルプレスして、レイズで追い込んで、最後はディップス。さあ、いきましょう!」
今回の取材対象である千葉選手は、そう笑顔で告げると、なんの迷いもなく1セット目をスタートした。
取材開始から約5分。
あっという間のウォーミングアップを終えると、瞬く間に140キロまで重ねられたウェイトを余裕そうに上げ下げする千葉選手。
この【自主トレ密着】記事でどうしても取り上げたかった選手だ。
前回の【自主トレ密着】記事では、自分の感覚を研く(みがく)ようにバランスを重視してトレーニングを行う近藤選手を取材。第2弾となるのは、そんな近藤選手と対をなす存在と言える千葉選手。
近藤選手が感覚を研くなら、千葉選手は筋肉をデカくする。
近藤選手がバランスを重要視するなら、千葉選手は強みをより強くする。
近藤選手が柔なら、千葉選手は剛。
多様性のあるラグビーというスポーツを、自主トレを通じて表現するのであれば、この二人は必ず紹介する必要があった。
ただ、アグレッシブなプレースタイルとは裏腹に、普段はシャイな千葉選手。
単なる取材では、千葉選手の胸の内を聞くことはできないだろうと、合トレ(合同トレーニング)を提案することで、今回の取材を受けてもらえることとなった。
ただ、その提案は取材開始5分で後悔する。
平然とセットされる高重量。
これでもかというほどの高回数。
複数の種目数。
過剰ともいえる千葉選手の自主トレに込められ思いとは。
千葉選手の自主トレに密着する。
(2021年6月22日取材)
千葉雄太。宮城県出身。2015年入団の28歳。仙台育英学園高校⇒立正大学⇒クボタスピアーズ。 主に№8として活躍。外国人選手が多い同ポジションにおいても、日本人離れした接点の強さを見せる。 【【クボタスピアーズ(ラグビー)】自主トレ密着記事】
デカさは正義じゃないですか
選手はこの自主トレを社業やコンディション、そして自身のプレーの課題を考慮して、主体的に取り組む。故にこの自主トレは、選手の個性が溢れていて面白い。
自主トレを見ることで、その選手の来季のプレーが見えてくる。そして、期待が膨らむ。
そんな自主トレに取り組む選手に密着する【自主トレ密着】記事。
今回、密着するのは千葉雄太選手。
どのチームも外国人選手が名を連ねる第三列(フランカー、N0.8のポジションの総称)という激戦区ポジションで活躍する。
千葉選手の売り、それはフィジカル、つまり接点の強さだ。これに尽きる。
特にボールを持っての強さはトップリーグ屈指。
千葉選手がボールを持って走るのを見ると、ラグビーというスポーツがとてもシンプルだったことに気付かされる。
ボールを持つ、走る、当たる、相手を吹き飛ばす、また走る。
複数人のタックラーに横から後ろから掴まれ、足を持たれてようやく止まる。
パスもある、キックもある、ステップもある、そんな複数のオプションがあるはずのスポーツで、このシンプルなプレーでここまでくるのは容易ではない。
「デカさは正義じゃないですか。」
自主トレが始まって間もなく、そう発言した千葉選手は、その「容易ではない」ことやってこれた自信と拘りを垣間見見る心中を語ってくれた。
「自主トレは筋トレをメインに行っています。自分の売りは、フィジカルの強さ。いまさらタイプを変えるつもりはないです。このままこの強みを売りにして、外国人にも嫌がられる選手でありたいと思っています。第三列は外国人も多く激戦区。接点の強さとパワーが売りの選手も多くいますが、そこで戦っていく覚悟はできています。接点では負けられないし、負けるつもりもありません。だからこそ、トレーニングでデカくします。」
チームスポーツは、相手と戦う前にチーム内で戦う必要がある。
どの選手も生き残りをかけて必死だ。
戦うレベルが上がれば上がるほど、自分の長所が通用しなことも増えてくる。
その中で、他の部分を伸ばしたりすることで、成長し、生き残る。こうした柔軟性が必要とされるなか、千葉選手は強硬だ。強みを強みでカバーする。
だが、これは決して楽な道ではない。その覚悟がトレーニングから滲み出いていた。
朝日が照らすジムでベンチプレスを行う千葉選手 【【クボタスピアーズ(ラグビー)】自主トレ密着記事】
高重量のダンベルショルダープレスのあとに、アーノルドプレス。その後に3種類の重さを使用し、1セット最大40回のレップ数を超えるダンベルサイドレイズを終えると、リアレイズへ。
「もういいだろ、もう十分だろ」と心の中で叫びたくなるほどのボリューム感。
そんな理屈では語れないようなトレーニングが繰り返される。
重量も回数も種目数も、とにかく「追い込む」。
サイドレイズで肩を追い込む 【【クボタスピアーズ(ラグビー)】自主トレ密着記事】
とダンベル片手に語る千葉選手を見て、この人はジムでフィジカルと同時にメンタルを鍛えているんだな、と感じた。
理屈じゃない。
オーバーワークとか、トレーニングの狙いがどうとか、そうした理屈では鍛えられない部分をバーベルやダンベルを用いて鍛錬する。それは、まるで修行のようだ。これこそが、千葉選手のフィジカルで生きていく覚悟なのだ。
そして、その覚悟の原動力は決して自己満足だけではない。
「自分がボールを持つと、チームが盛り上がってくれるのが気持ちいいです。ワクワクします。それが自分に求められるものだと思っているし、自分もそこで貢献したい。」
クボタスピアーズでは、千葉選手がボールを持つと、チーム内から
「チーバ!!」
と歓声が出るのはおなじみの光景だ。コロナ禍の関係で、昨シーズンはこのコールを聞くことはできなかったが、それでも千葉選手がボールを持つのを期待せずにはいられない。
その期待とは、パスでもない、ステップでもない。ただ一直線に相手に突進し、フィジカルで圧倒する様だ。これが見られるとチームの士気は一気に上がる。その価値を、千葉選手自身もわかっている。
「周りの期待に応えたい」自身の長所のフィジカルをここまで引き上げられたのは、そうした気持ちがあったのかもしれない。
「確かに激戦区のポジションではありますが、№8というポジションを楽しんでいます。
昨シーズンのパフォーマンスは自信がありましたが、それでも公式戦のメンバーには入れませんでした。プレシーズンでのパフォーマンスに自信があっただけに悔しかったです。ただ、いまさら(選手としての)タイプを変えることはできないので、よりデカくして次のシーズンに臨みます。スピードは課題なので、より動けるようになって、接点の強さをキープしたいと思っています。アタックでの1対1に関しては日本人・外国人関係なく負ける気がしませんよ。」
自らの武器「フィジカル」を、より大きくより強くする千葉選手。
拘りぬいたこの武器が、次シーズンで向かう敵を圧倒する様を期待したい。
その際は、ぜひ心の中で「チーバ!!」コールを忘れずに。
文・写真:クボタスピアーズ広報 岩爪航
※試合中の写真のみ福島宏治チームフォトグラファーの写真を使用しています。
トレーニングを終えると出社した千葉選手。トレーニング中は常に楽しそうだった 【【クボタスピアーズ(ラグビー)】自主トレ密着記事】
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