【東京五輪連載】早大バレーボール部・大塚達宣の世界と戦うメンタル(大学編)

チーム・協会

【早稲田スポーツ新聞会】

早大から大塚達宣(スポ3=京都・洛南)が東京五輪の代表メンバーに選出された。いつでも安定したパフォーマンスを発揮できるのが大塚の強みだ。ただ、さらに相手が強くなるほど、劣勢の場面になるほど、より力を発揮している。大塚の精神的な強さは一体どこから来ているのか。そのルーツを探るべく、洛南高校時代の恩師である細田哲也監督、高校時代からのチームメイトの中島明良(法3=京都・洛南)、早大で指揮を執る松井泰二監督(平3人卒=千葉・八千代)、大塚の母親の淳子さんにお話を伺った。

大学編「相手が強くなるほどパワーアップ すべての経験を成長につなげる」

勝負の中で発揮される冷静さ

黒鷲旗でVリーガー相手にスパイクを決める大塚 【早稲田スポーツ新聞会】

「落ち着きというか、ものがちゃんと見えている」。早稲田大学で指揮を執る松井泰二監督(平3人卒=千葉・八千代)は高校2年時の大塚達宣(スポ3=京都・洛南)と話したときのことを振り返った。言葉を選んで話し、一つ一つの練習に自分なりの意味を持って取り組んでいる。大人にいい顔を見せようとしていたわけではなく、それが自然にできていた。

その冷静さを発揮していたのが大学1年時に出場した黒鷲旗全日本男女選抜大会(黒鷲旗)だった。相手はV1リーグに所属する堺ブレイザーズ。5セット目の12ー14と、1点を取られたら早大の負けが決まる場面だった。ここで大塚が相手ブロックの上から決め、13ー14に。さらに、ディグを乱され後方から2段トスが上がってきた。ブロックは3枚ついていたが、かわして決め同点に持ち込んだ。それは、相手のブロックやディグの関係、そして「自分らしい、自分がしたいぷれーをする」という1年生としての役割を理解した上での得点だった。

相手が強くなるほど成長する

格上の相手にもおじけづかずプレーする、いや、相手が強くなればなるほど力を発揮するのは、日本代表の活動でも。昨年度から男子日本代表チームに召集された。代表の合宿に行き、まず体の大きさの違いに驚いた。さらにプレーの精度やスピード、レシーブしたときの球の重さ、戦術など、自分が体験してきたレベルよりもはるかに高かった。だが、そこで気おされるのではなく、むしろ強くなりたい一心で知識や技術をどんどん吸収した。

代表での活動を終えて早稲田に帰ってきたときには大きく成長していた。プレー面では特にサーブレシーブに変化が見られた。「シニアに選んでもらってから、自分はパスもスパイクもできるようにならないといけないと思うようになった」。大塚のポジションであるアウトサイドヒッターはリベロとともにサーブレシーブに参加する。少しでも攻撃枚数を減らし、スパイカーの的を絞りやすくするため、サーブで狙われることが多い。サーブで崩され攻撃パターンを絞られたら、世界に比べて高さで劣る日本にとって圧倒的に不利になる。サーブレシーブが試合の流れを左右する大事なプレーであることを肌身で感じてからは、ひたすらサーブレシーブの練習に取り組んだ。

努力のかいあり、1年時よりも体勢を崩されず、そしてセッターのもとへ正確に返球できるようになった。またプレーだけでなく、体にも変化が現れた。ウエートトレーニングに一層励むようになり、1年で6キロ増量。昨年は世界を相手に戦う機会はなかったが、五輪出場が現実味を帯び、より高いモチベーションを持って1日1日を大切に過ごすようになった。昨年は大塚にとって間違いなくプラスになった。

前向きに、そして論理的に

サーブレシーブをする大塚 【早稲田スポーツ新聞会】

今年度も日本代表に選出された。5月1〜2日に行われた中国代表との国際親善試合(東京チャレンジ)は大塚にとってシニアで初めての国際試合となった。1日目はスターティングメンバーで起用された。身長が10センチ以上高い相手に対し、多くスパイクを決めていたが、2セット目の途中で高梨健太(ウルフドッグス名古屋)と交代し、その日はずっとベンチにいた。ベンチにいる経験が今までなかった大塚は、これをどう受け止めいていたのだろうか。「ミーティングで話されたブロックやディフェンスの関係は、コートに入っていたときよりもはっきり見えた。最後までコートに立ちたかった気持ちはあったが、チームが勝つことが最優先なので、チームの勝利のためにコートに戻ったときに何ができるかを考えていた」

コートに入っているときとは違う視点が新たな学びとなった。また、初めて世界を相手に戦ってみて、サーブが課題であることに気づいた。「身長も体格も大きい世界の相手に、こっちがサーブで崩さないと思い通りに決められてしまう。自分はパワーのあるサーブを打てるわけでないが、相手の嫌なところを狙うボールコントロールを意識して打たないといけない」

 その3週間後には、世界の上位16か国が集うFIVBネーションズリーグが行われた。同大会は東京五輪の前哨戦。その結果で五輪代表の12人のメンバーが決まる重要な大会だった。12人に選ばれるか分からない。それでも1日1日、1本1本を大切にしてきた。雑念は持たず、練習の成果や自分の強みをアピールすることだけを考えていた。

だが、ふたを開けてみれば、今まで経験したことのないオポジットとしての起用がほとんどだった。最初はライト側からの攻撃に慣れず苦戦していたものの、徐々に得点を決められるようになった。また、課題であったサーブでの活躍もあった。ロシア戦では5セット目の15ー14で大塚がサーブで崩し、高橋藍(日体大2年)がダイレクトで決め、フルセットの激闘を制した。サーブレシーブで狙われることや劣勢の場面から出場することもちろんあったが、大崩れすることなく、むしろ試合を重ねるにつれ、ますますパワーアップしていった。

オリンピックは通過点

ネーションズリーグでの活躍もあり、五輪の代表メンバーに選出された。初めて全日本の合宿に参加し周囲との力の差を感じたことや試合でベンチにいることをネガティブに捉えるのではなく、自分の成長につなげられたことが、代表枠を勝ち取れた決定打になっただろう。だが大塚にとって五輪はあくまで『通過点』なのではないかと松井監督は話す。「連絡を取っていても、自分の力を出すことだけを意識していて『選ばれたい』とは一言も言わなかった。見ているものはもっと先にあるのかもしれない」。日本を代表する選手から、世界に名をとどろかせる選手へ。ここからがスタートだ。
早稲田スポーツ新聞会:記事 西山綾乃 写真 友野開登氏、平林幹太
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著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

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