横浜FMが作るチームとファンの新タッチポイント
【ⒸY.F.M.】
オンラインでハイタッチ!
「頑張ってーー!」
キックオフ約2時間前。日産スタジアムに到着した監督、選手たちが、子どもたちの声に吸い寄せられるように、画面上でハイタッチを交わし、手を振ってロッカールームに入って行った。
新型コロナウイルス感染症によるまん延防止等重点措置のため人数上限5000人という制限の中にも、試合前に広がったのは、ささやかながらも“スタジアムにあるべき光景”だった。
オンラインを通しての子どもたちの声援に応える選手たち 【ⒸY.F.M.】
選手と子どもたちがつながった!
「コロナ禍にあっても、クラブとしては選手とファン・サポーターの皆さんとのタッチポイントを常に模索しています。その取り組みの中で、試合日に何ができるかをずっと考えてきました。その上で進めたのが、バス降り時のハイタッチです。これをオンラインでできないかと考えたところ、日本マイクロソフトの協力と技術支援によって実現しました」とは、今回の事業担当の内田智久だ。
もともとF・マリノスは、2019シーズンまでバス降り時のハイタッチ企画をリアルイベントとして適時実施していた。しかし、昨今のコロナ禍で、このイベントはおろか、ファン・サポーターとの触れ合いは皆無となった。
それでも、「ファン・サポーターの皆さんが望まれている一つは、選手と接することだと思います。コロナ禍で対面のファンサービスはできずとも、そうした場を提供したいと考えていました」というファン担当の川村直紀の想いも重なって、今回、マイクロソフトのSurfaceなどを活用したバーチャルな形でのオンラインハイタッチとして実現したのだ。
ただ、この日の「オンラインハイタッチキッズ Powered by Microsoft Surface」実施には乗り越えなければならない壁があった。その一つが回線。
「すべてのオンラインイベントでは、回線の不安定によって生じるトラブルはつきものだと思います。だからこそ、このような”瞬間を大事にする企画”は常時安定している回線の確保が出来ないと、参加者のみなさまに満足なサービスを提供することができません。さまざまなことをシミュレーションし、しっかりできる状態を作り上げるために、実施まで少し時間を要しました」(内田)
今回、キッズ側がスタジアム内の部屋で、それぞれSurfaceからオンライン会議に入る。バス到着場で、子どもたちの様子を画面に投影。子どもたちと監督、選手らが、バーチャルでハイタッチする状況を作るというのもの。時間を共有するイベントだからこそ“回線の安定”は実施の最重要課題。シミュレーション、実地検証等を何度も重ね、当日も入念な準備とテストのもと本番を迎えた。
設置された2つの画面には、バスの到着前から子どもたちの笑顔が写り、「もうすぐバスが来るよ!」「あと2分だって!!」という声とともに、ソワソワ、ドキドキした雰囲気が伝わってくる。
その子どもたちの高揚感は、バスを降りてきたチームにも伝わった。画面から届く「ハイタッチ!」という声や「頑張ってください」というひと言に足を止め、小さなWEBカメラに向かってハイタッチを試みたり、一人ひとりを指差して手を振ったりと、監督も選手も久しぶりの声援にうれしそうに応えていく。
この様子を見ていた担当の二人は「手を振る、ハイタッチをするなどの動きだけでなく、選手側から子どもたちに声がけするようなアクションがあるとさらにいい企画になる」と、早くも次回への課題を挙げたが、ここまで公式戦では15試合連続負けなし、リーグ戦でも4連勝がかかっている大事な試合前。選手たちにもさまざまな表情があり、直前に迫った試合に向かうチームの高揚感、緊張感がある。
だからこそ「試合前の緊迫感を感じられたり、選手の横顔を見せたりすることができたのは良かったのかなと思います」(川村)と続けた。
「イベント終わりに、試合前の選手の状況を伝えると、『やっぱり、そうなんだ!』って、すんなりと理解をしてもらえました。普段はなかなか見られない試合直前の貴重な選手の姿にふれ、同じスタジアム内で見られたからこそ、子どもたちも、より実感できたと感じています」
スタジアムの一室から試合に臨むチームにオンラインで声援を送った 【ⒸY.F.M.】
スタジアムに流れる時間も共有する!
「オンラインイベントの参加はご自宅からでもできますが、チームと触れ合った後に試合を生観戦してほしい。試合日の雰囲気を体感してほしいという思いがありました。参加いただいたお父さんとお子さんが『キックオフまで時間があるからお弁当を食べてから座席に行こう』とか『アップが始まるから急ごう』と、イベント後もスタジアムに流れる時間の中で過ごされていたのはうれしかったですね」(内田)
試合前の独特な緊張感やワクワク感は、スタジアムだからこそ感じることができるもの。その思いを子どもたちに体感してほしいという願いは、F・マリノスがずっと大切に持ち続けてきたものだ。
「今回のオンラインハイタッチキッズやエスコートキッズもそうですが、これからのサッカー界を支えるのは子どもたちです。プロサッカー選手に憧れを持ち続けてほしいですし、特にスタジアムではプレーを目にできるので、かっこいいなとか、あんなふうになりたいって思ってもらいたい。クラブとしてもいろいろな形で、子どもたちが夢を持ち続ける環境を提供していきたいです」(川村)
実際に今回のイベントに参加した兄弟は、「当選したのを知ったときは本当にうれしかった」と話し、当日は「朝、早く起きちゃった」と笑顔を見せる。選手たちと触れ合った後は「選手たちとハイタッチができて、もっと好きになったし、カッコよかった。試合も頑張ってほしい!」と話していた。
キックオフを待ちきれない様子で、F・マリノスの応援ソングを口ずさんでいた姿は、コロナ禍にあっても、プロサッカークラブとして子どもたちの夢を育み、サッカーを見ることの面白さや楽しさを伝えることの大切さを実感するシーンとなった。
さらに、子どもたちは、さっそうとMicrosoft Surfaceを使いこなし、選手たちが到着するまでの間にはお互いにオンライン上で「なんて声をかける?」「誰に会いたい?」といったコミュニケーションが自然に育まれていた。
同じチームを愛し、応援する者同士だからこそ分かち合える瞬間を作り出すことで、スタジアムの熱量もまた上がっていく。コロナ禍では失われつつあったファン同士の交流が、再び生まれていたのは、うれしい副産物だった。
2つの画面に子どもたちが映し出されて表情と声が届く。監督、選手は中央のカメラでハイタッチ! 【ⒸY.F.M.】
参加した子どもたちはさっそうとMicrosoft Surfaceを使いこなしていた 【ⒸY.F.M.】
これまでも、これからもつなぎ続ける
「コロナ禍以前は試合前後に、スタンドなどから『頑張って』と選手に直接声をかけられました。それこそ、スタジアム観戦の醍醐味。でも今は伝えることができません。コロナ禍になって、声援のないスタジアムになっているからこそ、本来スタジアムにあるべきコミュニケーションや声のやりとりをホームゲームでつくりたいと思っています。今回、オンライン上ではありましたが、子どもたちが『○○選手、頑張って!』と声を通して思いを伝える場を提供でき、それに選手が応える本来のやり取りが見られました。コロナ禍でのファンとチームの新しいタッチポイントを一つ形にすることができたのではないかと思います」(内田)
子どもたちの声がより届くように「ちょっといい音響機材を導入しました」と笑うが、それもすべてはファン・サポーターが、それまで得ていたスタジアムでの醍醐味を作り出すため。
「これまで普通だったスタジアムにあるべき姿がコロナ禍ではできません。人数制限等がある状況ですが、デジタルの力を活用しながら、プロサッカークラブとして少しでも本来のあるべき姿にしていければと思います」(川村)
2021年5月9日。明治安田生命J1リーグ第13節。
久々に届いた子どもたちの声援に後押しされたF・マリノスは、ヴィッセル神戸を相手に2-0のクリーンシートで勝利を収め、リーグ4連勝を飾った。
日産スタジアムに咲くトリコロールの傘の花々とともに、ファン・サポーターの声が、再び戻ってくることを願う。そして、これまで以上にファン・サポーターとチームをつなぐために。F・マリノスの挑戦も、続いていく。
子どもたち、そして皆さんの声援を受けて勝利! 【ⒸY.F.M.】
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