「スクラムのお兄さん」 クボタスピアーズ トップリーグ2021プレーオフ2回戦 試合前コラム

チーム・協会

【【クボタスピアーズ(ラグビー)】トップリーグ2021プレーオフ2回戦試合前コラム】

ヒーローは前半38分にフィールドに登場した

バックスタンドがオレンジ色に染まった花園ラグビー場。

状況は、クボタスピアーズ陣ゴールラインを背負ったセンタースクラム。
背中にゴールポストを感じる距離感。
まさに背水の陣。
その前のプレーで、3番で先発していた山本選手がシンビンで10分間の退場。
クボタはこのスクラムを1人少ない7人で組まなくてはいけない。
だれもが思った。

絶対絶命



トップリーグ2021第7節 クボタスピアーズvsトヨタ自動車ヴェルブリッツとの一戦。
前半38分、スコアは14対8でクボタリード。
しかし、このピンチでトライ&ゴールの7点を相手に与えてしまうと逆転を許して前半を折り返す。

「守り切りたい」

ファンのだれもがそう思ったはずだ。

得てしてヒーローとは、そうした絶体絶命の瞬間に颯爽と現れるものだ。

「クボタスピアーズ 8番末永健雄選手に代わって、18番 北川賢吾選手が入りました。」

この場内アナウンスがこの試合のヒーローが登場する合図だった。

この日リザーブでメンバー入りしていた北川選手。

後日、このタイミングで出場した際の心境を聞くと

「楽しくてしょうがなかった」

とさわやかに言い切った。

その「楽しくてしょうがなかった」瞬間が、冒頭の写真だ。

近くもなく遠くもない一点を見つめて、仁王立ち。
表情は毅然とし、無理に奮い立てるわけでも、余裕を見せるわけでもない。


その後の展開は知っての通り。
人数で言えば一人少ない、フォワード合計体重で言えば93KG少ない状況でのスクラムを押されることなく、むしろ押し返し、このピンチを乗り切った。

その後、さらに一人減り、6人のスクラムというシチュエーションもあったが、これには
「さすがにきつかった」
と本人コメントするも、決して押されるわけではなかった。

この試合、負けはしてしまったが前半終了間際の
絶体絶命→北川選手投入→押し返す→ピンチ脱出して前半終了
の流れは非常にドラマチックで前半のクライマックスともいえるシーンだった。

その主演を務めたのは、間違いなく北川選手だ。

そして本節。
クボタスピアーズの対戦相手となるヤマハ発動機ジュビロ。その強みといえばスクラムだ。

スクラムが強みやプライド、といった言葉を通り越して、アイデンティティーと言っても過言ではなさそうなこの相手に対して前節のヒーロー北川選手は3番(右プロップ)で先発する。

その試合に向けての心境を聞いてみると
「楽しみでしょうがない」
と、またも笑顔で言い切った。

一人少ないピンチの状況や、負けたら終わりのプレーオフで相手の強みと戦わなくてはいけない状況。
プレッシャーにも感じるこうした状況を「楽しみ」と言い切る強さ。

それは自らスクラムを「得意プレー」と語り、「スクラムが好き」と笑う、スクラム愛がそうさせるのか。

ここ最近、同期の千葉選手と競って筋肉量を上げ、体脂肪を落とし、体重は落ちたが
「スクラムは前より強くなったと思います。」と嬉しそうにコメントしてくれた。

あのトヨタ戦のピンチの局面の写真を見ると、まるでスクラムの現人神(あらひとがみ)のような存在に思えたが、こうして北川選手のスクラムへの純粋な思いを聞いていると

「この人はスクラムのお兄さんなんだな。」

とふと思えた。

体操のお兄さん、歌のお兄さん、そんな○○のお兄さんシリーズの一員。

「みんなとスクラムを組みたいんだ!」
「みんなにスクラムのすばらしさを伝えたいよ!」
「さあ!一緒にスクラムを組もうよ!」

そんな心の声が聞こえてきそうなスクラムが好きで楽しい、さわやかな情熱。

そして、ピンチを助け、プロップというポジションの文字通り大黒柱のように戦う頼もしさ。
そんなクボタスピアーズの「スクラムのお兄さん」、北川選手に注目だ。

負けたら終わりのプレーオフトーナメント!だからこそ、その一瞬を楽しもう!

このチームで戦えるのは長くてあと一か月 【【クボタスピアーズ(ラグビー)】トップリーグ2021プレーオフ2回戦試合前コラム】

いよいよクボタスピアーズのプレーオフがスタートする。
ここからはどこのチームも「負けたら終わり」。

この「負けたら終わり」の「終わり」には様々な「終わり」を意味する。

「今シーズンの終わり」もあるし、今季がトップリーグラストシーズンということも考えると「トップリーグでの活動の終わり」もあるかもしれない。また、引退する選手からすれば「ラグビー人生の終わり」と捉えることもできる。

こうした終わりが見える状況になると、時間というものがいかに有限なものであるかを思い知らされ、なんとなくセンチメンタルな気持ちになってしまう。

けれど、「感傷に浸ることはいつでもできる」と自分に言い聞かせる。

このトップリーグの歴史も、クボタスピアーズの歴史も、各選手の歴史も、すべては一瞬の積み重ねであるはずだ。

特に試合中、選手たちは一瞬の中で生きている。

今その一瞬のプレーが、ノーサイドの瞬間に大きな影響を与えることを知っているからだ。

「スクラムのお兄さん」は、スクラムが自身の酸素を奪う代わりに強烈な乳酸をため込むことを知っているが、目の前のスクラムを全力で押す。

どんな大きく強い相手にも、勇敢にタックルへいくあの選手は、タックルが痛いことを知らないわけではない。

ゴールキッカーは、あらゆるネガティブなイメージを頭から追い払い、目の前のボールとゴールに集中している。

そうした目の前の一瞬を全力でプレーしているからスポーツは面白い。

「負けたら終わり」
選手もスタッフもファンも、きっとそんな重圧はあるけれど、まずはスポーツの醍醐味でもあるその一瞬を全力で楽しもう。

そうして、全力の一瞬が終わったら、共に嬉し喜び笑い、時に泣けばいい。

そんな残り数少ない一瞬の連続を見ることができる
トップリーグ2021 プレーオフトーナメント2回戦
クボタスピアーズvsヤマハ発動機ジュビロの試合は4月24日(土)12時キックオフ


文:クボタスピアーズ広報 岩爪航
写真:チームカメラマン 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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