世界記録更新をチベーションに。金メダルに最も近い陸上競技・佐藤友祈の“挑戦する心”
【photo by X-1】
2021年の幕が明けた。新型コロナウイルス感染症はいまだ収束の兆しを見せず、厳しい状況が続いている。そんななか、東京パラリンピックの金メダル候補は新年をどんな気持ちで迎えたのか。
佐藤友祈(以下、佐藤)年末年始もトレーニングができているからか、まだ2021年になった実感はありません。ニュースを見て、早くコロナが収まってくれたらいいなと思いますし、東京パラリンピックが無事に開催されることを信じ、夏に向けてピーキングしていきたいと考えています。
今年はチャレンジの年です。タイムも縮めたいし、チャレンジすることでもっと自分を高めていけると思うとわくわくします。
2019年世界パラ陸上競技選手権大会で2個の金メダルを獲得し、東京パラリンピック日本代表に内定した 【photo by Getty Images Sport】
佐藤 マーティン選手も強くなっていると思うし、世界選手権で勝ったとはいえ決してあなどれません。世界記録を持っているのは僕だけど、パラリンピックのタイトルはまだ彼のもの。真の王者になるために、東京パラリンピックでは絶対に金メダルを獲ってリベンジします。
漕ぎ出しが速いマーティンに対して、中盤から加速して捲るのが佐藤の勝利パターンだ。スタートの改善、スムーズな加速に加え、トップスピードを落とさず走り切る力も磨いた。雪辱を晴らす準備は整った。しかし……新型コロナウイルス感染症の拡大により、東京2020大会の1年延期が決まった。
佐藤 昨年のお正月は「もう少しで東京パラリンピックを迎えられるんだな」と、わくわくした気持ちで迎えました。そこから自然と気合いも入り、拠点とする岡山で冬季練習に励みました。2月になって日本でもコロナ患者が出てきたので、「東京2020大会の開催に影響してしまうかな」と少しずつ不安な気持ちが押し寄せてきました。それでも、まだ開催されると言われていましたし、変わらず練習できていたので大丈夫かなと思っていました。ですが、3月に入って海外の選手が不参加を表明するというニュースで見て、これは今年の開催は厳しいなと思うようになりました。3月に出場予定だった岡山のグランプリ大会も中止が決まり、いよいよという雰囲気だったので、東京パラリンピック延期の報せは「やっぱりな」という感じで受け止めました。心づもりをしていたからか、そんなに動揺はしなかったです。ただ、大変なことになってきたなって。
日本のエースに成長した佐藤は、東京パラリンピックで金メダルと世界記録を目指す 【photo by X-1】
佐藤 自粛期間中も幸いなことに練習はできていたので、どこかの大会にピークを合わせようと思いましたが、なかなか開催される大会のスケジュールが決まりません。こればかりは仕方ないので、9月に予定されていた日本パラをターゲットにしてトレーニングメニューを組んでみることにしました。日本パラが中止になる可能性もあったので未知数なところもあったけれど、どのくらいの期間があれば最高のパフォーマンスを出せるところまで持っていけるのか考えながら調整することで、2021年の東京パラリンピック本番での自信にしたい狙いもありました。
意気揚々と挑んだ9月の日本パラ陸上競技選手権は、世界記録更新とはならなかった。調整に手ごたえを感じていただけに、レース後は残念がったが、純粋に走る楽しさを実感したという。また、11月の関東パラ陸上ではシーズンベストを記録し、コロナ禍でも好コンディションを保てていることを証明した。そして、無観客の大会に出場したことで、自国開催のパラリンピックで最高のパフォーマンスを見せて多くの人を魅了したいという思いを強くした。
佐藤 世界記録で2冠という目標に変わりはありません。新国立競技場で世界記録を出し、会場のお客さんの前で「おっしゃー!」って喜んで、一緒に盛り上がれたら最高ですね。テレビの応援もうれしいですが、リアルの応援はやはり選手にとっては力になりますから。あと、2冠を達成したらぜひ閉会式の旗手をやらせてほしいです。僕はまだ一度しかパラリンピックに出ていませんが、リオの盛り上がりは格別でしたし、オリンピックとパラリンピック合同で行われた銀座のパレードも忘れられません。次は金メダルを手にまたあの特別な舞台に戻りたいという気持ちは強いです。プレッシャーもありますが、注目されればされるほどいいレースができると思うので、東京パラリンピックではぜひ僕のレースに注目してください!
31歳の佐藤は、東京が2度目のパラリンピックになる 【photo by X-1】
佐藤 東京パラリンピックをひとつのきっかけにして、パラ陸上をもっと多くの人に見てもらえるようになるとうれしいです。健常者の大会に障がい者のレースが組み込まれるのもいいですよね。義足クラスなど一部の種目は日本選手権などでも行われるようになってきたので、T52クラスの種目も実施してもらえるようにアピールしたいです。そして、その結果がもっとメディアに取り上げられるようになることを願っています。障がいを持っている人もがんばっているという扱いではなく、スポーツニュースで当たり前に取り上げられるように変わったらいいなと思います。
21歳のとき、脊髄炎が原因で車いす生活になった。偶然テレビで見たロンドンパラリンピックがきっかけで失意のどん底から這い上がった佐藤は、パラリンピックが与えるインパクトの大きさを知っている。自国開催の舞台で世界記録を更新して2冠を達成し、挑戦した先に未来が開けることを多くの人たちに教えてくれることだろう。
text by Asuka Senaga
photo by X-1
※本記事は2021年1月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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