人生の密度が半端ない〜愛知からフェンシング盛り上げを、冨田弘樹さんの挑戦

チーム・協会

【日本フェンシング協会】

人生の向き合い方が、1日で変わる。愛知工業大学名電中学・高校のフェンシング部監督、冨田弘樹さん(37)は2年前の夏、そんな体験をした。心に響く助言を受け、実行に移した。愛知県フェンシング協会常任理事として、中日本選手権を国内最大規模の大会にすべく奔走。コロナ禍の苦難の中、2月27、28日の両日はクラウドファンディングで資金を集め、10歳から16歳を対象にした大会「AICHI OPEN F E N C I N G」を愛知工業大学(愛知県豊田市)で開く企画の発起人でもある。「愛知でやっていることが地方のロールモデルになればと思っています」。今、人生の濃密さが半端ない彼の言葉には、耳を傾ける価値がある。

2019年7月5日。転機は「空振りしまくれ」

「中日本選手権をどうやったら、より魅力あるものにできるか。そこが出発点でした。太田雄貴会長になってからの全日本選手権の改革を見ていて、フェンシングって自分が現役のころよりかっこいいと思えて。だから会長にアドバイスをもらえたら、と。日にちも忘れません。2019年7月5日です。千葉県で学校訪問をするから、現場に来たら話せますよ、と言われて行きました。スポンサー、広告集めとか、少しは勉強していったつもりでしたけど、今から思えば、知識ゼロでした」
「昔から知っている間柄なので、ここでは雄貴と呼ばせてもらいますが、雄貴が言っている内容が理解できなくてただ必死にメモを取っていました。あと、五輪メダリストの雄貴だから出来るんだよ、と言い訳していましたね。今思うと、すげえだせえと思うけど。そうしたら雄貴が言うんですよ。『いや、先輩そうじゃない、僕だってゼロから始めてますから』と。めちゃくちゃ覚えているのが、打率を上げるにはバッターボックスに立って、空振りしまくれ、と。バットを振らないと打率なんて上がらないんだから、とりあえず現場に行って、熱意を伝えて、怒られて、そこからどうしたらいいかが見えてきますよって」

手探りのスポンサー営業スタート、試行錯誤の日々

セールスシートの書き方すら理解できなかったスタート。最初にスポンサーが見つかったのは1カ月後ぐらいだった。
「最初は何の面識もない企業に飛び込みで営業に行くのは無理でしたね。今はバンバン行くぐらい、図々しくなりましたけど。なので、私の愛工大名電高フェンシング部の二つ下の後輩で、家族、親族がイタリア料理のレストランなどを展開しているマリノ(本社・名古屋市)を紹介してもらって、協賛してください、とお願いしに行きました。最初に取れたスポンサーのうれしさは、忘れられないです。でも、そこからとんとん拍子じゃなかったです。また太田会長に相談して、ノダキの野田典嗣社長ら愛知で活躍されている方とつないでもらって、最終的には中日本選手権の総事業規模は1500万円を超える形になりました。これまでは大会参加費に頼るだけで、事業費は200万円ぐらい。そのお金で1年間の愛知県協会の運営を賄う形でしたから」

【日本フェンシング協会】

コロナ禍で大会は延期に。それでも、愛知でしかできないことを

結局、新型コロナウイルスの感染拡大は収束に向かわず、昨年の中日本選手権は開催にこぎつけることができなかった。第60回の記念大会は今年6月に仕切り直しとなる。
「こだわりは延べの参加者1千人以上の国内最大規模の大会です。これまでは400人弱でしたから、その改革です。日本代表を選考するランキングマッチの位置づけにし、少年少女の部はフルーレのほか、エペ、サーブルも加えます。26ピスト+決勝戦用の特設ピストを準備し、愛知県で一番大きな会場であるスカイホール豊田を選びました。これだけ大きい会場を東京で借りるのは大変なので、愛知でしかできないことをやろう、という発想です」
「愛知は26年にアジア大会を控えているので、行政の支援を得やすいというメリットもあります。そうした人たちと関係性を深めるために、愛知県が3年前から始めたタレント発掘事業に、フェンシングも2年前から名を連ね、私も選考などに携わっています。タレント発掘による人材の発掘・育成だけでなく、行政との連携もとることができるのが重要なポイントです」

【日本フェンシング協会】

中日本選手権の構想で得たノウハウ生かし、今週末に「AICHI OPEN FENCING」開催

2月27、28日のAICHI OPEN F E N C I N Gはクラウドファンディングを導入し、選手の大会参加費を無料にすることが出来た。
「17年世界選手権男子フルーレ個人銀メダルの西藤俊哉選手に協力を仰ぎ、クラウドファンディングは目標の200%の100万4500円が集まりました。まず、当初の目標を50万円に置き、コロナ対策の資金を捻出し、さらにセカンドゴールとしてさらに50万円を上積みできれば、選手の参加費を無料に出来るという方式をとりました。著名人の本を読んだり、オンラインサロンに参加することで、やり方を勉強していたのが生きました。演出にも凝っています。全日本選手権に次ぐぐらいのレベルを実現したいな、と。延期になった中日本選手権で相当作り込んだので、その人脈を生かしています。2月には愛知県協会が地元を中心に自動車や建物の販売などを幅広く手がけるNTPホールディングス(本社・名古屋市)と年間スポンサー契約を結びました。地方の協会の年間スポンサーは珍しいですよね。自分たちのような取り組みは、ほかの地方、都市でも横展開できると思います。こうした盛り上げを全国の47都道府県の協会が取り組んだら、それを束ねる日本協会との相乗効果が生まれる。だから、僕らの成し遂げたことがロールモデルになって、全国に広がっていくとうれしいです」

2018年11月、カデのフランス遠征にて。 【日本フェンシング協会】

本業の教員スタイルにも変化が。今、暮らしの密度が濃い

冨田さんは今、多くの顔を持つ。工業科の教諭であり、中学、高校の部活の指導者であり、地元のジュニアフェンシングクラブのコーチ、日本代表のユース年代のコーチをしつつ、愛知県フェンシング協会の常任理事であり、大会の企画立案も手がける。
「この2年近くで、人脈は広がりました。今、学校でも新機軸として、愛知で有名な名古屋おもてなし武将隊の倉橋岳さんや、筋肉を効果的に鍛えるトレーニングギアの開発をしている中京大の渡邊航平教授ら、多彩な人をゲストに招き,講演していただいたりしています。話が面白いし、上手なので生徒たちのリアクションもいいです。僕の授業も変わりました。1月末から人気沸騰した音声空間アプリ「Clubhouse」を僕もやっているんですが、生徒たちにもやりなさい、と進めました。学校や家庭のルールを守ることはもちろん、きちんとその危険性も教え自分の判断でやりたいのであれば保護者への了承を得るための行動を起こすことが大切だと伝えました。またこのアプリが招待制というのは仲間の信頼がないと使うことすらできない、とか、草創期に始めるのと、皆が使うようになってから一緒に始めるのとでは,何が違うかなども話したりします。教員という仕事が本業なので、絶対におろそかにしないです。家庭と過ごす時間がない、というのも禁句にしています。8歳の長女、6歳の長男はフェンシングを始め、4歳の次女もまねたりしています。時間は限られているので、いろいろなものが重なってというか、かぶさってますね。暮らしの密度が変わってきました」

本業は教員。指導スタイルにも大きな変化があった 【日本フェンシング協会】

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著者プロフィール

突け、心を!  従来のスポーツ界は、五輪で金メダルを獲得することが最上位概念でした。 しかし、私たちはこの勝利至上主義からの脱却を目指します。 「突け、心を。」のキャッチコピーの元、私たちが策定した新たなビジョンは「フェンシングの先を、感動の先を生む。」です。 フェンシングを取り巻くすべての人々に感動体験を提供し、フェンシングと関わることに誇りを持つ選手を輩出し続けていくことを約束します。

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