【水戸】私の「ミッション・ビジョン・バリュー」 第13回外山凌選手「一度きりの人生を全力で」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⓒMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」
を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

17名の選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
第13回目は外山凌選手です。


(取材・構成 佐藤拓也)

【ⓒMITOHOLLYHOCK】

Q.外山選手は昨年もMVVを作りましたか?
「昨年は作ってないです。今年からです。面談を通して、サッカー人生を振り返って、かなり掘り下げるので、普段自分が考えている以上に考えを深めることができた感覚があります」

Q.誰かに自分の人生を話すことはあまりないですよね?
「いや、僕の場合、結構あったんですよ。だから、面談されたメンタルコーチの方も『自分の人生をこれだけ話せる人はなかなかいない』と驚いていました」

Q.どういう機会に話をしていたのですか?
「僕の場合、友達同士で他愛もない話をするよりも、そういう話をすることの方が多い。でも、今回面談を通して、より一層深められた気がしました」

Q.常に振り返りながら、前に進んできたんですね。
「そうですね」

【Mission】

Q.まず「Mission」には「一度きりの人生を後悔なくやり切る姿を見せ続ける」という覚悟を感じさせる言葉が書かれています。
「『人生は一度きり』という考えが僕の中で核になっていて、何か行動する時や選択する時、振り返った時に後悔がないかどうかを判断基準にしています。人生の岐路での選択肢で悩んでいる人に対して、希望を与えて決断する後押しになるような姿勢を見せていきたいと思い、その言葉にしました」

Q.外山選手はこれまでの人生でいろんな選択をしてきたと思います。たとえば、高校進学時、東京ヴェルディジュニアユースから前橋育英高校に進みました。人生において大きな決断だったのでは?
「ユースに上がる選択肢があった中で前橋育英を選びました。当時、東京ヴェルディでユースに上がれるのに上がらない選手はいませんでした。その選択をする際にはかなり考えました」

Q.周りからはユースに昇格することを勧められたそうですが、外山選手の意志で前橋育英を選んだんですよね。
「ヴェルディが嫌だったわけではありません。僕は高校サッカーを経験してみたかったんです。大学時代、ユースに上がった選手がプロになって活躍している姿を見ていろいろ思うこともありましたし、友達から『ユースに上がっていたら高校卒業後にプロになれたよ』と言われることもありましたけど、自分の意志で選択したからこそ、これからの人生で巻き返せる自信はありました。今もそう思って毎日過ごすことができています」

Q.自分で決めた場合、後悔しないように頑張りますよね。
「時に後悔したり、違う選択肢を選んでおけばよかったと思うこともありますけど、人生の中で巻き返せるものだと思っています。自分の人生において、自分が決めてきたからこそ、すべてにおいて強い気持ちで取り組むことができるようになっています」

Q.「巻き返す」ことに関して、現在東京ヴェルディと同じカテゴリーで戦うことができています。追いつくことはできていますね。
「まだまだですね。ジュニアユースで一緒にプレーしていた中島翔哉は日本代表で背番号10番を背負っていますし、前田直輝は名古屋グランパスの中心選手として活躍している。そういう選手を見ていると、まだまだ自分は足りないところがたくさんあるなと感じます。早く同じ舞台に立ちたいという思いが強いです」

【Vision】

Q.「Vision」は「本気で何かに打ち込む人が増え、どんな生き方も尊重される世の中になる」という言葉です。
「この言葉はスタンス面談を重ねるうちに気づいたことです。世の中では何かに制限されて生きている人が多いなと思うんですよ。僕の周りでも大学卒業後、アマチュアでサッカーをするか、就職するか悩んでいながら、親からの説得によりサッカーをやめて就職の道を選んだ友達がいました。一方、プロサッカー選手になりたいからブラジルに留学した知り合いの中学生もいます。固定概念に縛られることなく、もっといろんな選択肢を持てる世の中の方がいいと思うんですよ。世の中、いろんな可能性があるんです。どんな生き方も尊重されるような世の中になったらいいなと思っているので、この言葉を選びました」

Q.レールを飛び出して挑戦する人を馬鹿にするような風潮ってありますよね。そういう人をもっと応援できる世の中になるといいですよね。
「本当にそう思います。スポーツだけでなく、芸術の世界でもそういう人はいると思います。自分のやりたいことをやって生きている人は素敵ですよね。子どもたちがいろんな生き方を選択できる世の中にしていきたいですね」

Q.それこそ、外山選手が東京ヴェルディのジュニアユースから前橋育英高校を進んだのも一般的なレールから外れた選択ですよね。
「前橋育英に行く時、『1年目から全国高校サッカー選手権大会に出て活躍する』ってでかい口を叩いていたのに、1年目はトップチームに上がれず、悔しくて地元に帰ることができませんでした。でも、その経験が今でも生きていると思っています。思い通りにいかなくても、諦めないようになりましたし、負けず嫌いの性格もそこでかなり培われたと思っています。なので、前橋育英に行ってよかったと思っています」

Q.プロになってからも出場機会に恵まれない時期が続きましたが、乗り越えられたのはその経験があったからでしょうか?
「そうだと思います。高校3年間で培ったことが今に生きていると思っています」

【Value】

Q.「Value」では「サッカーに対して真摯に向き合う姿勢を持ち続ける」というテーマが掲げられています。
「サッカーは好きなんですけど、サッカーに固執していないところもあるんです。周りの選手はセカンドキャリアに不安を持っている人もいますし、サッカーが好きでカテゴリー落としてもサッカーを続けたいという人もいる。でも、僕はそういう考えではありません。自分が理想とする人生を送るためにサッカーをやっているんです。サッカーで生きていけなくなったら、サッカーをやめていいと思っています。別にサッカーに対していい加減に取り組んでいるわけではないです。これだけ頑張って行くチームがなくなったら、仕方ないと思えるぐらい割り切るようにしています。それは同時に、真摯にサッカーに取り組んでいるということだと思うし、それぐらいやらないと周りに認めてもらえない。こういう発言をすることは紙一重だと思っていて、このインタビューを読んで『外山はサッカーをどうでもいいと思っている』と感じる人がいるかもしれません。そう思わせないためにも、日々必死になってサッカーと向き合うことが大事だと思っています。サッカーやめてもいいと言っている分、その分、プロのサッカー選手である限り、真摯にサッカーと向き合う。それが僕のポリシーです」

Q.理想の人生とは?
「スタンス面談を通して、自分がどういう人間なのかを見つめなおしました。もちろん、経済的に成功したいという思いはあります。でも、ただ儲ければいいとは思っていません。人とつながりながら、成果を出して対価が出るお金にこそ価値があると感じています。なので、人とのつながりを大切に生きていきたいですし、そういった事業にしていきたいという思いがあります」

Q.人とのつながりはサッカーでもとても大切なことです。
「自分が今まで想像していたリーダー像は強い人でした。でも、水戸に来て、ホソさん(細川淳矢選手)と出会って考えが変わりました。ホソさんは決して強いリーダーではありません。でも、すごく人を惹きつける力があるんです。チームの誰もが『ホソさんならついていこう』と思える存在なんです。いろんなリーダーがいることをサッカーを通して知りましたし、サッカーが自分の考えを広げてくれました」

Q.ある選手が言っていたのですが、外山選手はベンチからでもすごく声を出してアドバイスをくれると。そういうことも意識しているのですか?
「2年前ぐらいまでは自分が試合に出られない時は悔しくて、素直にチームを応援できませんでした。ひねくれていて、監督やGMに文句を言うことがありました。そういうことをしている時は何もうまくいかないんです。ひねくれている時は自分の思いとは逆に物事が進むんですよね。自分のポジションの選手が活躍したり、チームがいい形で勝ったり。なので、気持ちを入れ替えて、試合に出てなくてもチームが勝つためにできることをしようと思うようにしたんです。それから、いろんなことが好転するようになりました」

Q.「Value」のテーマの下に3つの項目が書いてあります。一つ目が「誰よりも早く行く」とありますが。
「サッカーに対して向き合うということと関係しているのですが、24時間の中でサッカーに取り組む時間ってあまり多くないんですよね。練習は2時間。自主練習が30分。プラスしてウエイトトレーニングして、帰宅して映像を見るぐらい。その中で他の選手と差をつけるために、僕はなるべく早くクラブハウスに行って準備をするようにしています。プロ2年目から毎日一番早くクラブハウスに行くようにしているんです」

Q.それを続けることが大事ですよね。
「それが直接プレーに影響はないかもしれません。でも、それを続けることによって、自分の自信になると思っています」

Q.次は「相手の分析と自分の分析」とあります。
「今まで試合を映像で見ることをしてきませんでした。でも、昨年長谷部茂利監督はものすごく相手の分析をしていて、その結果、多くの試合で勝つことができました。単純に『すごいな』と思えたんですよ。サッカーでは戦術や戦略がかなり大きなウエイトを占めるということに気づくことができたんです。相手の分析をかなりやるようになりましたし、自分の分析に関しては、今まで修正するために悪かったプレーばかり見ていたのですが、最近はいいプレーもたくさん見るようにしました。再現性を高めるために、なぜいいプレーができたのかを考えるようにしています。偶然ではなく、必然的にいいプレーを出せるようにすることを意識するようになりました」

Q.次は「自分にとって必要なことを採り入れる」とあります。
「今は栄養やトレーニングに関して、いろんな考え方があります。たとえば、トレーニングではあえて筋トレをせずにしなやかに動く体づくりをするという考え方がある一方、バンバン筋トレをして相手より強くなる体づくりの考え方もある。正解はないと思うんですよ。その中で自分に何が向いているのかを考えて、取り組むことが大事だと思っています。そして、自分が『これだ』と思ったことを貫くことが大事だと思っています」

【スローガン】

Q.「スローガン」は「一度きりの人生を全力で」。先ほど話をしていただいた言葉ですね。
「今振り返ると、高校時代も『もっと練習できたな』とか、『もっとこういう意識で取り組めたな』と思うこともあります。後悔することはたくさんあります。そういう後悔はいつになっても出てくると思うのですが、それをできる限り少なくするために、すべてに全力で、毎日100%で生きたいと思います」

Q.シーズン残り少なくなってきました。
「J1昇格の可能性はなくなってしまいましたが、水戸史上最高の順位を記録することによって、『いいチームだった』と思えるし、周りの人からも言ってもらえると思う。そのためにも全員で戦って、いい形で終わりたい」

Q.外山選手自身、プロになってはじめてシーズン通して主力として活躍しています。充実した日々を過ごせているのでは?
「起用してくれる監督に感謝しています。だからこそ、勝利に貢献するプレーをすることが監督やクラブに対しての恩返しになると思っているので、残り試合はそこにこだわってプレーしたいと思います」

【ⓒMITOHOLLYHOCK】

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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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