求めるアスリートは「情熱の強さと努力を惜しまない者」【第1期生】ライフスキルトレーニングプログラムの受講者募集

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【JAAF】

日本陸連は11月6日、総合人材サービス企業として高い実績を持つ株式会社東京海上日動キャリアサービスのサポートのもと、大学生アスリートを対象とする新たなキャリア形成に取り組んでいくことを発表。そのファーストステップとして、「ライフスキルトレーニングプログラム」を12月よりスタートさせることをリリースし、受講者の募集を開始しました。

応募に関する詳細は、別途掲載している募集要項( https://www.jaaf.or.jp/news/article/14473/ )を参照いただくとして、ここでは、プログラムをスタートさせた経緯や、実施によって目指そうとしていることなどを中心に、このプログラムの概要をご紹介しましょう。


◎競技力向上とキャリア自立の両方を実現させよう!

日本陸連では、「一人でも多くの人が陸上競技を楽しみ、関わり続けていけること」を目指して、2018年に長期的展望に立った競技者育成の方向性を具体的に示した「競技者育成指針」( https://www.jaaf.or.jp/development/model/ )を策定しました。推進にあたっては、「人材育成は、強化の重要な一部」という認識のもと、競技力の向上と並行して人間力(人間性)を高めたりデュアルキャリアを形成したりすることの重要性も盛り込まれており、それによって競技者が社会に貢献しながら競技を続けていくこと、あるいは長年競技に取り組んできた者が競技生活を終えたあとに社会で活躍していくことを期しています。

もともと、アスリートは、競技生活において自己研鑽を続けるなかで、さまざまな面で高い素養を身につけていきます。それらは、誰もが得られるわけではない特別なものであり、一般社会で求められる能力やスキルに応用できる面が多いことから、競技以外の場面、例えば社会人として働くときなどにも大きな強みや武器になり得るのですが、「そもそも自分が高い能力を獲得できているという認識がない」あるいは「一般社会で求められる能力に変換するノウハウを持っていない」さらには「口下手だったり、寡黙だったり、または謙虚さが裏目に出たりして、自己表現が上手にできていない」などの理由から、うまく活かしきれていないことが課題となっていました。

今回の取り組みは、そこに一歩踏み込んでアプローチしていこうとするもの。「キャリア支援」という側面では、これまで日本オリンピック委員会(JOC)による就職支援制度「アスナビ」を活用するケースもありましたが、コロナ禍の影響により、今後、ますます就職難となっていくことも考えられるだけに、ただ支援を待つのではなく、競技生活を送っている間に、「ライフスキルトレーニング」を継続的に取り組むことによって、競技力向上とキャリア自立の両方を実現させようとしています。

このプログラムの陣頭指揮を執る日本陸連強化委員会の山崎一彦トラック&フィールドディレクターは、「単に就職をする術(すべ)としてだけでなく、陸上競技を通じてライフスキルを高めることによって、“競技者として”と“社会で求められる人材として”の、双方が高まっていくことを目指したい。その先に、競技を続けながら会社員として働く人、または競技(人生)を終えて会社員として働く人、または陸上競技(界)に戻ってきて社会貢献してくれる人材が増えたらいいなと思っている。また、所属する場所において“さすが陸上の出身だね”と言われるようであってほしいし、将来的にはリーダーとして社会を引っ張り、陸上界やスポーツ界の発展に寄与してくれるような人材になってほしい。このプログラムを通じて、そういう人材を育てていきたい」と期待と意欲を示しています。


◎競技とキャリアの両面で、「自分の“最高”を引き出す」技術を学ぶ

ここまでに何度か「ライフスキル」という言葉が出てきますが、読者の皆さんのなかには耳慣れないという方もいるかもしれません。「ライフスキル」は、近年、教育や心理学の現場などでよく用いられるようになっている言葉で、世界保健機関(WHO)では、「日常の様々な問題や要求に対し、より建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」と定義し、これを実現するために必要な10のスキルとして、意志決定、問題解決、創造的思考、批判的思考、効果的なコミュニケーション、対人関係、自己認識、共感性、情動への対処、ストレス対処を挙げています。簡単に言うならば「生き抜くための技術」といったところでしょうか。

今回、東京海上日動キャリアサービスが用意しているのは、「頂点を目指す競技者の持つスキル・能力と社会で求められるスキル・能力には共通するものがあるという考え方に基づき、社会で求められる力を競技生活のなかで習得していくことを目指したライフスキルトレーニング」とのこと。本プログラム実施の発表に際して、同社代表取締役の田崎博道社長は、「このトレーニングで、競技においても自らの人生においても、自分の“最高”を引き出す技術を習得してもらうために、日本最高レベルのスポーツ心理学博士を特別講師に招き、社会で活躍している方々とのワークショップやグループディスカッションを組み合わせたプログラムを開発した」とコメントしています。

今年度は、12月から来年3月までに月1回の頻度で全4回の研修を実施。特別講師として、最先端のスポーツ心理学を活用して組織づくりやチームづくり、個人のパフォーマンス向上などを手掛けるスポーツ心理学博士の布施努氏(NPO法人ライフスキル育成協会代表、慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員)を迎え、10〜20名程度の受講者を対象に、以下のようなテーマでライフスキルトレーニングを展開していく計画です。


【トレーニングプログラムのテーマと概要(予定)】
・第1回(2020年12月):オリンピックメダリストに共通する5つの特徴
→頂点に立つ人に共通する思考方法を共有し、ワークショップを通じて現在の自分と理想の自分とのギャップを認識する。同時に、それが競技におけることだけはない点を知る。
キーワード:ピーキング、楽観主義、内発的モチベーション、完璧主義、オートマチズム
・第2回(2021年1月):トップアスリートの「目標の使い方」
→目標を設定するにとどまらず、目標を使いきるための考え方を学ぶ。他人との比較ではなく、自分の最高の状態と現在の状態を常に比較し、最高に導くためのチャレンジ(C)とスキル(S)のバランスの保ち方を理解する。
キーワード:ダブルゴール、縦型比較思考、CSバランス
・第3回(2021年2月):フローを生み出す自己決定能力の5ステップ
→自分の力を最大限に引き出す動機付けのあり方を学ぶ。現時点の自分の活力の源泉を認識し、さらに高めるためにどうするかを考える。また、試合における緊張感をパフォーマンスに繋げるための認知評価について学ぶ。
キーワード:外発的動機付けと内発的動機付け、認知評価理論
・第4回(2021年3月):重要な時に力を発揮する「獲得型思考」
→ピンチに陥っても、その状況下で成果を残すアスリートの獲得型思考を学ぶ。CSバランスを高度に保ちながら、結果を残し続けるために必要な習慣とは何か。オートテリック=自己目的的パーソナリティのパワーとそれを身につける方法を考える。
キーワード:獲得型思考と防御型思考、オートテリックパーソナリティ


◎今年度が第1期の募集。プログラム自体は継続して展開

山崎ディレクターによると、このプログラム自体は、来年度以降も継続して行っていくことを前提にしているといいます。応募資格に、「2020年11月時点において大学2年生が望ましい」の記載があるのは、「一応のゴールの目安は大学院も含めた大学卒業時点と考えている」(山崎ディレクター)ことが理由。つまり、今回行うのは1期生の募集ということになります。

このため、「初年度となる今回は、まずはスポーツ心理学の観点から、“自分の気づき”というような非常に基本的な内容を学んでもらう。この講座で、しっかりベースをつくったうえで、仕事理解・社会理解のワークショップを経験し、そのなかで自己の能力をさらに高めていく。東京海上日動キャリアサービスは総合人材サービス企業。こうして受講者にプログラムのなかで必要なスキルを身につけさせた状態で、大学3年生、4年生になったときにスペシャリストの立場で企業研究や個別相談、さらには企業とのマッチングのサポートをお願いしていく」(山崎ディレクター)という展開を想定した設えとなっています。同時に、来年度には2期生として、再び、その時点の大学2年生を対象に募集を行い、このサイクルを長く、地道に続けていくことを目指しているといいます。


◎応募者に求めたいのは、情熱の強さと努力を惜しまない者であること

前述の通り、受講生の募集は、すでに11月6日から始まっており、11月16日が期限となっています。エントリーに際しては、プロフィルとともに、「陸上競技を通して自分はどう成長しているか。競技生活を終えた後、どんな人生にしていきたいか」を800字以内で執筆して提出。これをもとに一次選考通過者を決定し、11月24〜27日に選考委員によるオンライン面接を行い、12月1日に受講者を決定するスケジュール。プログラムは、12月7日にスタートします。

応募資格としては、募集要項には以下の5項目が挙げられました。
1)競技者として自分の最高を引き出すための努力を惜しまない者。
2)就職後、仕事およびスポーツ活動の両立を目指し、競技引退後は企業での活躍や社会貢献をする意欲のある者。
3)企業への就職を希望し、将来的に企業でのキャリアで得た経験や知識を陸上競技やスポーツ界に還元したい意欲のある者。
4)2020年11月時点において大学2年生が望ましい。※大学3年生および大学院1年生については双方で相談する。
5)競技力レベル:日本学生主要競技会入賞レベル、日本選手権出場レベルの本連盟登録競技者が好ましい。

4)5)において、対象として希望する年代や競技レベルの記載はありますが、どちらも必須事項とはなっておらず、1)2)3)を満たしていれば、応募自体は可能です。

山崎ディレクターは、「選考にあたっては、どういう点を見ていくか?」という問いに対して、「まずは情熱の強さ。そして、努力を惜しまない者であるかどうかということ」と答えました。加えて、「対象者はいろいろ。競技レベルや卒業後に競技を続けるかどうかは問わない」とも述べ、応募資格の1)〜3)項を重視して、選考を進めていく意向を示しています。

「一所懸命に陸上競技をやってきた人たちが、このプログラムを通じて、より良い形で社会に巣立ち、その先で活躍してほしいし、また、このプログラムをきっかけとして、陸上競技に長く携わっていく人を増やしていきたい」と山崎ディレクター。「今回は、エントリー期間が短いなかでの募集となってしまったが、強い意欲を持って取り組んでくれる競技者に、ぜひ応募してもらいたい」と話していました。



文・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)

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