2冠を目指す中田翔。セイバーメトリクスに表れない「すごさ」とは?

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約10年間にわたって、ファイターズの主砲として活躍を続けてきた中田選手

 ファイターズの主砲・中田翔選手。これまでもチームにとって貴重な長距離砲として長年にわたって活躍を続けてきたが、プロ13年目となる今季は、持ち前の勝負強い打撃にさらに磨きがかかっているといえよう。10月20日の時点でリーグ2位の29本塁打、同トップの101打点。自身3度目の打点王、そしてキャリア初の本塁打王という、リーグ二冠王の栄冠に輝く可能性も見えてきた。

 そんな中田選手が2019年までに残してきた年度別の成績は、下記の表の通りとなっている。

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 2011年以降は9年連続で15本塁打以上を記録しており、広い札幌ドームを本拠地としながら一定以上の長打力を示し続けてきた。打点に関しても、シーズン100打点を4度記録し、直近の6シーズン中5シーズンで80打点以上をマーク。2度のリーグ優勝、1度の日本一にも4番打者として大きく貢献するなど、安定してチームに得点をもたらしてきた存在だ。

 その一方で、打率に関しては高くても.260台にとどまることが多く、キャリアで唯一打率.300超えを果たした2013年は、故障の影響で残念ながら規定打席未到達。出塁率の面でも近年はやや苦戦するシーズンが多く、出塁率と長打率を足して求める「OPS」という指標においても、直近4シーズンは.600台から.700台という、平均レベル、あるいはそれ以下という値にとどまっており、主砲としてはやや物足りない数字となっている。

 しかし、中田選手の特長はチャンスでの勝負強い打撃や、1点が欲しい場面で確実に犠飛を打ち上げるといった、チームにとって貴重な得点をもたらすことのできる打撃にもある。セイバーメトリクスの分野において、打点は周囲の環境や運の要素が強い、といった理由で評価の対象外とされるが、中田選手の長所は、そういった各種指標の範疇外の部分にあるとも言えそうだ。

 今回は、中田選手がこれまでに残してきた特徴的な数字や各種のデータについて紹介。セイバーメトリクス的な観点からは図れない中田選手の貢献度について、あらためて考えていきたい。(考察に用いた成績は2020年10月18日の試合終了時点)

打点を積み上げるペースは、現役選手の中ではトップクラスの速さ

 中田選手の大きな特徴の一つとして挙げられるのが、長年にわたって積み上げてきた打点の多さだ。現役選手の中での通算打点ランキングの上位6名と、それに付随する各種の数字は、以下の通りとなっている。

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 中田選手は現役選手の中では5位という順位に位置しているが、各選手の試合数に目を向けてみると、中田選手の試合数は上位の中では少ないほうである。上記の選手たちの打点数を試合数で割った結果を、下記の表にて紹介したい。

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 現役1位の中村選手には及ばないものの、中田選手が上位6名の中ではそれに次ぐペースで打点数を積み上げていることが、この数字にも示されているといえよう。まだ31歳という年齢を考慮しても、中田選手の通算打点が今後さらなる高みへと向かっていく可能性も十分だろう。

 また、上記の通り、中田選手は10月18日時点で通算928打点と、通算1000打点まで残り72まで迫っている。これまでに通算1000打点を記録した選手は46名であり、通算2000安打(52名)よりも希少な記録と言える。いよいよ大台まで残り2桁と迫った中田選手にとっても、4番打者としての一つの勲章といえそうだ。早ければ来季にも達成の可能性がある大記録に向けて、これまで同様のハイペースで打点を積み上げていってほしいところだ。

歴代2位となる、シーズン13犠飛を放った技術は伊達ではない

 先ほど取り上げた打点数にもつながるデータの一つに、中田選手が記録してきた犠飛の数がある。2018年に記録したシーズン13犠飛という数字は、長い日本球界の歴史においても史上2番目の多さという、まさに突出した数字だった。また、今季も既に9個の犠飛を記録しており、2度目のシーズン2桁犠飛の可能性も十二分に残されている。

 ここでは、現役選手の通算犠飛のランキング上位5傑および、それに付随した数字についても見ていきたい。

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 中田選手は1位の内川選手に4個差と迫っており、十分に現役トップを狙える位置につけている。それでいて、試合数に関しては打点と同じく、他のランキング上位の選手と比べてかなり少なくなっている。上位5選手の犠飛数を試合数で割った値は、以下の通りとなっている。

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 この数字を見る限り、上位5名の中でも中田選手の犠飛を打つペースは頭一つ抜けていると言えよう。中田選手の犠飛を打つ能力は、現役選手の中でもトップクラスと形容していいはずだ。「最低でも犠飛」という状況でしっかりと仕事をしてくれるという点も、中田選手が持つポイントゲッターとしての優れた資質を示していると言えそうだ。

“絶好球”を逃さず打ち込んでいるが、それ以外にも……

 次に、今季の中田選手の投球コース別の打率についても見ていきたい。

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 まず、ど真ん中に対して打率.429と、まさに好球必打が徹底できている点が目を引くところ。また、高めの2コースやインコースの真ん中、真ん中の低めに対しても高い打率を記録しており、アウトローや内角低めといった難しいボールへも年間打率(.243)を上回る数字を記録している。

 外角高めを.152とかなり苦手としているものの、それ以外のストライクゾーンに関しては明確な穴と言える箇所はない。総じて、今季の中田選手は多くのコースに対応できていると言ってよさそうだ。

今季の中田選手には、強打者への定石が通用しない?

 投球コースに続けて、中田選手が今季記録している球種別の打率についても紹介していきたい。

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 シュートとシンカー・ツーシームという、右打者にとっては内に食い込んでくる球種に対してかなり高い打率を残している点も特徴的だ。先ほどのコース別打率でインコースを得意としていた点も含め、「強打者に対してインコースを攻める」という定石にへのリスクをバッテリーに背負わせている。

 その一方で、スライダー、カーブといった外側に逃げていく変化球への対応に苦慮していることもうかがえる。コース別の打率では、アウトコース高めを除けば外側のボールを極端に苦手とはしていないだけに、これらの球種に対する数字が改善されてくれば、さらに成績が向上する可能性も秘めているだろう。

難しいボールであっても、きっちり外野まで運んでみせるプロの技

 最後に、中田選手の特徴の一つともいえる犠飛について、その内訳をより詳細に見ていきたい。今季記録した9本の犠飛のうち、ど真ん中の絶好球を打って記録したものは1本のみ。9本のうち3本がボールコースの球を打って記録したものとなっており、厳しいコースの球であっても、きっちり外野まで運ぶことができる技術の高さを示している。

 ボール球を打って記録した3本の犠飛の内訳を見ていくと、リック・バンデンハーク投手が投じた低めのボールゾーンに落ちるカーブ、同じく低めのボールとなる美馬学投手の決め球・フォーク、今井達也投手が高めのボールゾーンに投じた154km/hの速球といった、通常であれば当てるのが難しい球ばかりであった。そういった球であってもきっちりと外野まで運んでしまう中田選手の技術には、ただただ驚かされるばかりだ。

 また、今季の犠飛の中にはカーブを打って記録したものが2本あり、苦手の球種であっても犠飛のシチュエーションでは捉えることができている。

4番打者として、そしてチームの精神的支柱として

 先ほど述べた通り、チャンスで確実に打点を稼ぐ能力や、「最低でも犠飛」という状況できっちりと外野の深い位置まで打球を飛ばす能力といった中田選手の長所は、セイバーメトリクスの観点からは評価の対象外とされているのが実情だ。しかし、ここまで紹介してきた数字や、今季の好調ぶりを示す各種の成績を見る限り、中田選手のチームに対する貢献度の高さは、もはや疑いようのないところだろう。

 中田選手は2018年オフ、このシーズンに取得したFA権を行使せず、ファイターズに残留することを選択。若手の多い現在のチームにとっても、長年にわたって主砲としてチームを引っ張ってきた中田選手の存在は、精神的支柱としても大きなものとなっている。こうしたリーダーとしての貢献度というものも、当然ながらデータでは計ることのできないものだ。

 新陳代謝の活発なチームにあって、約10年間にわたってレギュラーを貼り続けている中田選手。その継続性の高さと“勝負強さ”という無形の価値は、これからもファイターズに多くの得点と、かけがえのない白星をもたらし続けてくれることだろう。

文・望月遼太
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