史上初の凱旋門賞3勝目へ、強敵回避でエネイブルに追い風
【昨年はヴァルトガイストに阻まれ3連覇を逃したエネイブル(Photo by Press Association)】
今年のエネイブルは初戦のエクリプスSで2着に敗れ、J.ゴスデン調教師も年齢的に調整が難しくなってきたことを認めるなど不穏な立ち上がり。英オークスを9馬身差で圧勝したラブが凱旋門賞の前売り1番人気に推され、夏を過ぎても劣勢に立たされていた。ところが、パリロンシャン競馬場の周辺は週初から天気が崩れ、29日の段階で馬場状態を表すペネトロメーターの数値は重から不良に相当する4.0(数字が大きいほど悪い)。翌30日も3.9と、昨年の凱旋門賞当日(4.1)に匹敵するほど悪化している。
現地はレース本番の週末まで雨まじりという予報が出ており、昨年は稀に見る消耗戦を走り抜いて負けてなお強しの内容を残したエネイブルにとっては朗報。最大の敵が戦わずして去ったのだから、流れが向いてきたのは間違いない。戦況はエネイブルの1強。これを他の14頭がいかに打開するかだ。
大将格だったラブを欠く事態となったA.オブライエン調教師は、追加登録の英ダービー馬サーペンタインを含むG1ホース4頭出しで打倒エネイブルに挑む。主戦のR.ムーア騎手が選択したのは、前哨戦のパリ大賞勝ちで勢いのあるモーグル。武豊騎手が手綱を取る全兄ジャパンとの兄弟制覇でもあり、高いコース適性を感じさせる勝利となった。そのパリ大賞は良馬場で鋭い瞬発力を披露したが、兄のジャパンが昨年の凱旋門賞で4着と重馬場をこなしたことから、レース当日が道悪になっても不安はなさそうだ。
一方、武豊騎手の大願成就を担うジャパンは、昨年の凱旋門賞でエネイブルから2馬身1/4差と大きく負けていない。今年は4戦未勝利だが、初戦から動けるタイプではないにもかかわらず、エクリプスSはエネイブルと叩き合ってアタマ差。3戦目はレース中に挫跖のアクシデントがあり大敗、それから立て直しながらの前走と、それぞれに敗因を探ることができる。いわば叩き2戦目のような形で迎える今回は巻き返しても不思議はないだろう。
また、サーペンタインは7万2000ユーロ(約890万円)を投じての追加登録で勝負度合い十分。前走のパリ大賞では僚馬モーグルから4馬身余りの4着に敗れたが、当時は大逃げの英ダービーから好位差しに回り、結果として瞬発力が不足した。引き続き手綱を託されるC.スミヨン騎手は逃げの方が良いという感触を得ており、英ダービーと同じ型を試すと話している。そうなると、昨年の愛ダービーを大逃げで制した同門のソヴリンは2番手以降に控える格好か。モーグルを含め、今年の英ダービー組は低レベルの烙印を押されているが、コロナ禍で始動が遅れた世代だけに決めつけは危険。サーペンタインの出方は勝負の行方をも左右する。
エネイブルをめぐりもつれる展開になれば、ゴスデン厩舎の僚友ストラディバリウスにもチャンスが訪れる。無敵の長距離王にして、ステイヤーらしからぬ瞬発力も備えており、昨年のような持久戦は望むところ。良馬場でスピードを問われると不利は否めなかったが、ゴスデン勢には天の後押しがあるようだ。
ネイブルの3連覇を阻んだA.ファーブル調教師の管理馬であるペルシアンキング(右)。 【Photo by Press Association】
また、フランス勢は前哨戦のパリ大賞でインスウープ、ヴェルメイユ賞でラービアーが2着。インスウープは稍重(Good to Soft)の独ダービーを3/4馬身差で制したが、当時の2着馬と3着馬(4位入線から繰り上がり)は9月のバーデン大賞で英国から遠征した6歳馬バーニーロイに完敗している。当時のバーニーロイは初の2400m戦でもあった。一方、前走のラービアーは位置取りが後ろすぎた面こそあるものの、4歳のタルナワに3馬身差をつけられたうえ、ここまで道悪での重賞勝ちもない。インスウープともども対古馬の実力に見劣りがあるか。この2頭との比較なら、道悪を苦にせず、近走は距離に対応してきたウェイトゥパリスが盲点になっている印象も。
日本馬唯一の参戦となったディアドラにも注目。 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
(渡部浩明)
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