進化を続ける優良助っ人、ステフェン・ロメロ。データから見える大活躍の理由とは?

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移籍初年度から、チームに欠かせない存在となりつつあるロメロ選手

 来日4年目を迎えた助っ人にとって、今季はキャリア最高のシーズンとなりそうな気配だ。3シーズンにわたってオリックスで活躍したステフェン・ロメロ選手が、今季から楽天に新加入。あっという間にチームに溶け込み、確実性と長打力をあわせ持った打撃を活かして、チームの主軸の一人として出色の活躍を見せている。

 そんなロメロ選手だが、オリックス時代に相次ぐケガに悩まされてきたこともあってか、今季も序盤戦においては、もう1名の助っ人大砲であるジャバリ・ブラッシュ選手と併用されるケースも少なくなかった。そんな中で、リーグ1位タイ(8月9日終了時点)の14本塁打、同2位の打率.348という数字を記録し、成績の面でも優秀な数字を残している。

優秀な数字を残していた2019年から、さらに打撃内容を進化させている

 これだけの打撃成績を残しているロメロ選手が時には6番以下を打つこともあるという事実が、今季の楽天打線の脅威をより強めているのは間違いないところ。ただ、ロメロ選手は昨季まで在籍したオリックスにおいても、出場した試合では常に優秀な成績を残していた。ロメロ選手がこれまで日本球界で残してきた成績は、下記の表の通りとなっている。

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 規定打席に到達したシーズンこそ2018年の1度のみだが、昨季は81試合の出場にとどまったものの、打率.305、OPS.902と、出場した試合ではハイレベルなパフォーマンスを見せていた。また、来日初年度の2017年も26本塁打、OPS.838と十分な数字を残しており、故障さえなければその実力は一流レベルといえよう。

 その一方で、打点に関しては3年続けて60点台と、その打撃能力からすればやや物足りないものとなっている。だが、昨季はわずか81試合で63打点を挙げている点は特筆もので、143試合に換算すると約111打点と、2019年の打点ランキングにおける第3位に相当する数字だ。

 以上のように、オリックス時代から優れた打撃内容を示していたロメロ選手だが、やはり、OPS1.100を超える破格の数字を残している今季の活躍ぶりは目を見張るものがある。今回は、各種の指標や、コース別や球種別の成績、打球方向といった要素を基に、ロメロ選手が今季見せている活躍の理由について、より深く掘り下げていきたい。

ロメロ選手が9人いれば、1イニングに1点ずつ入る!?

 ここからは、セイバーメトリクスの分野で用いられる指標をもとに、ロメロ選手の得点能力について評価していきたい。

 野手の得点能力を示す数値である「XR(eXtrapolated Runs)」、ある打者9名で打線を構成した場合、1試合平均で何点取れるかを示す「XR27」、打率よりも長打と四球の数を重視した指標であり、“第二の打率”とも呼ばれる「SecA(Secondary Average)」という3つの指標におけるロメロ選手の成績は、それぞれ以下の通りとなっている。

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 XRの計算には各種の安打数、四球、盗塁数といった積み上げ式の数字が多く用いられることもあり、出場試合数の少なかった2019年と、まだシーズンの3分の2近くを残している2020年に関しては、XRの値は優れた打撃内容と比較するとやや控えめなものとなっていた。

 だが、そのXRをもとに計算されるXR27においては、その打撃内容に即した変化が生じているといえよう。直近の2年間では1シーズンごとに約2点ずつ数字を向上させており、2020年にはロメロ選手が9名いれば、1イニングに1点以上が入るという領域にまで達している。盗塁数も評価対象となるXR27において、今季0盗塁のロメロ選手がこれだけの数字を記録している事実は特筆に値するだろう。

 また、SecAにおいても昨季までに比べて.160以上の差が出ており、こちらの面でも長足の進歩が見られる。長打力、出塁率ともに、ロメロ選手にとっては従来からの長所といえる分野だったが、今季はそれらの武器をさらに研ぎ澄ませているということが、OPSを含めた各種の指標にも表れている。

ストライクだけでなく、ボールゾーンの球すらも打ち返す

 次に、今季のロメロ選手が記録している、投球コース別の打率について見ていきたい。

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 以上のように、多くのコースで打率.300以上を記録していることがわかる。特に、ど真ん中の打率が.750、インコース低めの打率が.857と、2つのコースを極めて得意としている点は興味深い。打者によってはこのコースなら高い確率でヒットにできるという、いわゆる「ツボ」のようなものを持っているケースが往々にしてあるものだが、今季のロメロ選手はそれが2つも存在するということになる。

 また、低めのボールコースの球に対しても一定の打率を記録しており、ローボールヒッターの傾向も持っているといえる。それでいて、高めの球に対してもストライクゾーンであれば.300以上の数字を記録しており、助っ人打者に対して釣り球として用いられやすい、真ん中高めのボール球に対しても.333と言う数字を記録。総じて穴が少ない打撃を見せていることが、今季の好成績にもつながっているといえよう。

 得意としているコースの多いロメロ選手だが、アウトコースの低め、インコースの真ん中という2つのコースに対しては、数字の面でもやや苦しめられているようだ。インコース、アウトコースともに他の高さに来る球は得意としているだけに、この2つのコースへの対応策を見いだせれば、さらなる打撃成績の向上も見込めるかもしれない。

球種別の打率にも表れる、その対応力の高さ

 続けて、今季のロメロ選手が記録している球種別の打率についても見ていきたい。

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 フォーク、カットボール、スライダー、シンカー/ツーシームに対しては打率.400以上の数字を残しており、速球とチェンジアップに対しても打率.300以上を記録。速い球にも緩い球にも対応できる能力の高さが、これらの数字にも表れている。コース別の数字だけでなく、球種ごとの数字でもその大半で優れた数字を残していることが、シーズンの3分の1が終了し、相手の研究が進んでからも好調を継続できている理由の一つでもあるだろう。

 大半の球種に対応している一方で、シュートに関してはやや対応に苦慮しているとも取れる数字が残っている。ただ、シュートに近い球種であるツーシームやシンカーに対しては、全球種の中でも最も高い打率を記録しているという面もある。それだけに、今後改善が見られる可能性も大いにあるのではないだろうか。

長距離砲らしく、安打は左方向が多くなってはいるが……

 安打になった打球の方向に目を向けると、左方向が14本と最も多く、センター方向が9本、左中間方向が8本、右方向が4本、右中間は0本と、長距離砲らしく引っ張って記録した安打がやや多くなっていた。その一方で、逆方向への打球は少なかったものの、センター返しの数もやや多くなっており、引っ張り専門ではないという点も興味深い。

 その傾向がより顕著となっているのが本塁打の方向で、右方向への本塁打が2本だったのに対し、中堅方向と左方向がそれぞれ6本と、センターから左への本塁打に関しては同数となっている。柵越えも含めてセンター方向に強い打球を飛ばすことができるという点も、ロメロ選手が持つ大きな特徴の一つだ。

本塁打の内訳にも、高い打撃技術が反映されている

 最後に、ロメロ選手が今季放った本塁打の内訳について見ていこう。左方向への6本塁打は、カットボールが3度、スライダーが2度、カーブが1度と、スライダー系の球種を引っ張ったものが多くなっている。コースとしてはインコース低めの球をうまく拾ったものが3本、アウトコース高めに入ってきたカットボールを引っ張ったものが1本、ど真ん中に入ってきた変化球を逃さずに捉えたものが2本と、対応力の高さが示されている。

 右方向への2本塁打は、いずれも外角真ん中へのストレートを逆方向に流し打ったもので、無理に逆らわずにスタンドまで持っていく打撃技術とパワーの詰まったもの。先述の通り、逆方向への安打の数自体は少ないものの、本塁打の数自体は引っ張ってレフト方向に運んだものと1本しか違わない点もポイントだ。

 そして、左方向と並んで多かった中堅方向への本塁打は、ストレートが4本、ツーシームが1本、スライダーが1本と、速球系の球が多くなっていた。投球コースに関してはアウトコースが3本、インコース高めが2本、真ん中低めが1本とさまざまであり、速い球を狙った際のタイミングの合わせ方の上手さと、先述した各コースへの対応力の高さが反映された内容といえる。

走攻守すべてにおいて全力の、まさに“優良助っ人”と呼べる存在

 数字に表れない面としては、走塁面でも貪欲に先の塁を狙う姿勢を持っており、時には二塁へのヘッドスライディングも敢行するなど、プロとして手を抜かない姿勢が垣間見えるところもロメロ選手の魅力の一つだ。守備でもフェンスに激突しながら好捕を見せるシーンもあり、その気概が若いチームに与える良い影響は、決して小さくはないことだろう。

 引っ張り専門ではなくセンター方向にも強い打球を飛ばすことができ、コース別、球種別の打率でもそれぞれ穴が少ない。各種の数字においても例年以上に優れた数字が記録されている今季のロメロ選手は、ケガに悩まされることさえなければ、かなりの打撃成績が期待できるのではないだろうか。

 豪快な打棒とたびたび見せるハッスルプレーで、加入初年度からチームに欠かせない存在となりつつあるロメロ選手。故障もあって高い実力を持ちながらこれまで個人タイトルとは縁がなかったが、開幕から圧巻の打棒を見せている2020年はまさに大チャンスといえる。今季こそケガに悩まされることなく、2年ぶり2度目の規定打席到達を果たし、このままタイトルを争うような活躍を見せ続けてほしいところだ。


文・望月遼太
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