【水戸】「水戸ホーリーホックが社会人チームを設立した理由。ファミリーチームとして地域出身選手の受け皿に」
【写真 佐藤拓也】
「Competitive sports(競技スポーツ)」と「Lifetime sports(生涯スポーツ)」
これまでいくつかのJリーグクラブが社会人チームを運営していたことはあるが、セカンドチームとしての意味合いが強かったそれらのチームとC&Lのコンセプトは異なる。
クラブHPには設立趣旨について、以下の説明が記されている。
1.セカンドチームではなく「ファミリーチーム」として、 サッカーを生涯スポーツと競技スポーツの両面から捉え、 地域のサッカーファミリーに必要とされるチームとなる。
2.学生時代を地域で過ごしたサッカー選手や水戸ホーリーホックアカデミー出身者が、社会で活躍しながら、「我が街」でのプレーを続けられる環境を整備する。
3.地域社会における「人材不足」という課題に貢献し、地域と共に発展する。
「C&L」というチーム名には「Competitive sports(競技スポーツ)」と「Lifetime sports(生涯スポーツ)」という意味が込められており、そこにチームのコンセプトが表れている。
「我々はセカンドチームという意味合いではなく、ユース出身の選手やこの地域の学校でサッカーをしていた人たちが地元に残って生涯スポーツとしてサッカーを続けるための受け皿となるために作りました」
佐野元則監督は説明する。
また、今後のビジョンについてもこう語った。
「今季は茨城県社会人2部リーグでの戦いとなりますが、現段階としては関東社会人1部リーグ昇格を目指しています。ただ、『生涯スポーツ』としていろんなレベルの選手たちにプレーしてもらいたいので、チームが上のカテゴリーに行ったら、また県リーグのチームを作ってもいいと思っていますし、市民リーグに参加するチームを作ってもいいと考えています」
さらに、「地域貢献も重要な役割」と佐野監督は言う。チームに所属する選手たちに対して、クラブが人材を求めている地域企業を探して紹介して、正社員として働きながらサッカーに打ち込んでもらう。「クラブが間に入って、選手にとっても、企業にとっても、WIN-WINの関係を築きたい」と佐野監督。人材の県外流出は地域社会にとって大きな問題。それを防ぐ役割も担おうとしている。
運命の初戦。劇的な勝利を飾る
活動再開から約1か月後の7月5日、チームは初の公式戦となる「第27回全国クラブチームサッカー選手権大会茨城大会」に挑んだ
準備時間をほとんど取れない状況下で佐野監督が最も意識したのは「カミーザ時代からの選手とセレクションで受かった選手たちの融合」。新チームとして発足したものの、半数以上がカミーザに在籍していた選手。同じチームに所属しながら、目的や意識が異なる選手たちをいかに一つにまとめるか。そのため、佐野監督は練習で指導するだけでなく、練習後には選手たちと食事に行くなど積極的にコミュニケーションを取って意思統一を図ってきた。ただ、一番重要なのは試合で結果を出すこと。それだけに最初の大会はチームの今後を見据えた上でも、大きな意味を持った。
そして迎えた初戦。序盤から苦戦を強いられた。開始早々に守備を崩されて失点すると、その後も防戦一方の展開が続いた。前半をなんとか1点差で終えると、後半は流れが一転。C&Lが反撃を開始したのだ。後半開始から投入された選手たちがアグレッシブに動き回り、相手陣内に押し込んでいった。そして中央から厚みのある攻撃を仕掛けて同点に追いつくと、勢いに乗り、相手守備の一瞬の隙を突いて逆転に成功した。
そのまま逃げ切りたいところだったが、終盤、ミドルシュートを叩き込まれて同点に追いつかれてしまう。しかし、選手たちは下を向かなかった。そして、ピッチ内ではこんな声が飛んだ。
「ホーリーホック、ここからだぞ!」
発足からわずか4カ月。コロナの影響により、チームとしての活動も数えるほどしかできなかった。それでも選手たちはホーリーホックの一員としての誇りを持って最後まで戦い抜いた。そして終了間際、勢いに乗った攻撃から豪快なシュートが決まり、劇的な勝利を収めたのだった。「これからチームが一つになるためにも大きな勝利」と佐野監督は顔をほころばせた。
初戦勝利で弾みをつけたC&Lはその後も勝利を重ねて、準決勝に進出。県内で有数の実績を誇る常陽銀行サッカー部と対戦した。1対2で迎えた後半アディショナルタイム、水戸ジュニアユース出身で背番号10をつける矢吹瑠偉が蹴ったFKがゴールに決まり、またしても執念を見せて、土壇場で同点に追いついた。しかし、PK戦の末、敗戦。優勝を逃すこととなった。それでも、初の公式戦としてチームは大きな一歩を踏みだしたことは間違いない。
「水戸でサッカーを続けたかったので、このチームができてよかった」
矢吹は満面の笑みでそう口にした。
「高校卒業をして就職をすることになったんですが、サッカーを続けたくてチームを探していたところ、ホーリーホックの社会人チームが立ち上げられるということで応募しました。僕はジュニアユースに所属していたので、思い入れもありましたし、このチームでプレーしたいという思いが強かったです。今は仕事しながら、サッカーをするという生活ですが、こうやって地元でサッカーを続けられることに幸せを感じています」
「地域密着」を体現するもう一つの「水戸ホーリーホック」。挑戦の幕が開いた。
【写真 佐藤拓也】
【写真 佐藤拓也】
【写真 佐藤拓也】
【写真 佐藤拓也】
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