【新日本プロレス】棚橋の“V11”ロード終盤戦!『G1』覇者・中邑と頂上決戦!
【新日本プロレスリング株式会社】
その過程を最前線で随時見届けてきた“GK”金沢克彦氏が2010年代からの生まれ変わった“シン・新日本プロレス”に至る歴史を紐解く集中連載! 東日本大震災が起こった2011年の夏、中邑真輔の大逆襲が始まった!
文/金沢克彦
※以下、金沢克彦氏「シン・新日本プロレスが生まれた時代」第9回の序盤をSportsnaviで無料公開!
9.19神戸大会。IWGPヘビー級王者・棚橋弘至に『G1』覇者・中邑真輔が挑戦する珠玉の一戦。このビッグイベントを前に、なんと棚橋はメキシコへ渡った。
【(C)CMLL/Alexis Salazar】
その後、新日本プロレスには大一番が待ち受けていた。9.19神戸ワールド記念ホール大会。IWGPヘビー級王者・棚橋弘至に『G1』覇者・中邑真輔が挑戦する珠玉の一戦。
言ってみれば、長年ライバル関係にあった両選手が過去最高のシチュエーションで激突する格好となったわけである。
このビッグイベントを前に、なんと棚橋はメキシコへ渡った。メキシコCMLLからのオファーを受けて、8月下旬から9月半ばまでCMLLマットで連日メインイベンターを務めあげた。
約3週間の遠征中、棚橋は黒を基調にしたロングタイツにペイントを施し、ルードとして暴れまわった。殿堂アレナメヒコでは、観客のブーイングを浴びながら堂々とエアギターまで披露している。その間、新日本の11大会を欠場。9.19神戸が新日マット復帰戦、つまり前哨戦なしでのぶっつけ本番のタイトルマッチとなる。
コンディション的には厳しいかもしれないが、精神面は充実していた。帰国した棚橋は私にこう話してくれた。
「ペイントをしてコスチュームを変えるだけで、完全にスイッチが入るんですよ。引き出しが増えたというか、オレはますます進化しますよ。これからますます全国に“逸材感”を広めていくんです。棚橋は本当に100年に1人の逸材なんじゃないかと思わせる空気感。そのことを逸材感というんです」
新用語が生まれた。この時点で日本にプロレスが誕生してから60年ほど。それにも関わらず“100年に1人の逸材”と自称してきた棚橋が、新たに“逸材感”という言葉を口にした。それほど今回のメキシコ遠征は充実していたのだろう。
一方の中邑も自信に満ちていた。ここ最近、IWGPヘビー級選手権では4連敗。ただし、8月の『G1 CLIMAX21』で神がかったように名勝負を連発して初優勝を達成し、一気に自分のステージを上げてみせた。
「なぜ、今年に入ってからクネクネしはじめたんですか?」
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MCは清野茂樹アナウンサーで私が解説を担当し、新日本のビッグマッチ直前に主役となる選手を迎え、その展望を大いに語ってもらうという1時間番組である。
中邑の『G1』の全公式戦と優勝決定戦、さらに『ALL TOGETHER』の試合をダイジェストで流しながら、そこに中邑自身の解説を入れてもらった。
じつは4ヵ月前、5.3福岡国際センターで棚橋に挑戦する前にも、中邑は同番組に出演しているのだが、そのときとはまったく醸し出す空気が違っていた。
歯に衣着せぬ毒舌でトゲトゲしたムードを作り出すのが中邑流であったはずなのに、コメントも冷静で穏やか。攻撃的な発言があまり出てこない。こういうときこそチャンスだと思い、私は中邑に素朴な疑問をぶつけてみた。
「なぜ、今年に入ってからクネクネしはじめたんですか?」
おそらくこれが初めて世に出た回答だったと思う。中邑はすかすことなくストレートに語ってくれた。
「コマの原理を考えてほしいんです。コマは回転しているときに軸がしっかりしている。回転が弱いとバランスを崩す。だから常に動いていることによって、相手のどんな動きにも臨機応変に対処できる。もうひとつは、相手をバカにしているのもありますね(笑)」
なるほど。中邑本人の言葉によって、クネクネした動きが理論づけられた。そして、決定的なひとこと。
「いまの棚橋が相手なら楽勝です」
無論、メキシコ遠征前の棚橋を評しているのだが、そう言いきれるほど自信に満ち溢れていた。
この棚橋戦以降、中邑は一度もIWGPヘビー級王座に挑戦することなく、海を渡ったのである。
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26分を超える最高峰の激闘を制したのは棚橋だった。その最大の要因は、中邑の繰り出すボマイェをすべて完封してみせたこと。
最後はうつ伏せ状態の中邑へハイフライフロー。さらにトドメの正調ハイフライフローかと思いきや、ハイフライフローから瞬時にエビ固めへ移行するハイフライ・フロールで中邑から3カウント奪取。これで7度目の防衛に成功した。
「IWGP戦に5連敗。さげすめ! 罵れ! 批判しろ! それでもオレはまたIWGP、また闘ってやろうじゃないの。オレは前を向いて闘うかぎり、ベルトが近くまで寄ってくるんだ。相手が棚橋かどうか関係ない。ベルトを持つ相手、それが闘うべき相手だ」
敗れた中邑はそう胸の内をぶちまけた。ところが結果的に、この一戦が中邑真輔にとって最後のIWGPヘビー級選手権試合となった。この棚橋戦以降、中邑は一度もIWGPヘビー級王座に挑戦することなく、海を渡ったのである。
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