【新日本プロレス】棚橋の“V11”ロード終盤戦!『G1』覇者・中邑と頂上決戦!

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ここ数年で劇的な“V字回復”を遂げたことで知られている現在の新日本プロレス。しかし、その“復活”に至る道程には、いったい何が推進力となり、どんな選手が活躍したのか?

その過程を最前線で随時見届けてきた“GK”金沢克彦氏が2010年代からの生まれ変わった“シン・新日本プロレス”に至る歴史を紐解く集中連載! 東日本大震災が起こった2011年の夏、中邑真輔の大逆襲が始まった!

文/金沢克彦

※以下、金沢克彦氏「シン・新日本プロレスが生まれた時代」第9回の序盤をSportsnaviで無料公開!

9.19神戸大会。IWGPヘビー級王者・棚橋弘至に『G1』覇者・中邑真輔が挑戦する珠玉の一戦。このビッグイベントを前に、なんと棚橋はメキシコへ渡った。

【(C)CMLL/Alexis Salazar】

2011年8月27日、日本武道館で開催された32年ぶりのオールスター戦、『ALL TOGETHER』は大成功に終わった。

その後、新日本プロレスには大一番が待ち受けていた。9.19神戸ワールド記念ホール大会。IWGPヘビー級王者・棚橋弘至に『G1』覇者・中邑真輔が挑戦する珠玉の一戦。

言ってみれば、長年ライバル関係にあった両選手が過去最高のシチュエーションで激突する格好となったわけである。

このビッグイベントを前に、なんと棚橋はメキシコへ渡った。メキシコCMLLからのオファーを受けて、8月下旬から9月半ばまでCMLLマットで連日メインイベンターを務めあげた。

約3週間の遠征中、棚橋は黒を基調にしたロングタイツにペイントを施し、ルードとして暴れまわった。殿堂アレナメヒコでは、観客のブーイングを浴びながら堂々とエアギターまで披露している。その間、新日本の11大会を欠場。9.19神戸が新日マット復帰戦、つまり前哨戦なしでのぶっつけ本番のタイトルマッチとなる。

コンディション的には厳しいかもしれないが、精神面は充実していた。帰国した棚橋は私にこう話してくれた。

「ペイントをしてコスチュームを変えるだけで、完全にスイッチが入るんですよ。引き出しが増えたというか、オレはますます進化しますよ。これからますます全国に“逸材感”を広めていくんです。棚橋は本当に100年に1人の逸材なんじゃないかと思わせる空気感。そのことを逸材感というんです」

新用語が生まれた。この時点で日本にプロレスが誕生してから60年ほど。それにも関わらず“100年に1人の逸材”と自称してきた棚橋が、新たに“逸材感”という言葉を口にした。それほど今回のメキシコ遠征は充実していたのだろう。

一方の中邑も自信に満ちていた。ここ最近、IWGPヘビー級選手権では4連敗。ただし、8月の『G1 CLIMAX21』で神がかったように名勝負を連発して初優勝を達成し、一気に自分のステージを上げてみせた。

「なぜ、今年に入ってからクネクネしはじめたんですか?」

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思い出すのは、ちょうど棚橋がメキシコへ飛んだころの8月31日、サムライTVの月イチ番組『ニュージャパンライン』に中邑をゲストに迎え収録を行なったときのこと。

MCは清野茂樹アナウンサーで私が解説を担当し、新日本のビッグマッチ直前に主役となる選手を迎え、その展望を大いに語ってもらうという1時間番組である。

中邑の『G1』の全公式戦と優勝決定戦、さらに『ALL TOGETHER』の試合をダイジェストで流しながら、そこに中邑自身の解説を入れてもらった。

じつは4ヵ月前、5.3福岡国際センターで棚橋に挑戦する前にも、中邑は同番組に出演しているのだが、そのときとはまったく醸し出す空気が違っていた。

歯に衣着せぬ毒舌でトゲトゲしたムードを作り出すのが中邑流であったはずなのに、コメントも冷静で穏やか。攻撃的な発言があまり出てこない。こういうときこそチャンスだと思い、私は中邑に素朴な疑問をぶつけてみた。

「なぜ、今年に入ってからクネクネしはじめたんですか?」

おそらくこれが初めて世に出た回答だったと思う。中邑はすかすことなくストレートに語ってくれた。

「コマの原理を考えてほしいんです。コマは回転しているときに軸がしっかりしている。回転が弱いとバランスを崩す。だから常に動いていることによって、相手のどんな動きにも臨機応変に対処できる。もうひとつは、相手をバカにしているのもありますね(笑)」

なるほど。中邑本人の言葉によって、クネクネした動きが理論づけられた。そして、決定的なひとこと。

「いまの棚橋が相手なら楽勝です」

無論、メキシコ遠征前の棚橋を評しているのだが、そう言いきれるほど自信に満ち溢れていた。

この棚橋戦以降、中邑は一度もIWGPヘビー級王座に挑戦することなく、海を渡ったのである。

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9.19神戸大会は超満員の観客で埋まった。両国国技館クラスのカードなのだから、いまの新日本なら当然の観客動員となるだろう。

26分を超える最高峰の激闘を制したのは棚橋だった。その最大の要因は、中邑の繰り出すボマイェをすべて完封してみせたこと。

最後はうつ伏せ状態の中邑へハイフライフロー。さらにトドメの正調ハイフライフローかと思いきや、ハイフライフローから瞬時にエビ固めへ移行するハイフライ・フロールで中邑から3カウント奪取。これで7度目の防衛に成功した。

「IWGP戦に5連敗。さげすめ! 罵れ! 批判しろ! それでもオレはまたIWGP、また闘ってやろうじゃないの。オレは前を向いて闘うかぎり、ベルトが近くまで寄ってくるんだ。相手が棚橋かどうか関係ない。ベルトを持つ相手、それが闘うべき相手だ」

敗れた中邑はそう胸の内をぶちまけた。ところが結果的に、この一戦が中邑真輔にとって最後のIWGPヘビー級選手権試合となった。この棚橋戦以降、中邑は一度もIWGPヘビー級王座に挑戦することなく、海を渡ったのである。
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著者プロフィール

1972年3月6日に創業者のアントニオ猪木が旗揚げ。「キング・オブ・スポーツ」を旗頭にストロングスタイルを掲げ、1980年代-1990年代と一大ブームを巻き起こして、数多くの名選手を輩出した。2010年代以降は、棚橋弘至、中邑真輔、オカダ・カズチカらの台頭で再び隆盛を迎えて、現在は日本だけでなく海外からも多くのファンの支持を集めている。

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