犠打数はチーム得点と関係する? 直近5年間の球団別犠打数ランキングを探る

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「送りバント」を巡る評価は時代によって変化するが……

 高校野球からプロ野球に至るまで、堅実に得点圏に走者を進める方法として古くから重用され続けている「送りバント」という作戦。1番打者が塁に出て、2番打者が犠打できっちりと走者を進めてクリーンアップに繋げるという展開は、ほぼ全ての野球ファンが目にしたことのあるほどに普遍的なものだ。

 しかし、野球を統計学的な観点から分析する「セイバーメトリクス」の見地からすると、無条件で相手にアウトカウントを一つ与える送りバントは、多くの局面において得点効率を下げる作戦とされている。近年は日本においてもセイバーメトリクスの概念が広まりつつあるが、そういった環境下で、各チームの犠打数はどう増減しているのだろうか。

 そこで、今回は直近5年間における、パ・リーグ6球団のチーム内犠打数トップ5に入った選手たちと、各シーズンでのチーム全体の打撃成績を紹介していきたい。その顔ぶれの変遷や、バント数とチームの成績との関連性を確かめるとともに、バントを多用する作戦がうまく機能しているチーム、あるいは、セイバーメトリクスの理論通りにバントを減らすことで多くの得点を生み出しているチームについて調べていきたい。

北海道日本ハム

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 2015年から3年間はチーム全体で100を超えるバント数を記録していたが、直近2年間は犠打数数自体が減少傾向にある。また、リーグ優勝を果たした2016年には178個の犠打を記録。これは、今回取り上げた5年間に限定すれば、パ・リーグ6球団全体を見渡しても最多の数字だ。この年は打率がリーグ1位、得点数が同2位タイと打線の得点力も高くなっており、バントを多用する戦術がうまく機能していたことが見て取れる。

 選手個々に目を向けると、2016年にパ・リーグの歴代最多タイとなる62犠打を記録した、中島卓也選手の活躍が目を引くところ。中島卓也選手は2015年から4年連続でチーム最多の犠打を決め、5年連続で2桁のバント数を記録するなど、上位打線につなぐ役割を堅実にこなしていた。そして、2019年に犠打数チームトップに立った石井一選手も同様の役回りを担っており、この2選手によるポジション争いは今後も注目と言える。

楽天

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 リーグ内での犠打数は3位が2度、4位が2度、5位が1度と、チーム全体としては飛びぬけて多いわけでも少ないわけでもない。ただ、2015年から3年間は3桁のバント数を記録したものの、直近2年間は2桁の数字となっており、先に取り上げた北海道日本ハムと同様、バント数自体がやや減少傾向にあるのは確かなようだ。

 選手個々としては、ベテランの藤田選手が唯一複数回チームトップの犠打数を記録した選手となった。2016年には当時ルーキーだった茂木選手がチーム最多の犠打を決めたが、それ以降の4年間は1桁の犠打数にとどまっているところが、チーム内での立場の変遷を感じさせて興味深い。2019年には渡邊佳選手と堀内選手という若手の2選手がチーム最多の犠打を記録しており、両選手の今後の数字の変遷にも注目する価値はありそうだ。

埼玉西武

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 直近5年のうちチーム犠打数が2桁だった回数が4度と、近年はバントを多用しない戦い方を選択している埼玉西武。とりわけ、シーズン792得点という爆発的な得点力を発揮した2018年は、集計期間中では6球団最少となる48犠打にとどまった。2019年は犠打数自体はやや増加したものの、それでもリーグ最少タイ。バントに頼らず打って走者を進めるというチーム方針が、打線の破壊力を引き出すことにもつながっているようだ。

 2015年と2016年は、下位打線を打つことが多い捕手の炭谷選手がチームトップの犠打数を記録。だが、2017年からは2番打者として活躍する源田選手が3年連続でチーム最多犠打となった。ただ、2017年と2019年に比べ、2018年はチームのみならず源田選手の犠打数も減少していた。ライオンズ打線の強力さは言うに及ばないが、その得点力の引き出し方はシーズンごとに異なる。源田選手の犠打数は、その一つのバロメーターでもありそうだ。

千葉ロッテ

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 近年の千葉ロッテは打率、本塁打数ともにリーグ下位に位置することが多く、打線の得点力不足に悩まされるシーズンが多かった。その影響もあってか、2015年と2018年はリーグ2位の犠打数を記録するなど、シーズンを通してバントを多用したケースも。ただ、本拠地のZOZOマリンスタジアムにホームランラグーンが設置された影響もあり、2019年は得点数、本塁打数ともに向上。それに伴い、バント数もリーグ4位と前年に比べて減少していた。

 選手別では、5年間すべてでチーム2位以内に入り、1位にも2度入った田村選手が最もコンスタントに犠打を決めた選手といえる。また、2015年と2019年にチーム最多犠打を記録した鈴木選手もバントに長けた選手だったが、移籍によってチーム全体の犠打数にも変化は生じるか。さらに、井口資仁監督の就任後は、2018年に藤岡選手、2019年に鈴木選手と、2番を務める機会の多い選手がチームトップの犠打を決めている点が、現在のチーム方針の一端を示しているかもしれない。

オリックス

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 直近5年間でリーグ最多犠打チームに輝くこと3度、同2位が2度と、近年は多くの犠打を決め続けてきたことが数字にも示されている。その一方で、打率と得点数のどちらも、5年間でリーグ3位以上に入ったシーズンは一度もなかった。打線の得点力が上がらないために走者を堅実に進める策に出ていたことがうかがえるが、残念ながら得点力の向上には効果的に繋がってはいなかったようだ。

 2015年から2017年までは安達選手、大城選手といった、2番を任されることも少なくない選手がチームトップのバント数を記録していたが、2018年からの2シーズンは下位打線に入ることが多い捕手の若月選手がチームトップの犠打数を記録。チーム全体では直近の2年連続でリーグトップの数字を記録しているものの、各選手の犠打数自体は2015年から2017年までの3年間に比べると、おしなべて減少傾向にある点も興味深いところだ。

福岡ソフトバンク

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 福岡ソフトバンクはリーグ最多の犠打数を記録した2017年をはじめ、2位が2度、3位が2度と、常にリーグ上位の犠打数を記録している。直近5年間すべてで3桁の犠打数を記録したのはオリックスと福岡ソフトバンクの2チームだけであり、オリックス同様に犠打に対する意識が高いと言える。チームの総得点も1位と2位がそれぞれ2度と高いシーズンが多く、こちらは犠打を多用する堅実な攻めが機能していると言えそうだ。

 2015年から2017年にかけては、2017年に史上最年少の25歳11か月で250犠打を記録したバントの名手・今宮選手がチーム最多の犠打を記録していたが、2018年からは故障の影響もあって犠打数が減少。代わって2年連続で23犠打を記録した甲斐選手がチームトップに立っており、牧原選手や周東選手もチーム内の上位に入ってきている。チーム全体がバントを多用する中で、特定の選手に偏らない体制が生まれつつあるのは頼もしいところだ。

送りバントが得点に結びついているチームと、そうでないチームの違いは?

 以上のように、チーム全体の犠打数としてはオリックスと福岡ソフトバンクが多く、埼玉西武は少ないという傾向が出ている。ただ、福岡ソフトバンクと埼玉西武はそれぞれの戦術が得点力の向上に繋がっているが、オリックスの場合は残念ながら効果的に働いているとは言い難い。この減少が生まれている要因の一つとしては、チームにおけるポイントゲッターの数の差が挙げられるだろうか。

 埼玉西武には山川穂高選手、中村剛也選手、外崎修汰選手といった強打者が中軸に名を連ね、先述の期間中には秋山翔吾選手や浅村栄斗選手のようなタイトルホルダーも在籍していた。繋ぎは源田選手に任せ、バントを多用せずに上位陣が打って返す方針が機能しているのは、打線全体の層の厚さと、その機能性の高さゆえでもあるだろう。

 また、福岡ソフトバンクにも柳田悠岐選手、松田宣浩選手、デスパイネ選手をはじめとする強打者たちが在籍しているが、例年故障者が多く発生してしまい、時期によっては打線の層が薄くなることが少なくなかった。試合に出場できるポイントゲッターの数が限られる状況がたびたび訪れることを考えると、豪快に打ち勝つのではなく、確実に得点圏に走者を進めるという戦法は理に適っていたのかもしれない。

 一方、オリックスの場合も吉田正尚選手やロメロ選手のようなパワーヒッターを擁していたが、両名ともシーズンの打点が90を上回る年はなかった。強打者が限られているチーム事情ゆえに徹底マークに遭う可能性が高いこともあるだろうが、バントによって相手にアウトカウントを与えることで、複数の走者を溜める可能性を減らしていることの弊害が表れている可能性はある。

 ただ、MLB通算282本塁打を誇る新助っ人のアダム・ジョーンズ選手が加入した今季は、ポイントゲッターの増加に伴い、吉田正選手へのマークが分散する可能性もある。オリックスにとって今季は、得点力不足に悩まされてきた過去数年間の状況を打破する大きなチャンスでもありそうだ。

 また、2016年にはリーグ5位の千葉ロッテでも120犠打を記録していたが、2019年には98犠打の楽天が3位になっており、リーグ全体で犠打の数字が減少傾向にある。セイバーメトリクス的な観点ではバントは得点効率を下げる作戦とされているのは先述した通りだが、日本にも浸透しつつあるそういった概念が、各チームの攻め方にも影響を及ぼしているかもしれない。

 送りバント一つをとっても、チーム個々の戦術の変遷や、リーグ全体のトレンドの変化の一端を垣間見ることができる。時代が移り変わっても重要な作戦の一つであり続けている犠打の使われ方、そしてその数の変遷について今後も注目し、好きなチームの攻め方の変化を知ってみるのも一興ではないだろうか。

文・望月遼太
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