【連載】いわきFCの大いなる野望 第6回『We play on』そしてホームタウン拡張で目指すこと。
【@IWAKI FC】
だが今年、思いもよらぬ状況が訪れる。新型コロナウイルスの影響で、JFLそして天皇杯の開幕延期と大会規模縮小が発表。難しい判断を迫られる中、いわきFCは、状況を見極めながら、日々の検温はもちろん、選手・スタッフ一人一人の行動記録を報告、共有し、さらに少人数のグループごとに時間差でトレーニングを行うなど、三密を避ける形で制限を設けながらトレーニングを続けている。
そんな状況の中、今回から2回に分け、あらためていわきFCの2020年の活動方針をレビューしていく。まずは大倉智いわきスポーツクラブ社長に、今年クラブが掲げるスローガン、そして2月に発表されたホームタウンの拡張について話を聞いた。
Jリーグ参入は、ビジョンを実現する手段の一つ。
このような状況の中で、チームは何を目指して戦うのか。
まずはこれまでの動きをレビューしていこう。今年1月20日に行われた新体制発表会で、大倉智いわきスポーツクラブ社長が掲げたスローガンは「We play on」。この言葉が意味するものは何なのか。
【@IWAKI FC】
JFL参戦により、否が応でも見えてくるJリーグの舞台。チームはJ3昇格を視野に入れ、2月に「Jリーグ百年構想クラブ」(※JFL以下のチームを対象に、Jリーグが将来の参入を目指す存在として認定したクラブのこと)の認定を取得。これにより、今年JFLで4位以内、そして百年構想クラブの上位2クラブ以内に入り、かつホームゲームの平均観客数2000人超のという条件を満たせば、来シーズンのJ3昇格が現実となる。
ただし、チームの目標が「Jリーグ昇格」ではないことは、これまでも、そしてこれからも変わらない。
「いわきFCが掲げるビジョンは『スポーツによる社会価値の創造』。その実現のため、私達は『魂の息吹くフットボール』で熱狂空間を作り上げ、ホームタウンの皆様方に喜んでいただく。その結果として勝ち点が積み上がればいい。われわれにとってJリーグ参入は、あくまでビジョンを実現する手段の一つです。
なぜならいわきFCは、被災地に暮らす人々の暮らしと気持ちに寄り添い、東日本大震災からの復興のシンボルとなることを目指すチーム。JFL以下に所属する多くのチームが、Jリーグ昇格を最大目標として掲げる中、われわれはこの思いを貫いてきました。そこにブレはありません」
ホームタウン拡張で大きく広がる可能性。
「チームがこれまで4年間、いわき市を拠点として活動してきた間、双葉郡の復興は少しずつ進んできました。3月にはJR常磐線が全線再開通。一部地域で避難指示が解除され、Jヴィレッジが全面再開。JFAアカデミー福島の活動も再び始まる。そんな流れの中で、いわきFCができることがあると考えました。
まず、JFLのホームゲームをJヴィレッジスタジアムで開催します。今年のメインのホームはいわきグリーンフィールドですが、ホームゲームのうち2試合をJヴィレッジスタジアムで開催します。ご存じの通り、昨年JFL昇格を決めた縁起のいい場所で、今年も『魂の息吹くフットボール』をお見せします。
それに加えて検討しているのは健康増進事業です。新型コロナウイルスの影響がどれだけ長引くかにもよりますが、いわきFCフィールドやいわき市内各所で開催している小学生以下の子ども向けの運動教室『いわきスポーツアスレチックアカデミー(ISAA)』や、いわきFCパークで行っているシニア世代向けヘルスケア事業を町村に提案すれば、双葉郡の皆様方の健康増進に貢献できるはずです。改めて、ホームタウンに加わった双葉郡も含めた、この地域一帯のまちづくり・人づくりの一助となりたいと考えています」
ホームタウンの拡張で、可能性は大きく広がるだろう。いわきFCパークとJヴィレッジ、JFAアカデミー福島といわきFCアカデミー、ふたば未来学園、そして新たな街づくりに取り組む若い人たちと、優れた先端企業。いわきFCをハブとして、スポーツと地域、教育、産業が結びつき、大きな輪ができていく。そんな未来の実現を目指す。
『魂の息吹くフットボール』を支えるフィジカル。
中でも、フィジカルについては確実な成果を実感している。2016年から『日本のフィジカルスタンダードを変える』というコンセプトを掲げ、さまざまなトレーニングに取り組んできた。その成果が出たのが昨年の地域チャンピオンズリーグ。過酷な連戦の中、チームは全試合を走力で圧倒し、無敗で優勝を成し遂げた。
カテゴリーが上がってもチームのコンセプトはブレない 【@IWAKI FC】
その実現のため、欠かせないのがメディカル。今年は昨年より選手数が少ないこともあり、シーズンを通じて負傷者を出さないことが重要となってくる。「メディカルは、ケガをした選手を治す"修理工場"ではなく、ケガをしない選手を生み出す"生産工場"であるべき。選手の能力を最大限に引き出すサポートを行い、チーム戦術にフィットする選手を生み出す」。これが、齋田良知チームドクターの考えのベース。選手のコンディションや身体特徴を負傷前から分析し、積極的に介入することで「魂の息吹くフットボール」を体現する選手を育てる。
「メディカルについても引き続き、ドクターとしっかり連携していきます。いわき出身で過去にACミランに帯同した経験もある齋田先生から海外の情報やノウハウを積極的に学び、そのノウハウによって、選手達も自らの身体を知り、成長する。そんなサイクルを作っていきます」
一戦一戦の重みがより大きく。
「コンサート、イベント、そしてプロスポーツと、あらゆる興行が開催できず、その影響は日々拡大しています。先行きが見えにくい中、このたび私たちが参戦するJFLも、当初の方式を大きく変更。試合数を半数の15にすることを決定しました。また、天皇杯は9月からの開催。Jリーグからの参加はJ1の上位2チームのみで、J2とJ3からの参加はなくなり、毎年県代表の座を争わせていただいている福島ユナイテッドFCさんも不参加となりました。色々な事情があることは理解しておりますが、興行は、応援されたり、注目されたり、頑張った選手やクラブが賞賛されたり、観る人とやる人、両方の熱によってつくり上げられるものですから、少し心配な部分はあります。ですが、いわきFCはやります。
試合を楽しみにしていただいているファンの皆様は、さまざまな制限で窮屈な日々を強いられていることでしょう。そして、昼夜を問わず日々対応に当たられている医療従事者の皆様へは、心から敬意を表します。
今回の決定で地域リーグへの降格はなくなりましたが、昇格条件は今のところ変わりません。試合数が減ったことで、一戦一戦の重みがより大きくなりました。もちろん、結果がすべてではありませんが、多くの皆様とその喜びを分かち合えるよう、準備をしてまいります。1日でも早い事態の収束と皆様の健康をお祈りするとともに、7月に無事試合が開催され、スタジアムで皆様と元気な姿でお会いできることを選手、スタッフ一同心待ちにしております」
試合再開の時を待って、今はできることを続けている 【@IWAKI FC】
次回は田村雄三監督に、2020年の展望を聞いていく。
編集者。総合商社から出版社、スポーツメーカー勤務を経て2020年よりフリーランスとして活動。スポーツ及びマーケティングに関する取材・編集・執筆を手がけ、現在はいわきFC関連の取材・執筆の他、スポーツニュートリションブランドDNSのオウンドメディア「Desire To Evolution」の編集長を務める。
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