トライアスロンの秦由加子〜笑顔の鉄人が語る、私の競技人生に欠かせない人たち

チーム・協会

【(C)Masashi Yamada】

どことなく親しみやすい微笑みを口元に称え、周囲の人への思いを幸せそうに語る。東京2020パラリンピックの表彰台を目指すパラトライアスリート秦由加子は、鉄人レースを離れれば周囲を和ませる明るい笑顔の持ち主だ。7年前に水泳からトライアスロンに転向し、トライアスロンを始めてから「性格が明るくなった」とよく言われるという彼女に「私を支える5人」を聞いた。

◇トライアスロンへの扉を開いてくれた 稲毛インターナショナルトライアスロンクラブ

「私が所属する稲毛インターナショナルトライアスロンクラブを立ち上げた山根英紀コーチは、かつて日本代表として世界で戦ったトライアスロン選手で、今もコーチとして多くの大会を回っています。海外などで障がいのあるトライアスリートを見てきたからでしょうか、右足義足の私に対する偏見がまったくなくて。最初から気軽に話しかけてくれて『トライアスロンって楽しいからやってみなよ!』と勧めてくれたんです。

そんな出会いもあって大きな一歩を踏み出せたわけなんですが、クラブの会員さんも純粋な練習仲間として私を見てくれます。『義足の人だし、ちょっと距離を置こう』ではなく、むしろ好奇心旺盛な方ばかりで『その義足かっこいいね』と言ってくれたり。そういった一緒に練習している仲間の存在がモチベーションになっています」

【(C)日本財団パラリンピックサポートセンター】

◇競技を始めたころから支えてくれている スポンサー・マーズフラッグの皆さん

「スポンサーであるマーズフラッグの武井信也社長は、私が世界で戦う姿にすごく刺激を受けるし、お互い“相手は世界”という共通点があるからと言ってくださっていて。私がトライアスロンを始めた当初からスポンサーになってくれています。金銭的なサポートだけでなく、SNSでコメントしてくれたり、大会の記録を見てくれていて『前と比較してここがよかったね』とか、細かくチェックしてアドバイスをくれたりするんです。なかなかお会いできる時間を取れなくても、そうやって気にかけてくれることがありがたいですし、近くで支えてくださっていると感じます。
マーズフラッグの社員の方々も、私が講演や報告会などで伺うといつも温かく迎えてくれますね。オフィスに大画面があるんですが、そこに私の競技写真を流してくれているみたいで、そうやって常に応援してくださることがとてもありがたいです」

◇一丸となって応援してくれる勤務先 キヤノンマーケティングジャパン

「リオパラリンピックに出場した際、社内ですごく盛り上がってくれて。私がアスリートではなく一般の社員として入社をした選手だったこともあり、それまでは同じ部署の人たちしか競技活動について知らなかったんです。でも、リオ後に報告会を開催してもらい、そしてそこに多くの人が集まったという報告を聞いた社長に、社員が一丸となってこんなに盛り上がるなんていいね、と言ってもらえたんです。それまで『パラスポーツをやっているから会社のためになります』なんて自分から言ったところで証明できなければ事実ではないし、周りがそう思ってくれなければ会社に還元できることはないと思っていたので、皆さんの反応を聞いて心の底からうれしかったです。
そして親会社であるキヤノンで御手洗冨士夫会長とお話しする機会があって、フルタイムで働きながら練習する苦労を話したら、『大会まで思う存分やりなさい』と言ってくださったんです。その後、金銭面の支援や勤務をどうするか具体的に話を進めることになり、今に至ります。会社が応援してくれる素晴らしい環境に感謝しています」

【(C)Masashi Yamada】

◇なんでも本音で言い合える スポーツトレーナー・中里賢一さん

「5年ほど前、日本チームの遠征に中里さんが帯同していたのが縁で、それ以来お世話になっています。私の障がいの場合、左右差は当然、健足である左足への負担や、体に歪みも出てくるので、定期的なケアが欠かせないんです。知り合った当時、中里さんはトライアスロンのレースはほぼ見たことがないと話していたんですが、今は中里さん自身がトライアスリートです(笑)。体幹トレーニングなどは、こうやって筋肉が動くからここを鍛えなきゃいけないって実演して見せてくれて、実際に競技をやっているからこそ説得力もあります。
パラアスリートも何人か担当されているんですが、ある重度障がいの選手がこの部分は動かせないからトレーニングは難しいと言ったにもかかわらず、あきらめないで動かしてみたら実際に動いたそうなんです。その話を聞いて、中里さんの中で障がい者も健常者も平等に見ているからできることなんだなと感じました。アスリートの可能性を広げてくれるんですが、ときどき障がいゆえに『動かせない』と言うと『動かせる』と言われるのでケンカにもなることもあります(笑)。本音でぶつかり合える人は貴重ですね」

◇パラアスリートの強い味方! 義肢装具士・齋藤拓さん

「義肢装具士の存在は必要不可欠です。だって義足がないとそもそも競技ができませんからね。アイムスの齋藤さんには2019年から競技用義足の製作をお願いしているんですが、気軽に何でも相談できる雰囲気があります。パラサイクリングに長年かかわっているということで経験もあってパラアスリートからの信頼も厚いんです。齋藤さんのもとに行くと他の選手にばったり会うこともあって情報交換することもありますね。
2020年のシーズンは新しい義足でラストスパートに励み、東京パラリンピックを迎えられたらと思っています」
日ごろから「表彰台に上がって『ありがとう』を言いたい」と話している秦。共に戦い、応援する人たちの存在がモチベーションになっていることは間違いない。


text by TEAM A
photo by Masashi Yamada

※本記事は2020年3月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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著者プロフィール

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