若き正捕手たちを支える第二捕手。パ・リーグ6球団の「控え捕手事情」

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6球団中4球団が20代前半の選手を正捕手として起用している

 現在、パ・リーグの6球団すべてにおいて、若いキャッチャーが正捕手、あるいはそれに最も近い位置にいることをご存じだろうか。楽天イーグルスは、長年正捕手を務めた嶋基宏選手(現・東京ヤクルト)が退団し、これから次代の正捕手が決まる状況にあるが、残る5球団の2019年の主戦捕手は以下のような顔ぶれとなっている。

F清水優心選手:23歳
98試合 216打数56安打 5本塁打 24打点 9犠打 打率.259 出塁率.321 OPS.686
L森友哉選手:24歳
135試合 492打数162安打 23本塁打 105打点 1犠打 打率.329 出塁率.413 OPS.959
M田村龍弘選手:25歳
100試合 284打数69安打 3本塁打31打点 12犠打 打率.243 出塁率.294 OPS.618
B若月健矢選手:24歳
138試合 298打数53安打 1本塁打21打点 25犠打 打率.178 出塁率.241 OPS.459
H甲斐拓也選手:27歳
137試合 377打数98安打 11本塁打43打点 23犠打 打率.260 出塁率.346 OPS.733

 以上のように5名中4名が20代前半と、年齢的にはフレッシュだ。この中では最年長となる甲斐選手も27歳と、捕手としてはまだまだこれからという年齢。打撃不振だった若月選手以外は、バッティングの面でも捕手として十分に及第点を超える数字を残しており、それぞれ今後のさらなる成長も期待できるだろう。

 しかし、先述した各捕手の出場試合数を見てもわかる通り、年間を通して1人の捕手だけで戦えるケースは極めてまれだ。不測の事態が生じた際に正捕手の穴を埋める第二捕手の力量は、チームが安定した戦いを見せるためにも非常に重要なものとなってくる。

 今回は、そんな各チームの控え捕手たち、すなわち正捕手の立場を虎視眈々と狙っている選手たちを、球団ごとに紹介。昨季、一軍で一定の出場機会を得た若手選手や、試合終盤に逃げ切りを図って投入されるベテラン捕手たちの昨季の活躍を振り返るとともに、新たにプロに挑む期待のルーキーたちも含めた、各選手の新シーズンのプレーに期待を寄せたい。

北海道日本ハムファイターズ

鶴岡慎也選手:38歳
35試合 62打数11安打 1本塁打4打点 4犠打 打率.177 出塁率.215 OPS.473
宇佐見真吾選手:26歳
45試合 96打数19安打 0本塁打9打点 1犠打 打率.198 出塁率.245 OPS.474
(成績は北海道日本ハム移籍後)
石川亮選手:24歳
46試合 75打数15安打 0本塁打3打点 9犠打 打率.200 出塁率.221 OPS.461

 現在の北海道日本ハムにおいては、清水選手が最も正捕手に近い位置にいると言えるだろう。しかし、それに次ぐ第二捕手の座が明確に定まっているとは言い難い。ただ、2019年にはそれぞれ持ち味の異なる3名の捕手が一軍の舞台で存在感を放っており、バックアップの層自体は決して薄くはない。

 鶴岡選手は古巣復帰初年度の2018年は扇の要として101試合に出場したが、続く2019年はバッテリーコーチ兼任となった影響もあってか、出場機会が大きく減少している。とはいえ、プロ18年目を迎える大ベテランの経験は若いチームにとっては大きな財産になりうる。コーチとして、そして選手として、その力が必要となる局面は少なくないはずだ。

 宇佐見選手は「打てる捕手」としての期待をかけられて2019年6月にトレードで加入し、自信最多の45試合に出場。ただ、期待された打撃面では本領を発揮しきれなかった。石川亮選手は、昨季中盤まで有原航平投手の専属捕手に近い役割を担ってエースの好投を引き出したが、出場は8月10日の試合が最後と、終盤戦では出場機会を減らした。ともにまだ若く、伸びしろも十分なだけに、清水選手を脅かす存在となれる可能性も十分だ。

東北楽天ゴールデンイーグルス

太田光選手:23歳
55試合 96打数 21安打 1本塁打6打点 8犠打 打率.219 出塁率.279 OPS.550
堀内謙伍選手:22歳
65試合 122打数19安打 0本塁打13打点 11犠打 打率.156 出塁率.202 OPS.406
足立祐一選手:30歳
21試合 39打数6安打 2本塁打4打点 5犠打 打率.154 出塁率.190 OPS.524

 長年にわたって正捕手を務めた嶋基宏選手の退団により、現時点では新シーズンの正捕手をめぐる争いは横一線と言えそうだ。ただ、その嶋選手も昨季終盤から出場機会を減らしており、そのぶん若手捕手がマスクを被ることが増えていた。その筆頭格と呼べる2名が、太田選手と堀内選手である。

 太田選手はドラフト2位という高評価に応え、プロ1年目から55試合に出場。堀内選手もプロ4年目の昨季に出場機会を大きく増やし、ともにチームのAクラス入りにも貢献した。打撃面では太田選手のほうがやや数字は上だが、鈴木大地選手とロメロ選手の加入で打線の厚みは増している。守備面も含めたチームへの貢献度がより高いと認められた選手が、新時代の正捕手に就くと予想するのが自然な流れかもしれない。

 足立選手は現チーム内では最も捕手としてのキャリアが長く、2016年には一軍で73試合に出場した実績を持つ。年齢的にも先述の2名や20歳の石原彪選手と比べると難しい立ち位置だが、これまで嶋選手のバックアップを務めてきた経験は若手たちとは違ったかたちで生きてくるはず。捕手に再転向して2年目を迎える岡島豪郎選手ともども、ベテランの味を発揮することで正捕手の座を射止めることができるか。

埼玉西武ライオンズ

岡田雅利選手:30歳
36試合 61打数16安打 1本塁打7打点 6犠打 打率.262 出塁率.375 OPS.768
駒月仁人選手:26歳
7試合 7打数1安打 0本塁打0打点 0犠打 打率.143 出塁率.143 OPS.286
柘植世那選手:22歳
ルーキー(ドラフト5位)

 昨季は捕手としてNPB史上4人目の首位打者を獲得し、リーグMVPにも輝いた森友哉選手。その座を脅かすのは、どんな捕手にとっても決して容易ではない。しかし、どれだけ攻守に優れたキャッチャーであっても、長いシーズンをたった一人で戦い抜くことは難しいだろう。そういった意味でも、同じ大阪桐蔭高校出身の頼れる捕手がサポート役として控えていることは、若き正捕手にとって大きな支えとなっていることだろう。

 岡田選手は明るい性格と確かな守備力を兼ね備えるチームのムードメーカーであり、打撃面でもOPS.768と水準以上の実力を持つ。その存在がチームにとって欠かすことのできないものであることは、ライオンズファンにとってはもはや周知の事実だろう。辻発彦監督が昨季最もショックだった出来事として岡田選手の故障離脱を挙げたというエピソードが、その存在の大きさと貢献度の高さを端的に物語っている。

 その岡田選手の離脱後に一軍の控え捕手を務めた駒月選手は、昨季プロ初出場・初安打を記録。イースタンでは25試合で打率.262、7本塁打、OPS.868と強打を見せていただけに、新シーズンは打撃面でより存在感を見せたいところ。また、社会人出身の柘植選手がルーキーながらキャンプで一軍メンバーに抜てき。今後のアピール次第で開幕一軍も見えてくる位置にいるだけに、プロ初年度から存在感を発揮できるか注目だ。

千葉ロッテマリーンズ

柿沼友哉選手:26歳
34試合 64打数9安打 1本塁打2打点 10犠打 打率.167 出塁率.286 OPS.508
細川亨選手:40歳
31試合 6打数2安打 0本塁打1打点 2犠打 打率.333 出塁率.333 OPS.667
吉田裕太選手:28歳
32試合 47打数11安打 2本塁打7打点 4犠打 打率.234 出塁率.308 OPS.691
江村直也選手:27歳
23試合 31打数3安打 1本塁打4打点 2犠打 打率.097 出塁率.152 OPS.345
佐藤都志也選手:22歳
ルーキー(ドラフト2位)

 育成出身の柿沼選手はプロ4年目の昨季、田村選手の故障もあって出場機会を増やした。田村選手の復帰後もスタメンを任される機会をたびたび得ており、終盤に故障離脱するまで強肩や堅実なリードを武器に奮闘した。細川選手は豊富な経験を生かした巧みなインサイドワークを買われ、試合終盤に途中出場する「抑え捕手」としても活躍。2018年は田村選手が全試合に出場していたが、この1年間で捕手の層は確実に厚くなったと言えそうだ。

 その一方で、吉田選手は打撃面で数年来の不振を脱しつつあったが、自身も負傷したことで田村選手不在のチャンスを生かしきれず。江村選手もオープン戦で史上初の「ラグーン弾」を放ち、シーズンでもプロ初本塁打を満塁弾で飾るなど随所で派手な活躍を見せたが、課題の打撃を克服しきれなかった。新たな捕手の加入もあり、ともに来季こそはさらなる飛躍を果たしたいところだろう。

 そんな中で、大学時代の実績から「打てる捕手」として期待がかけられている佐藤都志也選手が新たに入団。俊足好打のルーキーは既存の捕手陣にはない長所を持っているだけに、正捕手争いに割って入る可能性も十分に秘めている。25歳の若さで5年間正捕手を務めあげた田村捕手がその座を守るのか、はたまた波乱が起こるのか。千葉ロッテの新シーズンの捕手事情は、にわかに興味深いものになるかもしれない。

オリックス・バファローズ

伏見寅威選手:29歳
39試合 61打数10安打 1本塁打9打点 0犠打 打率.164 出塁率.278 OPS.491
松井雅人選手:32歳
24試合 36打数7安打 0本塁打2打点 3犠打 打率.194 出塁率.256 OPS.451
(成績はオリックス移籍後)
山崎勝己選手:37歳
24試合 8打数0安打 0本塁打0打点 0犠打 打率.000 出塁率.000 OPS.000
頓宮裕真選手:23歳
28試合 91打数18安打 3本塁打10打点 0犠打 打率.198 出塁率.204 OPS.556

 オリックスでは年々出場試合数を伸ばしている若月選手が正捕手に定着しつつあり、その一方で第二捕手の座が明確に定まっているとは言い難い。それでも少なくない数の実力者が控えており、層としては決して薄いわけではないという点も含め、先述した北海道日本ハムに近い捕手事情にあると言えそうだ。

 伏見選手は2018年には一塁手としての出場が多かったが、2019年は捕手としての出場が大半に。守備の負担が大きいポジションに戻ったこともあってか、前年に打率.274を記録した好打は影を潜めたが、開幕から第二捕手としてチームに貢献していた。しかし、6月18日の試合でアキレス腱断裂の重傷を負い、残りのシーズンを棒に振ってしまった。

 伏見選手の離脱を受けて6月末にトレード加入した松井雅選手は、シーズン閉幕までに24試合に出場。若月選手と同じく守備型の捕手ということもあって牙城を崩すには至らなかったが、中日での豊富な経験を生かして来季は定位置奪取をうかがいたいところ。プロ20年目を迎える大ベテランの山崎選手、打力を生かしたサード挑戦から、昨季途中に捕手へと再転向した2年目の頓宮選手もそれぞれ独自の武器を持ち、捲土重来の可能性はあるだろう。

福岡ソフトバンクホークス

高谷裕亮選手:38歳
55試合 30打数5安打 1本塁打1打点 7犠打 打率.167 出塁率.286 OPS.552
栗原陵矢選手:23歳
32試合 39打数9安打 1本塁打7打点 0犠打 打率.231 出塁率.311 OPS.670
海野隆司選手:22歳
ルーキー(ドラフト2位)

 甲斐選手が不動の存在となっている福岡ソフトバンクの捕手陣にあって、ベテランの高谷選手が果たしている役割もまた非常に大きい。2018年には甲斐選手に次ぐリーグ2位の盗塁阻止率.385を記録した強肩と巧みなリードは周囲の信頼も厚く、試合終盤を任される「抑え捕手」としても活躍。波乱万丈の球歴を経てホークスに欠かせない存在となった高谷選手は、2020年もこれまで同様のいぶし銀の働きを見せてくれることだろう。

 栗原選手はプロ5年目の昨季に出場機会を増やし、記念すべきプロ初本塁打も記録。7月8日には延長12回の熱戦にピリオドを打つサヨナラ犠飛を放ってヒーローになるなど、主に打撃面で存在感を発揮した。来季は代打としてのみならずマスクを被る機会も増やし、攻守にさらなるレベルアップを果たして一軍定着をうかがいたい。

 ドラフト2位入団の海野選手は新人ながら春季キャンプで一軍に抜てきされており、首脳陣の期待も高そうだ。残念ながら右ひじの関節炎でリハビリ組に回ったが、回復後には一軍の捕手争いに殴り込みをかけたいところ。他にも、21歳の九鬼隆平選手と22歳の谷川原健太という打撃を武器とする2名の若手捕手が控えており、次代の主力捕手をめぐる争いは熾烈になりそうだ。

長いシーズンを戦うにあたって「控え捕手」はチームに欠かせない存在だ

 以上のように、鶴岡選手、細川選手、高谷選手のような大ベテランや、岡田選手のようにチームに欠かせない働き盛り、まだ20代前半の伸びしろ十分な若手と、バラエティに富んだ年齢層の捕手たちが顔をそろえた。もちろん、プロである以上は誰もが控え捕手の座に甘んじることは良しとせず、常に正捕手の座を狙っていることだろう。ただ、スタメンマスクを被ることができる捕手は、各試合ごとに1名ずつしかいないこともまた事実だ。

 長いシーズンを戦い抜くにあたって、「控え捕手」という存在がチームにもたらす影響は決して小さなものではない。チームにとっては有事の備えとして貴重な戦力となり、本人としては一軍定着、あるいは正捕手奪取を目指して戦う捕手たち。正捕手だけでなく、陰日向なくチームを支える彼らの存在もまた、プロ野球チームにとっては欠かすことのできないものだ。

望月遼太
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