【フットサル】優勝の歓喜の“端”にいた水谷颯真と、敗北の無念をピッチ中央で味わった瀧澤太将。“敵”として再会したFリーグ選抜一期生は、プレーオフ決勝で何を感じたのか。

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【軍記ひろし】

試合が終わり、名古屋オーシャンズとバサジィ大分の選手がそれぞれサポーターのもとへ挨拶に向かう。ピッチですれ違った水谷颯真と瀧澤太将は、ほんのわずかな時間で、言葉を交わしていた。

「楽しかったね」

2015年、高校卒業後に名古屋サテライトのセレクションに合格した瀧澤と、小学生年代からアカデミーで育った水谷は出会った。3年間、寮の同部屋で過ごし、昨年はFリーグ選抜でも一緒だった。そんな2人が1年後に再会したのはプレーオフ決勝の舞台。試合終了の笛が鳴った直後、両者の間には、奇妙なコントラストが描かれていた。

「優勝のうれしさと、ピッチに長い時間立てなかった悔しさがあった」(水谷颯真)

優勝の歓喜の輪に加わる水谷颯真(左から2番目) 【軍記ひろし】

名古屋オーシャンズが優勝を決めた瞬間、水谷はピッチで大きな歓喜を味わった。Fリーグ選抜から所属元の名古屋サテライトに戻り、開幕とともにトップ昇格を勝ち取った彼にとって、感慨深い想いがあっただろう。しかし、水谷は“主力”としてピッチに立っていたわけではない。引き分け以上で優勝が決まる第2戦は、ゴールラッシュでリードを広げていただけに、勝負がほぼ決していた終盤に出番が与えられたにすぎなかった。

「みんなでやってきたので、優勝のうれしさはありました。でも、ピッチに長く立てなかった悔しさも込み上げてきた。両方がありました。自分が活躍したかったけど、今の自分の実力も理解しています。まだまだみんなにはおよばない。この舞台は、コートがすごく小さく感じたし、人の圧力を感じました。いい経験はできましたが、いいプレーはできていない。苦い思い出になりました」(水谷)

それと同時に、こんな感情も抱いていた。

「最高の舞台で、同期として一緒に頑張ってきた仲間と同じピッチに立てたことは刺激的でした」

「プレッシャーはなかったけど、名古屋の脅威となる選手ではなかった」(瀧澤太将)

ピッチ中央で、無念の表情を浮かべた瀧澤太将 【軍記ひろし】

バサジィ大分が敗れた瞬間、瀧澤はピッチの中央で無念の表情を浮かべていた。Fリーグ選抜で戦ったシーズンを経て、所属元の名古屋サテライトではなく、大分からプロのオファーをもらった。そして、伊藤雅範監督が築き上げた3セットの“2番目のセット”の定位置を確保して、シーズンを戦い抜いた。これまでスタンドから眺めてきた大舞台にも物怖じすることなく、いつも通りのパフォーマンスで躍動した。

「プレーオフ決勝という舞台は正直、実感がなかったです。それよりも、名古屋と戦うこと自体が特別です。名古屋を倒すことだけを考えていたので、プレッシャーも緊張もなかった。そういう意味では、ものすごく強い相手に少しはやれたことで自信にはなりました。でも、目指しているのはそこじゃない。とりあえず考えているのは、名古屋に脅威を与えるような選手になることです」(瀧澤)

第1戦は、大分が今シーズン積み重ねてきた戦いがハマり、ある程度は想定内の結果を手にした。しかし第2戦は、そこから想像もできないような試合展開。次々にゴールを奪われ、優勝が絶望的になるなかで、試合終盤に瀧澤はふと、笑みを浮かべた。相手の交代選手に、水谷や笠井大輝、橋本優也の姿があったからだ。

「名古屋サテライトの最初の頃は橋本選手と一緒に住んでいて、途中から颯真と一緒でした。笠井ともFリーグ選抜でも一緒でしたし、僕らが追いかける展開でしたけど、あの舞台で最後に一緒にやれてめちゃくちゃ楽しかった。力が湧き出てきました。全然、ダメだったんですけどね(苦笑)。ワクワクしました」

Fリーグ選抜一期生が味わった“2年目の現実”

同じ時期に同じチームで出会い、ずっと一緒に戦ってきた水谷と瀧澤。一方は、歓喜の輪の端で笑顔を見せ、一方はピッチの中央で立ちすくむ。くっきりと分かれた明暗の裏で、両者には明確な共通点があった。それは「悔しさ」だ。「足りなかった」という想いが、彼らのなかにはあった。

「23歳は、Fリーグではまだ若手だと言われますけど、僕はそう思っていない。中堅に上がっていかないといけないし、どんどん出てくる若い選手に負けないように、上を食う感じでグイグイいきたい」(瀧澤)

それは、瀧澤や水谷、プレーオフ決勝の舞台に立った笠井だけでなく、昨シーズン、Fリーグ選抜で戦ったメンバー全員が胸の内に秘めている思いではないだろうか。彼ら一期生は“2年目の現実”を味わってきた。

今シーズン、エスポラーダ北海道の坂桂輔や立川・府中アスレティックFCの新井裕生、ペスカドーラ町田の伊藤圭汰らは日本代表候補のメンバーに呼ばれることもあったが、定着するまでにはいたっていない。2年前、Fリーグ選抜が結成された当初の目的は「若手選手の育成」であり、ワールドカップ2020年大会や、2024年大会、アジア選手権などで活躍できる人材を育てることにあった。シーズンを通して、フットサルに専念できる環境を用意されて競技に打ち込んだ結果、選手は飛躍的にレベルアップした。だが一方で、今シーズンの彼らの所属先でのポジションは、必ずしも“主力”ではなかった。

一期生が掲げた「ハングリー精神」を象徴する三笠貴史は、フウガドールすみだで三番手フィクソに甘んじて、ベテラン選手を脅かすほどの存在にはなれなかった。北海道の三浦憂や町田の伊藤は定位置を確保していたが、三浦は上位に食い込むチームではなく、伊藤はチームが育成に舵を切った影響も大きかった。小幡貴一や仁井貴仁、齋藤日向なども出番を得ていたが、彼らはポイント起用にとどまった。

新井はシーズン中に、「去年の選抜組で活躍しているやつがいないのが悔しい」と話していたという。それは、三笠が話していた「成長を結果で証明する」ことをできた選手がいなかったという意味だろう。

Fリーグの優勝を決める最後の舞台で、瀧澤が大分の主力選手としてピッチで戦い続けていたことは、一期生を代表するような大きな成果であることに違いない。ただやはり、それは到達点ではない。

「昨年のFリーグ選抜の選手はみんな代表を目指しているはずです。だから悔しい思いをしています。ここでやれなかったことを、次に生かさないといけない。僕は個人的に、そういうハングリーさは、去年よりも大きくなっています。試合に出たい。名古屋で出ることは、代表にもつながっていく。だからとにかく、名古屋で主力として出られるような実力をつけること。高いレベルに身を投じて気づくことばかりです」(水谷)

成長するために、もっと高いレベルで戦うために、彼らは今もなお、自分に矢印を向け続ける。

「この経験を大きなものにできるかどうかは、自分次第」(瀧澤)

プレーオフ決勝の舞台で垣間見た、Fリーグ選抜一期生の現実。ただしそれはまだ、一つの過程にすぎない。颯真と太将、フットサルで生きる同級生は、日本代表で再会する日を見据えている──。
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