五輪前後で選手の成績はどう変わる? 2008年北京五輪のパ・リーグ戦士12名の記録

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2008年、北京五輪に参加した選手たちの同年の成績は?

 年が明けて2020年、日本列島はいよいよ五輪イヤーを迎えた。今回の五輪では2008年の北京五輪以来、実に3大会ぶりに野球が競技として復活する。シーズン中の開催ということで、出場する選手たちには例年以上の負担がかかる可能性が高い。前回五輪の野球が開催されたのは12年前となるが、当時日本代表として出場した選手たちの数字を振り返ってみると、五輪の前後で明確な変化が生じていることが見て取れた。

 今回は、北京五輪に参加した24名の選手の中から、当時パ・リーグの球団に在籍していた12名の選手たちをピックアップ。五輪派遣前の時点と、シーズン通算の成績をそれぞれ紹介し、各選手の数字の変遷および、そこから見えてくる傾向について考察していきたい。

勝ち星が伸び悩む投手が多い中、圧巻の投球を見せたのは……

まずは、代表に選出された当時、パ・リーグのチームに在籍していた6人の投手について見ていこう。(所属は当時)

ダルビッシュ有投手(北海道日本ハム)
派遣前成績:19試合 11勝4敗 156.2回 150奪三振 防御率2.07
シーズン成績:25試合 16勝4敗 200.2回 208奪三振 防御率 1.88

田中将大投手(楽天)
派遣前成績:18試合 6勝6敗1セーブ 127.1回 108奪三振 防御率3.39
シーズン成績:25試合 9勝7敗1セーブ 172.2回 159奪三振 防御率3.49

涌井秀章投手(埼玉西武)
派遣前成績:19試合 8勝8敗 136回 101奪三振 防御率3.38
シーズン成績:25試合 10勝11敗 173回 122奪三振 防御率3.90

成瀬善久投手(千葉ロッテ)
派遣前成績:17試合 6勝6敗 119.2回 90奪三振 防御率3.16
シーズン成績:22試合 8勝6敗 150.2回 119奪三振 防御率3.23

和田毅投手(福岡ソフトバンク)
派遣前成績:17試合 8勝4敗 116.2回 83奪三振 防御率3.78
シーズン成績:23試合 8勝8敗 162回 123奪三振 防御率3.61

杉内俊哉氏(福岡ソフトバンク)
派遣前成績:18試合 9勝5敗 142回 151奪三振 防御率2.60
シーズン成績:25試合 10勝8敗 196回 213奪三振 防御率2.66


 北京五輪出場者は特別に設けられた規定により、派遣期間中に行われた試合を除いた数字で、規定打席や規定投球回を求めることになっていた。それ以外の試合に全て出場すれば「全試合出場」として扱われることも決まっていたが、パ・リーグ所属選手の中にはその条件を満たし、特例で全試合出場として認定を受けた者はいなかった。

 パ・リーグから派遣された6投手の中にリリーフ専任の投手は一人もおらず、その全てが先発投手だった。基本的には派遣前の時点で好調なシーズンを送っていたり、球界を代表する投手の一人として認知されていた好投手が揃っていたが、帰国後は多くの投手の勝ち星が伸び悩むケースが目立った。

 その傾向が顕著だったのが和田投手で、五輪前までは8勝4敗と快調に勝ち星を積み重ねていたものの、復帰後は6試合で0勝4敗と1つも勝てず。防御率3.18と投球内容自体は決して悪くなかったが、ルーキーイヤーの2003年から続いていた、新人年からの5年連続2桁勝利もこの年限りで途絶えてしまった。

 当時は高卒2年目だった田中投手も帰国後に3勝を積み上げたものの、惜しくも2年連続の2桁勝利には届かず。田中投手の日本における通算勝利数は99勝で、NPBでの7年間で2桁勝利を記録できなかったのもこの2008年のみ。現在になってあらためて振り返ってみると、五輪による離脱期間の影響を感じざるを得ないところだ。

 また、涌井投手は白星を3年連続の2桁勝利には乗せたが、帰国後は防御率5.84と大きく調子を落とし、通年の防御率も4点台近くとなってしまった。一方、杉内氏は復帰後の7試合で防御率2.83と好投を続けたが打線と噛み合わず、1勝の上積みにとどまった。成瀬投手も帰国後の防御率は3.48ながら5試合で2勝にとどまり、前年に続く2桁勝利を逃している。

 そんな中で、ダルビッシュ投手は帰国後に登板した6試合で5勝を挙げ、防御率も1.23と抜群の投球内容を続けた。岩隈久志投手との熾烈な争いの末にわずかの差で最優秀防御率のタイトルこそ逃したが、シーズン防御率も1点台へとさらに改善。2年連続の防御率1点台という快挙を達成し、タフな国際試合をものともしない心身両面の充実ぶりを感じさせた。

野手陣にとっては、投手以上に五輪の影響が明確に

続いて、当時パ・リーグの球団に在籍していた6人の野手についても、同様に見ていきたい。(所属は当時)

稲葉篤紀氏(北海道日本ハム)
派遣前成績:96試合 335打数105安打 13本塁打 63打点 2盗塁 打率.313 出塁率.386 OPS.905
シーズン成績:127試合 448打数135安打 20本塁打 82打点 2盗塁 打率.301 出塁率.380 OPS.893

中島裕之選手(埼玉西武)
派遣前成績:92試合 359打数123安打 18本塁打 68打点 18盗塁 打率.343 出塁率.417 OPS.985
シーズン成績:124試合 486打数161安打 21本塁打 81打点 25盗塁 打率.331 出塁率.410 OPS.937

G.G.佐藤(佐藤隆彦)氏(埼玉西武)
派遣前成績:96試合 359打数111安打 21本塁打 62打点 1盗塁 打率.309 出塁率.378 OPS.946?
シーズン成績:105試合 388打数117安打 21本塁打 62打点 1盗塁 打率.302 出塁率.368 OPS.914

里崎智也氏(千葉ロッテ)
派遣前成績:71試合 259打数69安打 12本塁打 35打点 1盗塁 打率.266 出塁率.351 OPS.776?
シーズン成績:92試合 330打数 86安打 15本塁打 45打点 1盗塁 打率.261 出塁率.351 OPS.772

西岡剛選手(千葉ロッテ)
派遣前成績:92試合 365打数110安打 10本塁打 39打点 16盗塁 打率.301 出塁率.367 OPS.833
シーズン成績:116試合 473打数142安打 13本塁打 49打点 18盗塁 打率.300 出塁率.357 OPS.820

川崎宗則選手(福岡ソフトバンク)
派遣前成績:98試合 422打数136安打 1本塁打 34打点 19盗塁 打率.322 出塁率.350 OPS.746
シーズン成績:99試合 424打数136安打 1本塁打 34打点 19盗塁 打率.321 出塁率.350 OPS.744

 野手陣の顔ぶれもチームを支える主力であり、このシーズンに揃って好調を保っていた選手ばかりだ。しかし、帰国後は6人全員が代表召集前に比べて打率を落としており、難しい対応を強いられていたことがうかがえる。

 G.G.佐藤氏は埼玉西武で中島選手、クレイグ・ブラゼル氏と強力なクリーンアップを形成し、開幕から首位を快走するチームをけん引していた。しかし、北京五輪で痛恨の落球を犯したことを境に流れが一変。メンタル面の影響もあってか帰国後は別人のように精彩を欠き、ケガにも悩まされて合流後はわずか9試合の出場でシーズンを終えてしまった。

 また、川崎選手は北京五輪期間中に左足を疲労骨折してしまい、残りのシーズンの大半を棒に振ることに。恩師の王貞治監督が指揮を執る最後の試合であるシーズン最終戦には何とか間に合わせたが、打率.320を超えていたチームリーダーの離脱もあって、チームは9月に5勝18敗と急失速してまさかの最下位に。チームにとっても、本人にとっても痛恨の長期離脱だった。

 今年の東京五輪で監督として日本代表を率いる稲葉氏が、北京五輪に現役選手として参加していたのも何かの縁か。当時36歳という年齢もあってか、五輪参加前後で打率には明確な差が出ている。それでも、帰国後の31試合で7本塁打を放つ長打力を発揮してOPSは微減にとどめ、シーズン打率も.300台をキープした。西岡選手と里崎選手もさほど成績を落とさずにシーズンを乗り切っており、2006年のWBCで活躍した経験が活きたと言えるか。

 そんな中で、2008年をキャリアハイの1年としたのが中島選手だ。守備の負担が大きい遊撃手を務めながら、3番打者として開幕から素晴らしい打撃成績を記録。復帰後はやや成績を落としたものの、離脱期間がなければ3割30本30盗塁の可能性もあったと思わせるほどの活躍で、チームが日本一に輝く原動力の一人となった。

現在も第一線で活躍を続けているのは全部で6名

今から12年前に行われた大会ということもあり、北京五輪に出場した選手の中で現在もトップレベルの舞台で現役を続けている選手は、徐々に数を減らしつつある。現在もNPBでプレーしているのは涌井投手、和田投手、中島選手、青木宣親選手(東京ヤクルト)の4名で、MLBで活躍するダルビッシュ投手と田中投手を含めた6名が第一線で活躍を続けている。

 シーズン中にチームを離れ、国を背負って戦うことは、肉体的にも精神的にも大きな負担となることは想像に難くない。大半の選手がチーム合流後に成績を落としていたのもやむなしと言えそうだが、ファンとしては選手個々と代表チームの両方に好パフォーマンスを期待したくなるもの。代表に選出された選手たちには、五輪、そしてレギュラーシーズンの双方で出色の活躍を見せてほしいところだ。


文・望月遼太
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