WALK TO THE DREAM 果てしなき夢へ 〜いわきFCの大いなる野望 第5回「地域チャンピオンズリーグ」決勝ラウンドを制し、JFLの舞台へ(後編)

いわきFC
チーム・協会

【©IWAKI FC】

 チームが現体制となって4年目。2018年までのいわきFCの戦いを振り返ると、全国社会人サッカー選手権や天皇杯といった大舞台で、持っている力を出し切れずに敗れてきた印象は否めなかった。
 今年のいわきFCは、春の天皇杯福島県予選で福島ユナイテッドFC(J3所属)に勝利。3年連続で天皇杯の県代表を勝ち取った。だが全国大会では、1回戦で仙台大に敗退。4月に開幕した東北社会人1部リーグでは首位を走り続けたが、ブランデュー弘前、コバルトーレ女川とは引き分け試合も。そして秋の全国社会人選手権は準決勝でおこしやす京都ACに敗れ、前年同様の3位。10月に東北社会人1部リーグ優勝が決まり、JFL昇格を懸けた「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2019(地域CL)」への出場資格は得たものの、そこまでの戦いぶりは盤石とはいえなかった。

 だが、ここでチームは覚醒する。

 全国の地域王者12チームが集う地域CLの舞台で、選手達は全6試合を通じて伸び伸びと戦い、見事、優勝。県リーグからJ1までのピラミッド構造の中で、最も不確実な難所といわれる地域CLで、初参戦にして初優勝という結果を出せた理由はどこにあったのか。JFL昇格決定から2週間後、いわきスポーツクラブ・大倉智社長に話を聞いた。

【©IWAKI FC】

勝因(1)選手のクオリティ向上。

「もちろん優勝できたのは、決勝ラウンドの開催地がJヴィレッジスタジアムだったりと、さまざまな運に恵まれた面もあります。とはいえ、千載一遇のチャンスをしっかりモノにできた理由を探っていくと、まず一番は選手のクオリティが上がったことが挙げられます」

 チーム立ち上げから4年が経ち、いわきFCのクラブビジョンや取り組み、環境などが徐々に浸透。特にここ数年、地域リーグからJFLという全国リーグへのステップアップが見えてきたことで、獲得選手のポテンシャルは高いものになっていた。

「例えばMF日高大は今シーズン、JFL王者のHonda FCから移籍してきた。彼はJFLのベストイレブンに選出されており、3年前には間違いなく獲れなかったレベルの選手。チームのさまざまな取り組みが注目される中、カテゴリーを下げていわきFCに来てくれたわけです。

 またMF前田尚樹も今シーズン、J3の福島ユナイテッドFCから移籍してきた選手です。彼はもともと湘南ベルマーレのユース出身で、中学生のころから知っている選手。十分な力があることはわかっていました。10代から豊富な経験を持つ彼らを獲得できたことは、非常に大きかった。

 加えて3年目のGK坂田大樹が非常に安定していた。日高、前田、坂田。この3人がしっかりと軸になってくれたことで、他の選手達も落ち着いて自分のプレーができた印象があります」

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勝因(2)選手の若さと圧倒的な走力

 地域CLは、1次ラウンドが3日で3試合、決勝ラウンドが5日で3試合。いわきFCは計6試合をほぼ固定メンバーで戦い抜き、どの試合でも後半途中からは、圧倒的な走力の差を見せつけた。

「僕らは『日本のフィジカルスタンダードを変える』というビジョンを掲げ、ハイレベルなトレーニングを積み重ねてきましたから、これは当然です。今後上のレベルに行けば戦いはもっと激しくなるわけで、フィジカル強化はまだまだレベルを上げねばなりません」

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 2016年の立ち上げから、チームは基本的に20代前半の若い選手を獲得。彼らは当初からストレングストレーニングに励み、サッカー選手として規格外の身体を作り上げてきた。現在はフィジカル=走力と明確に定義。選手の遺伝子チェックによるタイプ分類やウエイト挙上速度のチェック、脳トレによる反応速度の向上やヨガの導入による柔軟性の向上など、トレーニング内容は年々グレードアップしている。また栄養面では従来からのサプリメントプログラムに加え、栄養士が選手達の1日3食をしっかりとサポート。
「今回の優勝は、選手の若さがいい方向で発揮された結果といえます。地域CLからJFLに上がるには、若さや勢いが絶対に必要。これは前から意識していました。いわきFCにとって、若さは大切な要素です。90分間ノンストップで走り、止まらない、倒れない『魂の息吹くフットボール』はとてもハードですし、いわきFCから先のキャリアを考えても、選手の平均年齢はGKを除いて、常に25歳以下ぐらいで抑えておきたい。

 だからJリーグのチームから経験豊富なベテラン選手を獲り、核に据えるようなチーム作りはしてこなかったし、今後もするつもりはありません。それについては、湘南ベルマーレ時代に明確な成功体験がある。ベルマーレが2013年から徐々にJ1に定着していく中で、遠藤航や永木亮太といった若い選手が素晴らしいリーダーに成長。自らの価値を上げ、ビッグクラブに移籍していったわけです。いわきFCもそうありたい。今の選手達の中から今後、優れたリーダーが生まれていくサイクルを作りたいと考えています」

勝因(2)チームの結束とヒーローの登場

 きっかけは、10月の全国社会人サッカー選手権(全社)だった。2016年から参戦を続けるこの大会。いわきFCは準決勝でおこしやす京都ACに0-2で敗退し、今年も優勝はかなわなかった。だが地域CLをひと月後に控えたタイミングでの負けが、チームを変えた。

「最も大きな目標は地域CL。でも全社もしっかりと戦い抜こう。そう考えてタイトルを獲りに行きました。5日間で5連戦を戦って、結果は昨年と同じ3位。でも、ここでいろいろな課題が明確になり、地域CLに向けてそれを修正していきました」

 全社の5連戦を通じて、DFウェズレイ・ロドリゲスやFWバスケス・バイロンらがパフォーマンスを上げ、それを地域CLでの活躍につなげた。

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「DFラインにウェズレイを置いたことが、最終ラインの安定につながりました。彼の存在は大きい。今年のチームは高さ対策がカギになることは最初からわかっていて彼を獲ったわけですが、ケガが長引いてなかなか上手く機能しなかった。でも、彼は地域CLにしっかりとコンディションを合わせてきた。特にロングボールへの対処は完璧だったと思います。

 またFWバイロンは高校サッカーで活躍して今年入ってきた選手ですが、最初の約半年は環境に慣れず、なかなかフィットしなかった。でも全社の5試合で完全にレギュラーの座をつかみました。彼らのようなヒーローが出たことも、地域CLで勝てた大きな要因だと思います。

 もちろん他の選手達も、この舞台にしっかり集中して臨みました。地域CLの決勝ラウンドでおこしやす京都さんと戦うことが決まったことで『全社の借りを返そう』とチームが一気にまとまったのも大きかったです」

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要因(4)田村雄三監督の勇気ある采配

 就任3年目となった田村雄三監督の勇気ある采配も、選手達の頑張りを後押しした。

「選手にしっかりと寄り添う姿勢は素晴らしかったと思います。中でも、ミーティングでかける言葉がすごく整理されたものになった。地域CLの試合前のミーティングを見ていても、彼の言葉が選手たちの腹の中にすっと入っていくのがわかりました。
 指導スタイルはいたってシンプル。彼は決して相手チームに合わせたりしないし、常に明るく、アグレッシブに戦う。それが魅力です。もちろん地域CLには、相当なプレッシャーを感じていたと思います。実際、1次ラウンドが始まる前には、少しネガティブになっていた。だから、そこはこちらもしっかり言いました。大丈夫だ、絶対にできる。今年のチームは違う。選手を信頼してピッチに送り出してやれ、と。そこから徐々に顔つきが変わり、もともとの明るい彼自身に戻っていきました」

 田村監督が選手に寄せる信頼が見て取れたのは、第一戦の選手起用だ。失点につながるミスをしたDF増崎大虎を、第二節以降も代えることなく起用し続けた。

【©IWAKI FC】

「増崎を使うかどうかは、雄三に任せていました。ギリギリまで悩んだようですが、当日の朝に使うことを決めて、腹をくくった。そして増崎もそれを意気に感じてよく頑張った。勇気ある采配だったと思います。

 もちろん雄三だけじゃない。他のスタッフもみんな素晴らしかったですし、試合に出ていない選手達もしっかりとチームを支えてくれた。これまでに在籍した選手達も含め、全員で勝ち取った昇格であり、今回の戦いはこれからも続くいわきFCの歴史の中でも、非常に大きな節目になったと思います」

【©IWAKI FC】

狙うはJFLのタイトル。

 2019年のJFLは、Honda FCが2位のソニー仙台FCに8ポイント差をつけ、史上初の4連覇。FC今治が3位でJ3に昇格し、来年は地域CLを勝ち抜いたいわきFCと高知ユナイテッドSCが参戦する。初めてのチャレンジに向け、いわきFCはすでに7選手を補強。新たな顔ぶれを加え、いよいよ全国リーグでの戦いが始まる。

「来年はいろいろなことが大きく変わります。1年を通した戦いになりますが、集中して一戦必勝で戦い抜きたいと思います。1年目でJ3昇格圏内の4位に入ることは、決して不可能じゃない。トップには天皇杯で浦和レッズに勝ったHonda FCと、昨年の天皇杯で負けたソニー仙台FCという実業団チームがいますが、もちろん彼らにも勝ちにいきます。

 スポーツによる社会価値の創造。震災復興。地域創生。これを忘れずに、結果に拘らず結果に拘る、この矛盾するスポーツビジネスの本質にこれからも挑戦していきたいと思います」

 JFLからJ3に昇格したチームで、これまで優勝して昇格を果たしたチームはない。4連覇中のHonda FCを倒せば、リーグはきっと大きな盛り上がりを見せるだろう。2020年も引き続き、いわきFCの戦いに注目いただきたい。

【©IWAKI FC】

(終わり)



文・前田成彦
編集者。いわきFC関連の執筆の他、広報誌『Dome Journal』(http://www.domecorp.com/journal/)、スポーツニュートリションブランドDNSのオウンドメディア『Desire To Evolution』(http://www.dnszone.jp/sp/sp/magazine/)の編集長を務める。
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著者プロフィール

「いわき市を東北一の都市にする」ことをミッションに掲げ、東北社会人サッカーリーグ1部を戦う「いわきFC」の公式アカウントです。

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