FIFAワールドカップ™優勝経験者3人が揃い踏みした2月の開幕戦に始まり、MF山口蛍の日本代表復帰、ベルギー代表DFトーマス フェルマーレンやブンデスリーガーDF酒井高徳らの加入、FW古橋亨梧の日本代表デビュー、そして自力でつかんだ明治安田生命J1リーグ残留。多くのエピソードとともに歩んできたヴィッセル神戸が、いよいよJ1リーグ最終節を迎える。最大の見どころは、やはりFWダビド ビジャのJラストプレーに尽きるだろう。

　思い返せば、ヴィッセル神戸の今シーズン初ゴールは、ダビド ビジャだった。

　元スペイン代表のFWフェルナンド トーレス（第24節で引退）をホームに迎えた第2節のサガン鳥栖戦。相手DFのリフレクションに素早く反応し、最後は冷静にGKの位置を見て流し込んだ。翌節のベガルタ仙台戦では、古橋亨梧からのピンポイントクロスを右足アウトサイドで合わせてニアサイドを破った。さらに第5節ガンバ大阪戦ではFWルーカス ポドルスキのクロスを頭で合わせて今シーズン3点目。多彩なバリエーションのゴールでシーズン序盤からファンを沸かせた。

　なかでも、得意としたのが左サイドでパスを受け、ペナルティエリア内にドリブルで侵入し逆サイドのゴールネットを揺らすゴール。ラ・リーガ時代にも度々披露してきた高度なテクニックで、第13節の湘南ベルマーレ戦では相手DFを抜ききらずに、切り返しから逆サイドネットを正確に撃ち抜いている。第17節の名古屋グランパス戦では、同じようなシチュエーションから高速ボディフェイントでMFジョアン シミッチの逆をとって抜き去り、ゴールを決めた。似ているが、違う形。相手の出方を見てプレーを瞬時に選択するダビド ビジャのすごさが詰まった2ゴールと言える。

　圧巻だったのは、第18節の清水エスパルス戦での“ダブルタッチシュート”だ。古橋亨梧のロングフィードから巧みなトラップで相手DFを抜き去ると、間合いを詰めてきたGKをダブルタッチで抜くのではなく、そのままダブルタッチでシュートを放った。こんなスペシャルゴールは世界でも滅多に見られない。スペインの英雄は日本サッカー界に大きな宝物を残してくれたと言える。

　一つだけ残念なのは、その魔法のゴールがアウェイ戦だったこと。あれを超えるスペシャルゴールを、最終節のノエビアスタジアム神戸で見たい。38歳の“Jリーガー”によるJラストゴールに期待は高まるばかりだ。

　ダビド ビジャがヴィッセル神戸に残してくれたのは、記憶に残るプレーやチーム最多12ゴールという結果だけではない。チームメイト、なかでも若い選手たちに多くのいい影響を残してくれた。

　例えば、前節の鹿島アントラーズ戦でゴールを挙げたMF郷家友太はこう話す。
「ワールドカップ南アフリカ大会で得点王になった選手と一緒のチームでプレーできる、最初はそれだけですごく興奮した。華麗なボールタッチとかにも驚かされたけれど、ダビ（ダビド ビジャ）から学んだのは“もっと強引にシュートを打っていっていいんだよ”ということ。あれだけドリブルやシュートテクニックがあるのに、強引に行くところはいく。その姿勢に刺激を受けました」

　パサーの視点からダビド ビジャのすごさを話すのは、MF安井拓也である。
「相手DFにボールを取られても別に構わないって感じで常にゴールを狙い続けている。どん欲な姿勢には驚かされました。パスの出し手としては“なるべく最短ルートでゴールが狙えるプレーをしていこう”とアドバイスを受けた。相手DFの裏のスペースを常に狙っているダビらしい言葉だと思います」

　ダビド ビジャだけではなく、MFアンドレス イニエスタやルーカス ポドルスキら世界トップ選手と一緒に練習するだけで自然と技術は向上する。加えて、彼らは世界基準のマインドをヴィッセル神戸に植えつけたわけだ。

　そして、若い選手たちは自分たちの成長を披露するように、前節はダビド ビジャ、アンドレス イニエスタ抜きで、タイトルレースに絡んでいた鹿島アントラーズに勝利。目に見える形で、着実にベースアップできていることを証明してみせた。そういう意味でも、ダビド ビジャと過ごした1年は大きかったと言える。

　12月3日のメディア公開練習。この日、38歳のバースデーを迎えたダビド ビジャはフルメニューをこなし、ゲーム形式の練習では軽快な動きを見せた。最終節に向けてコンディションは上々。気持ちも高まっている。それはこんなエピソードからもわかる。この日の練習後、足を引きずるようにクラブハウスから出てきた安井拓也は「今日誕生日の人に削られました（笑）」と打ち明けた。

　ダビド ビジャはいつも本気だ。それはJ2降格が決まってしまったジュビロ磐田が相手でも変わらない。ゴールを狙っていく。

　text by 白井 邦彦