瀬戸勇次郎・柔道“期待の星”が歩む東京2020パラリンピックへの道

チーム・協会

【(C)Masashi Yamada】

2年前の夏、視覚障害者柔道界にニュースターが現れた。その名は、瀬戸勇次郎。健常者の柔道から視覚障害者柔道に転向後、2018年に全日本制覇。東京2020パラリンピック出場を見据え、世界への扉を開いたフレッシュな19歳に聞いた!

――瀬戸選手は、福岡で特別支援学校教諭になるために大学生活を送りながら、毎日の練習で汗を流す。

大学生活はいかがですか?

柔道部の朝練があるので毎朝がんばって起きています(笑) ひとり暮らしをしていて毎日、道着を洗わなくてはならないので、親のありがたみが身に沁みますね。夕食は学食のテイクアウトをよく利用します。自宅を出る前に、お米二合を炊飯器にセットするのが日課です。

教師を目指しているんですね。

中学生の頃、なんとなく学校の先生になりたいなと思って、特別支援学校教諭免許が取得できる大学に入学したんです。自分は生まれつき弱視ですが、一般校に通っていたので、もちろん苦労はありましたが、社会でうまくやっていく術を知ることができたんです。それで特別支援学校の教師になり、自分が感じた“支援さえあればいろいろとチャレンジできる”ということを当事者に伝えたいなって。

【(C)Masashi Yamada】

教員免許取得に向けて学業に勤しんでいるわけですね。

はい。僕が通う福岡教育大学には支援センターがあり、拡大資料やデータを用意してもらえるので座学も苦になりません。でも一番楽しいのは、体育の授業ですね! とくに卓球は、高校時代に柔道場横の卓球場で後輩とよくやっていたので好きですね。球を追えず、空振りをすることもありますが、思い切りスマッシュするのが快感です!

【(C)日本財団パラリンピックサポートセンター】

――大学でも柔道部で活動しているが、これまでも健常者の中で柔道経験を積んできた。そんな瀬戸選手にとって視覚障害者柔道の世界はどのように映ったのだろうか。

デビュー戦となった全国視覚障害者学生柔道選手権。キレのある動きで男子66キログラム級の選手を圧倒していましたね。

高3のときですね。腕がパンパンになって本当にキツかったです。組んだ状態で始まる視覚障害者柔道の試合形式はあれが初めてでしたから。だから大学ではウエイトトレーニングで腕力を鍛えることに重点を置きました。でもダンベルで鍛えていたら肩を痛めてしまって。今は乱取りをするなかで鍛えるようにしています。

“転向”の決め手は何だったのでしょう。

実は、あの大会で優勝したことを記事にも取り上げてもらってひっこみがつかなくなり……今もこうして続けています(笑)でも、健常の世界で戦うより、パラのほうが勝てる可能性があるからモチベーションは高く臨めているかな。これまでは、見えないというのと、そもそも組み手争いが下手くそだったので、どうしても自分の持ちたいところを持つことが難しくて……。だから、組んだ状態で始まる視覚障害者柔道のほうが自分に向いていると思いますね。

そして、パラリンピック3連覇のレジェンド藤本聰選手を敗り日本一になると、今年3月に東京で行われた国際大会で優勝。5月には初の海外遠征を経験しましたが、世界と戦って感じたことは?

5月のアゼルバイジャンでの国際大会では9位でした。最初はどれくらい戦えるか予想もつかなかったけど、実際に戦ってみてもう少し上にいきたい、いや上に行ける! という思いが強くなりましたね。海外の選手は日本の柔道とは異なり戦い方が変則的で、襟や袖以外を持たれたり、引き込むような技を仕掛けたりしてきます。それに対応できる経験が必要だと思ったし、やはり藤本さんのような長年、世界と戦ってきた選手は強いな、と。ですから、国内で藤本さんに勝てるイコール世界に勝てるというわけでは全然ありません。

【(C)Masashi Yamada】

世界で勝てる選手になるためには?

新しい技を覚えたいです! 対戦相手の研究をすることも必要かもしれませんが、警戒のあまり自分がやりたいことを出せなくては元も子もないので、対戦相手に対して自分がいかに仕掛けていくか、その局面でどう対応するのかが大事だと思っています。健常者とやってきた経験も活きるけれど、新たな技を見せないと世界で通用しないなと……。

得意技は、背負い投げですね。

実は、14年ほど前からずっと背負い投げを練習してきたのですが、うまく技がかかるようになったのは大学生になってから。技の習得はなかなかうまくいかず、自分にはすぐにあきらめてしまうところがあるんですが、やはり続けていくとそのうちできるようになる。まさに“継続は力なり”。長くやれば、体が覚えるのだと実感できました。一方で得意の背負い投げを活かすためにも、その対となる技を習得しなければと思います。


――視覚障害者柔道の日本代表として東京パラリンピック出場が期待される瀬戸選手。東京パラリンピックでは20歳。自身のどんな姿を思い描いているのだろうか

【(C)Masashi Yamada】

高校は強豪に通い、団体戦で全国大会に出場。視覚障害者柔道に転向した瀬戸選手への同級生の反応は?

最初の大会で優勝したので同級生には「日本一!」とかいじられました(笑) 高校の柔道部は今も仲が良く、毎年お盆や年末は高校のOBで集まりますが、みんなさりげなく「がんばってね」と声をかけてくれます。

関係者に声をかけられて視覚障害者柔道の大会に出場するようになったわけですが、当時パラリンピックはどんなイメージでしたか?

正直なところ、オリンピックと比べて盛り上がらないイメージでした。冬季競技の片足で滑るアルペンスキーとか、見れば断然面白いんですけどね。盛り上げるためには競技人口を増やすことかなと思うので、自分が活躍することでパラの競技人口を増やしたいですね。

最後に、東京パラリンピックの目標は?

まだ経験が浅いので、東京パラリンピックには出場できれば御の字です。そのためには、全日本に勝って日本代表になり、世界大会でランキングアップのためにポイントを稼がなくてはならない。次なる大きな大会で勝てるよう、背負い投げにつなげるパターンを増やしていきたいです。あまり高望みせず、目の前のことに集中します!

text by Asuka Senaga
photo by Masashi Yamada

※本記事は2019年10月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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