これぞ“上半身の世界No.1”決定戦! わずか3秒に4年間のすべてをぶつける選手の勇姿を見よ

チーム・協会

【(C)Getty Images Sport】

血の滲むような努力によって鍛え抜かれた体を使い、4年間のあらゆる想いをぶつけることができる時間はたった3秒……。そんな過酷な競技が上半身の力を使って行われる「パラ・パワーリフティング」だ。ベンチプレスの要領でバーベルを持ち上げる、という一見単純明快に見えるこの競技では、筋力はもちろん、瞬時に最高のパフォーマンスを出す瞬発力、そして己に克つ精神力が試される。勝負にかける選手たちの熱い想いと、それを見守るコーチの緊張感が観戦者に直に伝わってくるエキサイティングなパラリンピック競技だ。

上半身のみの力で100kg以上を楽々と持ち上げる猛者たち

(写真はリオパラリンピック)?Getty Images Sport 【?Getty Images Sport】

地球上で最も筋力を必要とするスポーツといわれる「パワーリフティング」。一般のパワーリフティングでは、「スクワット」「ベンチプレス」「デッドリフト」の三種目で持ち上げた総重量で競うが、下肢障がいのある選手が行う「パラ・パワーリフティング」ではベンチプレスのみが採用されており、基本的には一般のベンチプレスに準じたルールで試技が行われる。

実際の試技は、選手が台上に仰向けになり、バーベルを押し上げる。一般のベンチプレスでは足を地面に着け、踏ん張る力も利用してバーベルを持ち上げるが、パラ・パワーリフティングでは全身をベンチプレス台の上に乗せるため、この踏ん張りが効かず、まさにほぼ上半身の力だけであの重いバーベルを持ち上げることになる。そして驚くべきことに、トップレベルになると男子で最軽量の49kg級の選手でも優に自分の体重の2倍以上のバーベルを持ち上げるのだ。

ここで普段の生活を想像してみてほしい。私たちが何か重いものを持ち上げるとき、必ずといっていいほど下半身の力を頼っている。それを考えると、上半身のみの力でバーベルを持ち上げるパラ・パワーリフティングが、いかに難しいかが理解できるだろう。

また他のスポーツでは、試合の経過とともに緊張がほぐれたり、次第に実力を発揮できるようになることが多々あるが、パワーリフティングでは準備後すぐにバーベルを持ち上げなければならない。試技の時間も約3秒という超高速の競技のため、一瞬の気の緩みや過度な緊張が命取りになるのだ。

この緊張感を克服し、3秒の戦いに4年間の練習成果の全てを集約させる強靭な精神力こそが、パワーリフティング競技の肝なのだ。

パラならではの光景。舞台上でのコーチと選手の人間模様にも注目!

(写真はロンドンパラリンピック)?Getty Images Sport 【?Getty Images Sport】

パラ・パワーリフティングを観戦するなら、コーチの存在にも注目したい。コーチは選手が乗る車いすを押して舞台に上がり、一般のパワーリフティングと違って試技中は声の届く場所から選手をサポートすることができる。

そのサポートの仕方は十人十色で、熱い声で選手を鼓舞するコーチもいれば、選手が競技に集中できるよう淡々とサポートするコーチもいる。試技が成功すればコーチは自分のことのように喜びを爆発させ、選手と熱く抱き合うことも。選手同様にコーチも、この瞬間にかける想いがあるのだ。

また、選手たちの鍛え上げられた筋肉を見ることも、この競技の楽しみのひとつだ。どんな階級の選手であれ、鍛錬に鍛錬を重ねた胸・肩・腕の筋肉隆起は、美しく、たくましく、しなやか。
世界的な普及活動の広がりもあり、現在競技選手は110カ国以上に及んでいるというパラ・パワーリフティング。上半身のみで3秒の戦いに挑むパラ・アスリートたちの迫力の試技を、ぜひその目で観てほしい。

上半身の力を使い、たった3秒間で自分の限界に挑戦していく競技「パラ・パワーリフティング」。この驚異の筋力と強靭な精神力を求められるスポーツは、ただの力比べではない。2020年の東京パラリンピックの競技会場に足を運べば、その「強さに魅せられていく感覚」を体感できること間違いなしだ。


text by Tomoko Motoi(Parasapo Lab)
photo by Getty Images Sport


※本記事は2019年7月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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