【U-20フットサル王者の座談会】Fリーグ選抜の5人は、アジアの頂でどんな景色を見たのか?

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【舞野隼大】

6月に開催されたAFC U-20フットサル選手権イラン2019において、悲願のアジア王者に輝いたU-20日本代表。Fリーグ選抜からは、追加招集を含めて5人が参加して、それぞれが優勝に大きく貢献した。

守護神としてビッグセーブを連発した田淵広史、キャプテンとしてチームをまとめ上げた畠山勇気、アジアを舞台に高いスキルを披露した?橋裕大、リーダーシップを発揮してピッチで仲間を鼓舞した山田凱斗、大事な場面で印象的なゴールを挙げて結果を出した松川網汰。

頂点までの道のりは、当たり前だが、楽なものではなかった。それでも彼らは、個人としてもチームとしても大きく成長するなかで、目に見える結果を残し続けていった。あの大会で彼らは何を感じ、どのようにプレーしていたのか。そしてアジアの頂で、どんな景色を見ていたのか──。

決勝はアフガニスタンサポーターの大歓声がすごくて……

──改めて、優勝おめでとうございます! 率直にどんな大会でしたか?

田淵 まず思うのは「楽しかった」ですね。

高橋 うん、それは間違いない(笑)。

田淵 1試合1試合、展開も内容もすべて違う戦いだったからね。

畠山 そうそう。すべてが難しい戦いでした。

山田 楽な試合はなかった……。

田淵 点差がつく試合もほとんどなかったし、全く余裕はありませんでした。

──前回大会は準々決勝でイラクに敗れました。みなさんはその大会を戦っていたわけではないですが、今大会はまたしても準々決勝でイラク戦に臨むことに。「先輩たちのリベンジ」の気持ちはありましたか?

畠山 それはありました。チーム内には、「先輩方のために」という空気が流れていましたね。

田淵 うん。自分たちの年代で勝ちたかった。

松川 あの試合は、そういう意味でもチームが一体になっていたよね。

畠山 そうそう。「絶対に勝ちたい」という気持ちが強かった。

──イラクに2?0で勝って、次の準決勝では開催国のイランとの対戦。

高橋 一度、負けていましたからね。

山田 うん、4月の台湾(2019 CTFA U20 Futsal Invitation)では(2?3で)負けた。僕らが同年代との公式戦で負けたのはあの試合だけ。そういう意味でも、全員がイランへのリベンジという気持ちがありました。メンバーも(2018年の活動から)ほとんど変わっていなかったので。そういう意味でも選手やスタッフを含めた全員の意識は統一されていたと思います。

田淵 台湾では第2PKで決められてしまっていたので、個人的にも勝ちたかったですね。

松川 やっぱり前回王者だし「イランを倒したい」という気持ちは強かった。

──会場の雰囲気はいかがでしたか?

高橋 準決勝からは特にすごかったよね。

山田 うん、準決勝、決勝は、(会場が)ものすごくうるさかった。何て言っているかはわからないんだけど、すごかったよね(笑)。

高橋 耳が痛くなったよね。

田淵 あれで久しぶりにブラジルを思い出した。ブラジルだと試合はだいたいあんな感じだからね(編集部注:田淵選手は日本国籍を持つサンパウロ出身の選手)。

山田 国に帰った感じ?

田淵 うん。

──そういう試合のなかでは、どのようにコミュニケーションを取っていたのでしょうか?

田淵 ジェスチャーですね。

山田 そうだね。

畠山 あとは自分の動き。

山田 でも、キックインやプレーが切れたときは、観客が静かになる瞬間もあったから、僕らのセットはそういうときにいろいろ確認していたかな。

高橋 たまに(仲間の声が)聞こえることはあったね。

畠山 あとはピッチから戻ってきたベンチでも話していました。

山田 ベンチでもかなり大きい声を出さないと聞こえなかったけどね。

松川 でも、イラン戦より決勝のアフガニスタン戦の方がうるさかった。耳に響いたというか。

──観客数は、地元イランの試合よりも決勝の方が多かったようですね。

田淵 そうです。(開催国の)イランじゃないし、みんなで「お客さんはあまりいないんじゃないかな」って話していたんですけど。

高橋 でも、入ったらすごかった……。

田淵 うん。アップでピッチに向かったらものすごい雰囲気だった(笑)。

畠山 こんなに人が入るんだ、ってね。

松川 そのほとんどがアフガニスタンのサポーターだった。

田淵 後ろから、めちゃくちゃ「タブチ! タブチ!」って言われた(苦笑)。

山田 ユニフォームの名前を読んでいるだけ(笑)。

松川 俺なんて「イッスンボウシ!」って言われていたらしいよ(苦笑)。

高橋 え、一寸法師?

松川 俺は聞こえてなかったんだけど、そうみたい。

山田 網汰は小さいからね(笑)。

“心が2倍になった”、代表チームを救う追加点

──決勝は前半を2?0で折り返して、終盤までその点差で進んでいました。でも、34分に失点して1点差に。あのときの心境を覚えていますか?

畠山 あの失点は、僕がキックフェイントでかわされてしまいました。

高橋 あのときの音量はすごかったなぁ。決められた瞬間、会場が揺れたよね(笑)。

田淵 そうそう。ボリュームがすごくて、頭が痛くなったから。

山田 あの雰囲気には焦ったよね。

畠山 いやいや、俺が一番焦ったから。やばい、終わった……って。

田淵 だけど(38分にパワープレー返しから自分の)ゴールが決まったときは「心倍(こころばい)」になった。

松川 こころばい? ダブルハート(笑)?

田淵 そう、ダブルハート。

──3?1とリードを戻したあのゴールは、チームに大きな勇気を与えた、と。

高橋 もう、勝ちを確信しましたね。

田淵 いやいや、俺は何も思っていなかったよ。

松川 めちゃくちゃ喜んでいたじゃん(笑)。

田淵 でもまだわからなかったから。

高橋 でも、絶対に守れるという感じはあったよね。

田淵 うん。“心が2倍になって”守れる自信はついた。

山田 2倍になった(笑)?

田淵 うん、2倍。4倍でもいいけど(笑)。とにかく自信になった。

──独特な表現ですね(笑)。そして試合終了の笛がなって、優勝が決まった。どうでしたか?

高橋 とにかく、嬉しかった。

田淵 そのまま膝をついて泣いちゃいました。

畠山 その瞬間、僕はベンチでしたけど、めちゃくちゃ嬉しかったですね。

──表彰式では、畠山選手がトロフィーを掲げました。畠山キャプテンはどのようなリーダーでしたか?

高橋 キャプテンのくせにちょっと天然(笑)。でもやっぱり、一番キャプテンを任せられる選手でしたね。

畠山 個人的には、キャプテンっていうタイプじゃないと思っていたんだけど……。

田淵 そういうキャプテンもいるよ。

畠山 何もしていなかったけどね。

田淵 代表のキャプテンって絶対に難しいと思う。これをやるっていう明確なものは、円陣の前に声を出すことだけ。そういう意味では、誰でも大丈夫だったよね(笑)。

山田 勇気はもちろん素晴らしかったけど、でも全員がキャプテンみたいな感じだったね。

田淵 うん、全員がキャプテンだった。仲間を信じて戦います!

松川 戦います(笑)?

田淵 戦いました(笑)!

──畠山選手は、キャプテンとして何か特別な意識はありましたか?

畠山 うーん……特に意識をしていませんでした。考え過ぎると自分のプレーもうまくいかなくなってしまうのではないかと思っていたので。

田淵 でも、落ち込んでいる人がいたら、声を掛けていたり。

畠山 今さっき話がありましたけど、やっぱりみんながキャプテンのようでしたし、何か特別なことを意識していたわけではないですね。

──では、この5人でMVPを決めるとしたら?

山田 なんだかんだで、網汰はすごかったと思う。

松川 いやいや……。

高橋 最後に出てきて仕事をして帰る、みたいな(笑)。仕事人や。

田淵 でも、みんながMVP。

畠山 全部「みんな」でまとめようとする(笑)。

田淵 だってみんなゴール決めたじゃん。

松川 たしかに。

山田 1人がゴールを決めて勝った試合はなかったよね。

松川 でもMVPはラファ(田淵)じゃないかな。

田淵 いや、失点しなかったのはみんなでゴールを守ったから。そう考えるとみんなじゃないかな?

高橋 いや、ラファで。

田淵 何もしてないよ(笑)。

山田 俺ら、(5試合で)失点数は4とか5だよね?

畠山 いや、7失点だよ(笑)。

山田 そんなに失点した? そうか、イランに4失点したからね。

畠山 でも、他国と比べても少なかったと思う。

山田 それで、何点取ったんだっけ?

松川 5試合で17点。

山田 うーん……ラファがすごく頑張ってくれたおかげだし、やっぱりラファかな。

田淵 みんな頑張ったよ。

高橋 みんな頑張ったけども(笑)。

松川 やっぱり、めちゃくちゃ止めてくれたからね。

オフ・ザ・ピッチのMVPは……?

──では、ムードメーカーとして盛り上げたオフ・ザ・ピッチのMVPは?

高橋 伊名野慎ですね。

松川 伊名野ですね。

田淵 これは間違いないですね。

畠山 間違いない。

山田 伊名野は試合でも必ずベンチのMVPなので。

田淵 すごかった。いなかったら本当に困っていたと思う。

山田 本人は(出場時間ゼロで)一番悔しかったと思うけど、一番戦っていた。

田淵 僕が止めたら、僕より喜んでいたから。

松川 そうだね(笑)。

山田 アップゾーンの一番前まで出ていたから。

高橋 そうそう。イエローカードをもらいそうになっていた。

松川 しかも何回も。

田淵 最後は、優勝してみんなで喜んでいるなかで、一人で泣いていた。

畠山 慎は本当にすごかったよ。

──では、鈴木隆二さんはどんな監督でしたか?

畠山 監督、隆二さんでよかった……。

山田 うん。監督がいなかったら大変だったと思う。

松川 ミーティングもすごく印象的だった。

山田 モチベーションの持ち上げ方がすごいよね。

高橋 そうそう。どんなにしんどくても「頑張ろう!」って思えた。

田淵 緊張しないための話とか、心に刺さったよね。

──印象的な言葉やエピソードはありますか?

畠山 ハードワーク。

高橋 あと、たまにボケをはさんでくる。

松川 そうだったね(笑)。

高橋 真面目な話をしていて、ずっとその感じが続いていたのに、急にボケる。だから僕らはみんな笑えないんです。「え? 今、笑っていいの?」って(笑)。

畠山 どんなのがあったっけ?

高橋 「ブロックのときは肘を出せ」とか。

田淵 それは台湾のときのだね。

畠山 ああ、あれはビックリした(笑)。

田淵 「相手が来たらとりあえず肘を出せ!」って。

山田 逆手は(グーにして)抑えてね。

畠山 は、はい……っていうリアクション(笑)。

田淵 あれは練習中に急にやったね(笑)。

──(笑)。では最後に、今大会を通して何を得たと感じていますか?

高橋 一番は、気持ち。

畠山 そこは強くなったね。Fリーグではなかなか味わえないような雰囲気を体感できたことが大きかった。

田淵 自分は、どんな試合でもしっかりと準備して、100%でプレーしないとやられてしまうと思いました。

畠山 それは間違いなく感じた。

田淵 代表の試合は、一瞬でも気が緩んだら取り返すのが難しくなる。40分間、100%集中し続けないとやられるんじゃないかという感覚。それを一番感じたのはタジキスタン戦ですね。3?0で勝っていましたが、最後の方に失点して、そこからガンガン攻められた。「集中しないと危ない」って。

山田 たしかに、失点の後からめちゃくちゃ攻められたよね。

松川 僕は国際試合も、国外に行ったことも初めてでした。外国人選手と戦ったことで、日本人にはない身体能力なんかも体感できましたし、そういう意味でも自分にとって大きな経験だったと思います。

高橋 1試合が終わって、休んでまたすぐに試合という繰り返しは、本当に体がキツかった。頭の中もパンパンな状態だったので、それをどうやってクリアな状態に持っていくのか。そこが一番の経験でしたね。

山田 全勝で優勝できましたけど、あの喜びは、勝つことでしか得られないと思います。勝つことの大切さ。それと、勝つことでチームとしても成長して、一体となっていくあの感じ。Fリーグ選抜でも同じように、勝つことで成長できると思います。「勝ちたい」という気持ちが今まで以上に強くなった大会でした。
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