【馬術】「CPEDI3★Gotemba 2019 Summer」24歳の稲葉将らが成長をアピール

チーム・協会

【©?Atsushi Mihara】

東京2020パラリンピックの日本代表人馬の選考対象になる「CPEDI3★Gotemba  2019 Summer」がJRAD国内競技会 Part?を兼ね6月7日から9日まで、静岡県の御殿場市馬術・スポーツセンターで開催された。強化選手4名を含む、10人馬が出場し、グレードIIIの稲葉将がピエノ号と唯一、最終日のフリースタイルに進んだ。大会2日目には、グレードIIの吉越奏詩がバイロンエイティーン号と東京パラリンピック出場の最低基準となる62%の突破に自身として初めて成功した。

ここでは24歳の稲葉、18歳吉越、そしてすでに最低基準をクリアしている26歳の高嶋克士(グレードIV)という期待の若手3選手の戦いぶりをお伝えする。

元JRA騎手・高嶋は愛馬ケネディーHとまい進

すでに東京パラリンピックの基準をクリアしている高嶋克士とケネディーH 【©?Atsushi Mihara】

チームテストが行われた大会初日、東海地方は梅雨入りを迎えた。

しかし、この日は梅雨明け直前のような激しい雨が降り、大会は荒れ模様の出だしに。強い雨音に多くの馬が委縮し、選手たちは手綱さばきに苦慮することになった。

2016年からパラ馬術に参戦している元日本中央競馬会(JRA)騎手の高嶋克士もそんな一人だ。コンビを組んで2年経つケネディーH号は、「今日は天候的な面もあり、普段とだいぶ違った」という。演技中、平常心を欠いたことなどからケネディーH号が駈歩の課題で大きく跳ねて減点になる場面もあり、スコアは56.958%に留まった。インディビジュアルテストも58.374%で、最終日のフリースタイル(※)には進めず、競技は2日目で終了した。

※今大会は、チームテストとインディビジュアルテストの平均が60%以上の人馬がフリースタイルへの出場資格を得た。

雨の練習馬場から屋内に入って演技した高嶋 【©?Atsushi Mihara】

今回は不発だったといえるが、リオパラリンピックで日本代表監督を務めた日本障がい者乗馬協会の三木則夫パラ馬術強化本部長が、「元JRAの騎手だけあって馬とのコミュニケーション力が高く、伸びしろは大きい」と語るように、高嶋は日本のエース格としてさらなる成長が期待される26歳だ。

馬が跳ねたシーンも「今回くらいの暴れ具合は、僕には大したことはない。競馬のときのほうがよほど危ない思いをしてきたので」と涼し気に語る。

今後もともに歩むつもりのケネディーH号は、「健常者と多少違う指示も素直に聞いてくれますし、厳しいことを強く求めても耐えてやってくれるいい子です」と脳挫傷による後遺症で右半身にまひが残る高嶋との相性もよさそうだ。人馬一体となり東京パラリンピックへの挑戦を続けていく。

18歳・吉越は東京パラリンピックへ大きく前進

バイロンエイティーン号に騎乗した若手ホープの吉越奏詩は、チームテスト56.515%、インディビジュアルテスト63.432%でフリースタイルに進めなかったが、初めて東京パラリンピックの最低基準を超え、三木強化本部長を「今回の競技会の大きな成果」と喜ばせた。

今年大学生となったばかりの吉越奏詩に期待がかかる 【©?Atsushi Mihara】

吉越は現在、日本体育大・児童スポーツ教育学部で学ぶ18歳。脳性まひのリハビリの一環で幼い頃から乗馬に親しんできた。東京パラリンピック出場を決意してから、静岡乗馬クラブでロンドンパラリンピック出場の浅川信正氏の指導を受け、大学生になった現在は成田乗馬クラブで週3日ほど練習に励む。

今回、最低基準を超えたバイロンエイティーン号は、「馬場に入った瞬間、“オレはやる”という気持ちになる、やる気がすごい馬」で、オリンピックに出場してもおかしくないポテンシャルがあるという。今後は、オランダにいるエクセレント号という馬も日本に呼び寄せ「2頭で東京パラリンピックを目指したい」と準備を進めている。その東京パラリンピックでは「これまで入賞している選手はいるので、メダルでないと価値がない」と強い気持ちで臨むつもりだ。

東京パラリンピックへの決意を述べる吉越 【©?Atsushi Mihara】

なお、吉越が基準を突破した日、リオパラリンピック代表の宮路満英(グレードII)も、オランダのCPEDI(※)のインディビジュアルテストで66.127%のスコアを叩き出し、初めて東京の最低基準をクリアした。今後、日本のグレードIIの層が厚くなっていきそうだ。

※CPEDI:国際馬術連盟(FEI)の国際大会運営基準に従って行われる競技会

稲葉将は唯一、フリースタイルへ進出

今大会で、ただひとりフリースタイルへ駒を進めたのは24歳の稲葉将だ。3月に最低基準を突破しているピエノ号とは、チームテスト63.970%、インディビジュアルテスト63.824%と安定した演技を披露した。今回も無事、最低基準を超えて開放感を得た稲葉は「最終日はリラックスしながらできた」と話し、フリースタイルは66.633%で大会を締めくくった。

稲葉将とピエノチームテストで出場選手最高スコアだった 【©?Atsushi Mihara】

存在感を光らせた稲葉だが、その口からは反省の弁が多く述べられた。「3月の大会よりスコアを2%アップさせる」という目標を達成できなかったからだ。大会期間中、多くの関係者から「前よりもよくなっていたね」と声をかけられ、自身でも手ごたえがあっただけに、「点数としてしっかり表れてこないもどかしさがある」と話す。

フリースタイルについても課題は残った。予定より音楽が早く始まってしまうハプニングの焦りがピエノ号に伝わり、「馬のテンションをコントロールしきれなかった。どんな状況でも馬と対応できる選手にならなければ」と反省を口にした。

それでも、稲葉は今大会で棄権したビーマイボーイ3号とも最低基準を突破しており、日本のパラ馬術を引っ張っていく一番手であることは間違いない。10月に開催予定の「CPEDI3★Gotemba 2019 Autumn」には新たな馬と出場する予定で、果敢に挑戦する姿勢を貫いている。

※パラリンピックの出場資格は“人”だけでなく、“馬”にも必要となる。アクシデントに備えるためにも、複数の馬で資格を取得することが理想とされている。

得点を伸ばせず、もどかしさを口にした稲葉 【©?Atsushi Mihara】

試合後は、穏やかな物腰で「東京パラリンピックでは最低、今回のように3日間を戦い、8位以内に入ることを目指しています」と語り、「僕らの結果次第で、このマイナースポーツの状況も変わるかもしれないから」と強い決意をのぞかせた。

――この思いは他の選手も同じだろう。

6月4日時点では、3選手の世界ランキングは、稲葉15位(グレードIII)、高嶋17位(グレードIV)、吉越19位(グレードII)。世界のトップは、オランダ、デンマーク、ドイツなどのヨーロッパ諸国が占めており差は小さくないが、日本選手たちは、スコアをパラリンピック入賞レベルの68%以上に引き上げていくことを直近の目標にして練習に励んでいる。

三木強化本部長は、「日本選手は、海外選手のように気軽に様々な馬に乗れる環境にはないハンデはありますが、対等の勝負ができるチャンスはあります」と気を吐いていた。

東京パラリンピックに向ける戦いは続く 【©?Atsushi Mihara】

グレードVは右上腕欠損の石井直美が優勝した 【©?Atsushi Mihara】

text by TEAM A
photo by Atsushi Mihara

※本記事は2019年6月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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