【アジア王者を目指すキミたちへ】前回大会の主軸2人が託す想い。「楽しみながら、僕らの分まで」(伊藤圭汰&中村充)
【SAL】
「最後まで何が起こるかわからない」、「決めるべきときに決めないと勝てない」。
国を背負う戦いで痛感したことがあった。しかし、それがあったからこそ、勝負の厳しさ、アジア王者になれなかった悔しさがあったからこそ、彼らはその後、大きく成長を遂げた。
何よりも、同年代の仲間と切磋琢磨した掛け替えのない時間も彼らの財産になった。“アジアを知る”先輩2人が、「自分たちの分まで」という想いを、後輩に託した。
短期決戦は勢いも大事
伊藤 町田アスピランチに所属していて、トップではプレーしていませんでした。昇格するために頑張っていましたね。
中村 自分は特別指定で(トップチームに出場できる状況で)したが、試合にはほとんど出られていませんでした。メンバー入りしても出ない試合が多かったので、アスピランチがメインでしたね。
──2人はアスピランチで一緒だったわけですが、お互いの印象はどうでしたか?
伊藤 充はシュートがすごくて、大事な時に点を獲ってくれるチームにとってありがたい選手。大きな存在でしたね。同い年で仲も良いし、試合も一緒に出る機会が多かったので、息が合うしやりやすいですね。
中村 圭汰は、(アスピランチに)入ってきたばかりだったけどすごかった。それまではずっと同い年の選手がいなくて、やっと圭汰が入ってきたと思ったら、すぐに試合に出始めたんです。1年目にしては単純に「上手いな」と。俺は1年目から出られなかったですし、天才だなと。言いすぎかも(笑)。でも、今はもう日本代表選手ですし、本当に吸収が早いなと。個人的には、目が合えば何をするかがわかるくらい一緒にやっていてプレーしやすい選手ですね。
──お互いに認め合いながら、一方ではライバル?
中村 もちろんです!
伊藤 自分が入ったシーズンから充はトップチームに登録されたので、「充を追い越す」ことが目標でした。
中村 圭汰も(アスピランチで)たくさん試合に出てたじゃん(笑)。だから自分も(トップチームで出られない)焦りがあったし。トップで出るためにも、まずはアスピランチで結果を残さなきゃいけないなと。そういう意味でも、圭汰からは多くの刺激を受けていましたね。
──そんな2人が、そろってU-20日本代表に選ばれて、2017年大会に出場しました。グループステージ最初のチャイニーズ・タイペイ戦はどうでしたか?
伊藤 みんな緊張していました。それこそ(清水)和也くんでさえ緊張していて(笑)。初戦の入りは、みんながフワフワしていてよくなかったですね。点が入らなくて焦れる時間もありました。そんななかで、充がすごいゴールを決めた(笑)。
中村 あれはすごかったね(笑)。
伊藤 そこから少し落ち着きが出たよね。相手のレベルもわからない状況で迎えた試合だったし、初戦でだったし……不安や緊張はありました。
中村 たしかに試合への不安や緊張はあったけど、俺のなかでは、今までにない楽しさもあったかな。あの状況を楽しめていたことが大きかった。ゴールを決めたときのみんなが喜んでいる感じを見てどんどん楽しめるようになったからこそ、4?0という大差になったのかな。
試合後のU-20日本代表選手たち 【SAL】
伊藤 どっちの試合も終了間際に追いつかれたんだよね。タジキスタン戦はゴレイロに決められて、インドネシア戦はめっちゃ早いボールをヘディングで決められた。なんというか……アジアの試合だけど、世界は広いなと感じました。しかもタジキスタン戦は、充が土壇場で(勝ち越しゴールを)決めてくれて「勝った」って思ってしまった。
中村 そうそう。「これは来た!」って。全員がそう感じている雰囲気だったよね。それでパワープレーを受けて、俺が交わされて失点。最後の最後、ちょっとした緩みを突かれたなと。
伊藤 相手のゴレイロが打ったシュートだったよね?
中村 そう。俺のミスで、パワープレーなのに縦(のコース)を切る守り方をして交わされて……。
──でも中村選手は、続くベトナム戦でもゴールを決めて大活躍でした。
伊藤 この大会の充は本当にすごかった。俺はノーゴールだし(笑)。最初の試合でポストに当たるシュートがあったけど……。
中村 2本くらいあったよね。
伊藤 そこで入っていれば……。特に1本目が入っていれば乗っていけたのかな。あれが入らなかったから、そのままノーゴールで終わっちゃった感じ。
──入った中村選手と入らなかった伊藤選手(笑)。
伊藤 そうですね。俺は最後まで入らなかった。やっぱり短期決戦は勢いも大事だしね。
中村 そこは本当に大事だと思う。
──迎えた準々決勝はイラクに0?1。アジア制覇の夢が潰えてしまいました。
中村 あの試合は俺がボールを取られて失点したイメージしかない。
伊藤 イラクは予選で戦った相手たちよりも体がゴツかったよね。
中村 身長も高かったし、太ったピヴォもいた(笑)。
伊藤 いたいた、動かないピヴォ(笑)。
中村 チームとして1位通過を狙っていたなかでの2位通過。しかもギリギリ(日本とインドネシアが勝ち点、得失点、ゴール数がすべて同一だったために抽選を実施して日本が2位通過)で。やっぱり1位で上がりたかった。
伊藤 でも、イラクは勝てない相手じゃなかったよね。
中村 決定機も多かったし。
伊藤 ただ、そういうチャンスを決めないとやっぱり難しくなる。逆に相手は一つのチャンスを確実に決めたわけだから。決めるべきときに決めないと勝てないよね。
中村 うん、そういうことをすごく実感した。
大事なことは楽しむこと
伊藤 語弊がある言い方かもしれないけど、楽しかったよね。
中村 うん、楽しかった。
伊藤 合宿中もそうだけど、みんながずっと一緒。名古屋の合宿では昼寝も一緒だった(笑)。
中村 あったね(笑)。
伊藤 オーシャンアリーナのロッカーに布団敷いてね(笑)。
──昼寝も一緒(笑)。
伊藤 そうなんです。本当に一緒にいる時間が多かったよね。
中村 昼ごはんを一緒に食べて、そのままみんなが川の字になって寝てた。
伊藤 最初の頃はホテルに帰ってたんだけど、次第にオーシャンアリーナで昼寝するようになったんだよね。(鈴木)隆二さんも「俺たちは家族だ」って言ってた(笑)。それがテーマだったし、年齢が近い分、話も合っているから楽しかったですね。
──面白いエピソードもありそうですね。
中村 ああ、坂(桂輔)の寝坊とか(笑)。
伊藤 寝坊なんてしたっけ?
中村 寝坊じゃないんだけど、宿舎で昼寝していて集合時間の3分前くらいに「坂がいない!」ってなって。あいつはベットとベットの隙間に(落ちて)寝ていたんだよね。それを誰が起こしに行くかという話になって、驚かすために隆二さんが。声を掛けたら飛び起きて、めっちゃ焦ってた(笑)。
伊藤 あんまり覚えてないや(笑)。あと覚えているのは食べ物(タイ料理)の辛さ。みんな苦戦してた。
中村 圭汰はすぐに食べられるようになったじゃん。
伊藤 俺とか坂はすぐ慣れた(笑)。充は全然食べられなかったけど。ご飯とふりかけだけの人もいたね。
中村 俺はマジで食べられなかった。体重が1日で1キロくらい減ったからね。もともと辛いのが苦手で、圭汰とかはすぐにカレーを食べてたけど、無理だった。ご飯にふりかけ掛けて、肉を食べる。しかも初日は、危ないから野菜も食べちゃダメって言われていたし。
伊藤 辛いのダメだから、そもそも食べられるものが少ないのにね。
中村 そうそう。圭汰は1日目の昼ごはんからすぐ食べてて、なんでこんな食えるんだろうって思ったもん。
伊藤 タイには行ったことがあったし。
中村 俺は東南アジア自体が初だった。
──同じ釜の飯を食った仲間とは今でも連絡を取り合うんですか?
伊藤 今も仲良いよね。
中村 試合で会えば話すね。
ピッチ外でも仲の良さを見せるU-20日本代表 【SAL】
伊藤 やっぱり、決めるべきところを決めるということ。あとは、最後まで何が起こるかわからないってことですね。わかってはいたつもりだけど、あの大会を経験してより強く思った部分ですね。
中村 同じだ。決めるべきところを決めるところ。(アスピランチが所属する)関東リーグと代表では、1点の重みが違ったよね。1点で相手に流れが行ってしまうから。日本では味わえないものだった。あとは、自分のミスからの失点がいくつかあったなかで、一つの判断、一つのミスが失点になることを強く感じました。
──そういうものに気づけたという意味でも、本当に大きな経験をされたと思います。だからこそ、これから始まる大会に挑む選手たちにも、いろいろなものを吸収して帰ってきてもらいたいですね。
中村 一番は楽しんでくること。
伊藤 それだね。
中村 楽しむところがないと良いプレーはできないから。俺らのときより合宿の期間も長いから、チームとしての完成度は高いだろうね。プレッシャーもあるだろうけど、まずは楽しんで、優勝目指して頑張ってほしいです。
伊藤 簡単な試合はないから1試合1試合で気持ちを入れて戦いながら、同時に楽しむこと。国を背負って戦う経験はなかなかできないからこそ、それは誇りに思ってほしい。楽しみながら僕らの分まで戦ってほしい。
──唯一の2大会連続出場となる山田慈英選手は、その楽しさや喜び、悲しみ、悔しさを味わった仲間ですよね。そんな彼が、エースとして今大会に臨みます。
伊藤 あのときは本当にかわいいやつだった(笑)。
中村 かわいいやつって(笑)。
伊藤 本当に「後輩」って感じだった。17歳とかだよね。でも、チーム唯一の左利きだったし、重宝されていた。パワープレーもすごく助かっていたよね。
中村 そうそう。そういう選手が引っ張っているわけだし、ぜひ優勝目指して頑張ってもらいたいですね。
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