WBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチ 井上尚弥vs.ディパエン
12/14 20:00
井上尚弥が8RTKO勝利
総括
2年ぶりに日本凱旋試合となった井上は8R・TKOで防衛に成功した【写真は共同】
WBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチ、井上尚弥(日本)vs.アラン・ディパエン(タイ)が14日、東京・両国国技館で行われた。
ボクシングで14戦12勝(11KO)2敗の前にムエタイで60戦50勝10敗の戦績を持つディパエンはそのタフネスを大いに発揮。井上は相手を探った1Rを経て、2Rからこの試合のテーマに掲げたリードパンチを的確に当てていくが、ディパエンは崩れない。
ボディブローでも再三とらえるが、ディパエンは足を使ってリングを回り、なかなか音を上げない。
“俺パンチないのかな?”という思いにもとらわれたという井上だが集中力を切らさず相手を追い、逆に体力と集中力が切れてきたディパエンに左フックを打ち込み後方へ吹き飛ばしてダウンを奪う(8R)。
立ち上がったディパエンだが目に力はなく、続けて井上が再び左フックを打ち込んだところでレフェリーが試合をストップ。井上が8R2分34秒、TKOでの王座防衛を成し遂げた。
「予想を上回る試合を見せたい」と口にしていた井上は「戦前の予想をはるかに下回る試合ですみません」と頭を下げたが、「来年春はビッグマッチを大橋会長に組んで頂いて、燃える試合を組んで頂き、みなさんが見たいカードをやっていきたいと思いますので、また来年応援してください」と2021年の戦いを締めくくった。(文:長谷川亮)
ラウンド詳細
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試合前
青コーナーから先に入場のディパエンは両手を広げてファンにアピールし、軽く笑みを浮かべるとシャドーをしながらリングに向かう。リングに入るとグローブを合わせ、四方に向けて礼をする。
続けて白のドレスコードで統一された場内に赤を基調としたコスチュームの井上が登場。こちらはすでに厳しい表情で、小刻みにステップを踏み、腕を振り上げてリングに入り、ロープをくぐるとグルっと1周回る。
すでに臨戦態勢といった井上に対し、ディパエンは国歌やリングコールの間もにこやかな様子を見せる。 -
1R
ディパエンが左ジャブを伸ばして様子見するが井上はこれを目先でかわし、自身もジャブをボディと顔に打ち分けディパエンを探る。右のパンチのフェイントから井上は左フック、ワンツーと切り込んでいく。引き続き井上はボディへのジャブ、顔へのジャブと放ち右ストレート。ディパエンが出てくるとスッとバックステップしてかわす。
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2R
井上はリング中央を取りディパエンにプレッシャーを掛ける。ディパエンがパンチを放ってきてもブロックで弾き下がらない。続いてディパエンが出てくると相手のパンチの合間に左フックを放ってヒット。ストレートのような左ジャブを突く井上は右ストレート、ボディへの左ストレート、さらに左ジャブと追い詰める。ロープ際を左回りしていくディパエン。戦前語ったように井上は左のリードパンチを顔とボディに打ち分けていく。
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3R
井上はジャブを突き、ディパエンが呼応して出てくるとそこへ左フック。前後のステップからジャブを突いた井上は、ディパエンがジャブを返してきても頭を振って当てさせない。右ボディストレートを入れた井上は続けての右ボディフックを効かせる。井上は右を顔に送った後で再び右ボディストレート。ディパエンも左右ストレートを伸ばすが、井上は左フックでとらえる。ディパエン反撃の右フックを井上はしっかりブロックする。
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4R
ディパエンは間合いを詰めて左右フックも井上はガードし左ボディフックから連係してアッパーを突き上げる。井上はディパエンを追って出て左アッパー。そしてディパエンを打ち合いに呼び込み、打ってきたところへ逆に右クロス。井上が左ボディもディパエンはタフさを見せ反撃。井上は接近戦では左フックでボディをエグり、プレッシャーを緩めず、ジャブから左フック、右ストレートとディパエンを攻める。左レバーブローを鈍い音を立てて決める井上。
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5R
井上はガードを堅固にして接近戦での打ち合いに応じる。フック・ストレートと軌道を変えてディパエンにパンチを集め、ボディブローに繋げる。手数で劣り鼻血の見られるディパエンだが、闘志をを落とさずアッパーからボディフックで反撃。だが井上は的確にディフェンスしブロックで弾く。井上は左フックを顔からボディへの上下打ち。これでディパエンを削っていく。左・右と井上がボディフックを入れてもディパエンは両手を広げ挑発する。
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6R
井上は前に出てディパエンにロープを背負わせる。しかしディパエンは被弾があってもブロックと織り交ぜ、前に出て逆に井上をロープ際まで下がらせる。井上はそこから手を下げて顔を空け、ディパエンを誘う。そして鈍い音を立てて左ボディを突き刺すと、ディパエンは効いたか嫌がってロープ際を大きく回っていく。打ち返してきても井上は察知が早く、バックステップで当てさせない。
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7R
接近戦からボディフック・アッパーの井上に対し、ディパエンは左フックを返してヒット。井上に打たれてもディパエンは再び両手を広げ「打ってこい」と挑発を見せる。しかし井上の右フックを受けるとダメージを見せ後退。井上はガードの合間を見極めフックを顔とボディに打ち分けるが、ディパエンは左・右とステップし逃れていく。井上がガードの合間に左ボディフック、ワンツーからの左ボディフックと打ち込むが、ディパエンは音を上げない。
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8R
井上はジャブを突いて前後のステップを踏み、ディパエンに手を出させんとしているか。一転、井上は追っていく動きに変わり、ワンツー、ジャブ、ストレートからボディ打ちに繋げる。ディパエンは攻めの圧力を発せなくなっており、井上はボディから左フックで大きく吹き飛ばしてダウンを奪取。
立ち上がったディパエンだが目がうつろ。井上はすぐに左フックを打ち込み、ここでレフェリーが間に入り試合をストップした。 -
試合後リング上での井上インタビュー
「2年ぶりの日本での試合にわざわざ足を運んで頂きありがとうございました。戦前の予想をはるかに下回る試合ですみません。(ディパエンは)すごいタフで向かい合った時に何かを狙っている雰囲気があって根性もすごくて、こういう試合になってしまいましたけど、また今後期待してください。
この試合に向けて練習したリードジャブに手応えがあったんですけど、“効いてるのか?”と思うぐらいタフさを出してきたのでこっちがメンタルやられて、“俺パンチないのかな?”って感じてしまうぐらいタフでした。
ここ最近の試合で早いラウンドで、『もっと見せてくれよ』という声もあれば『8Rも掛けてこの野郎』といろいろ意見もあるので、でも2年ぶりの日本のリングで楽しく戦えたのでよかったと思います。
入場する時に白い景色が見えたので、ボクシングの興行としては異例なドレスコードつきの試合でみなさんご協力頂いてありがとうございました。
(週末にあったノニト・)ドネアの試合も見てましたし、会長とも話して、(今後は)ドネアとの試合もスーパーバンタム級の試合も視野にありますし、視野を広げて考えていきたいと思います。
来年春はビッグマッチを大橋会長に組んで頂いて、燃える試合を組んで頂き、みなさんが見たいカードをやっていきたいと思いますので、また来年応援してください」 -
大橋会長インタビュー
「相手が勝つ気できたら1R・KOもあったと思っています。あるいは相手が勝つというより、判定という狙いであれば今日のような展開になることは予想していました。
今後はドネア戦が最有力だが、カシメロの状況も見極めてのものとなります。この2つがダメということであればスーパーバンタム級に上げるということも視野に入れています。」 -
ディパエンの試合後インタビュー
「世界戦という大舞台で勝つことができなかったのは悲しいです。
前に出ていくことを、試合前の作戦として考えていましたが、実際にはかなりのプレッシャーをうけ、それを実行することができませんでした。
井上選手のパンチはとても速く、多くのパンチを受けてしまいました。一発の強さというよりかは数をうけてしまったことでダメージが蓄積してしまいました。何度も効いてしまいましたが、タイのファンのため、家族のためになんとか耐えていました。
井上選手は私のアイドルでもあるので、バンタム級全てのベルトを統一してほしいです。今後の活躍を応援しています。」
見どころ
WBSS(World Boxing Super Series)決勝のノニト・ドネア戦以来、実に国内では2年ぶりとなる井上尚弥の王座防衛戦。
今回はムエタイで60戦50勝10敗の戦績を残して2019年からプロボクシングに転じ、1年で12戦とハイペースで試合をこなしてきたWBA世界バンタム級10位、IBF同級5位のアラン・ディパエン(タイ)を迎え撃つ。コロナ禍により試合ペースの落ちたディパエンだが、現在まで14戦12勝(11KO)2敗の戦績を残しており、オーソドックスから振るう強打で高いKO率を誇っている。
現在WBA世界バンタム級スーパー王座とIBF世界バンタム級王座を保持し、日本人初の4団体統一へひた走る井上。来春には他団体王者との統一戦が予定されており、そのためのアピールにも「リードパンチで倒す、それぐらいの実力差を見せて勝たなくてはいけない」とこの試合に意気込む。
最終調整まで行いやすい国内での一戦で不安材料は少ないが、井上が今回も死角なくディパエンを退けるのか。(文:長谷川亮)