「前十字が断裂」で金メダル レスリング鏡優翔がアジア大会にこだわったわけ
アジア大会“強行出場”の理由
「国際大会で日本開催は簡単にあることではないですし、ましてやたくさんの方が応援にきてくれる。そして、アジア大会に出たことがないという私の経歴がありまして、何が何でも出たいと。このアジア大会の金メダルを、私の経歴に残したいと思いました」
負傷してからの約1カ月は、決して平坦ではなかった。「すっごい苦しかったですし……今までオリンピック前には持たなかったいろんな感情がすごく湧いた」。それでも出場すると決めた。
「自分の中で腹をくくって。それまでに治療も必死にやりましたし、練習もトレーニングも、もう全部に時間をかけて、このアジア大会に向かってきました」
決勝でも0-1と追う展開になった。それでも鏡の頭に浮かんだのは、ここまで積み重ねてきたものだった。
「どれだけ取られても最後に頭に浮かぶのは、自分がやってきた練習と、自分の気持ち。全て上回ってるっていう自信が湧いてきて。だからこそ自分を最後まで信じられて逆転できたと思います」
さらに、この大会に出たいと思わせた大きな存在があった。
「おばあちゃんが来られる状況だと知ってから、絶対に勝つ姿を見せたいと思って。それが、おばあちゃんのこれからの頑張る活力になってくれたらうれしいなと思いました」
治療方針は未定。それでも道筋はブレない
「アジア大会に出るって決めて、言い訳することなく結果を残すことができたのはすごくうれしいです」
一方で、右膝の今後についてはまだ決まっていない。治療は「全力でやります」としたうえで、手術の可能性も含めて相談し、方針を決めるという。
今回の金メダルを、単に「気持ちの強さ」だけで片付けることはできない。準決勝では、大量点につながるタックルを鮮やかに決めた。決勝では相手の動きに対して「勝手に身体が覚えてた」という反応が出た。万全ではない状態でも、最後に頼れたのはそれまで積み重ねてきた練習だった。
そして、この大会を終えた今も、鏡が見据える先は変わらない。
「この経験を経て、どんな時でも絶対に強い気持ちで這い上がっていけるのを知れました。これからどんな選択をしようと、絶対に私がロサンゼルスオリンピックの代表権を取り、金メダルを獲得するという道筋だけは、ブレずに頑張っていきたいと思います」
右膝をどう治すのか。次にいつマットへ戻るのか。まだ答えの出ていないことはある。それでも、鏡が進みたい道だけは、はっきりしている。
(取材・文:鈴木一史/スポーツナビ)