浦和レッズはどこへ向かうのか

“曺さんらしいスタイル”は実は誤解? 密着ライターが熱く語り合う「今季の浦和レッズの見方」

菊地正典

フリーマンとして振る舞うマテウス・サヴィオ。ここまで4ゴールをマークし、攻撃陣を牽引している 【(C)URAWA REDS】

毎試合ゴールを重ねるが、失点も多い。縦に速いようで、ボールも握る。観客数は減っているが、一体感はある。果たして、真実はどこにあるのか――。ウェブマガジンの『浦研プラス』を主宰する島崎英純氏と、同じくウェブマガジンの『浦レポ』で健筆を振るう轡田哲朗氏が語り合う今季の浦和レッズの見方とは?

少しずつバランスが見つかり始めている

――浦和レッズは4勝4敗の勝ち点12、16得点18失点の10位という成績で中断期間を迎えました。ここまでをどうご覧になっていますか?

島崎 沖縄キャンプから取材をして、曺貴裁監督が自分のスタイルを落とし込むのに、かなり苦労しているように見えていました。現場からすると、納得のいかない成績だと思いますが、僕自身は、序盤はこのあたりの順位で落ち着くのではないかと思っていました。開幕3連敗を喫したことを考えれば、よく五分に戻したと思います。

轡田 五分の成績でちょうど真ん中の10位というのは、本当にそのまま受け止めています。良いところも出ているし、危なっかしいところもありますよね。3-2の逆転勝ちが2つもあるのは勝負強さが見て取れますけど、一方で、8試合で18失点というのはジェフユナイテッド千葉と並んでリーグワーストタイ。このワードはインパクトがあります。

島崎 失点数の多さはちょっと看過できないですよね。これだけ多いとやはり負ける確率が高まるし、降格するようなチームの失点数なので、現場も改善しなければならない問題だと捉えていると思います。

轡田 ただ、得点も16で、これだけ取れているシーズンも近年なかったですよね。ノーゴールの試合がないというのはすごく良いことで、リーグ戦は勝利で勝ち点3、引き分けで勝ち点1ですし、上位に進出する勝ち点を稼ぐためにもゴールは必要です。もちろん、優勝争いに加わるとなれば、守備面の重要性も高まりますが。

島崎 戦い方に関しては、曺監督がかつて率いた湘南ベルマーレ時代や京都サンガF.C.時代とはまた少し変わっていて、浦和で初めてトライするやり方も見え隠れしているので興味深いですし、開幕直後と今とでも印象が変わってきているのも面白いですね。

――「浦和で初めてトライしているやり方」というのは具体的にどういうものでしょうか?

島崎 まずシステムが湘南時代、京都時代とは違っていて、曺監督が形にとらわれていないのは明らかですよね。僕はしばらくドイツに住んでいたので、ヨーロッパのサッカーを見てきましたが、曺監督はかなり勉強家で、ヨーロッパのトレンドを取り入れながら、一方で、在籍選手の特性なども見極めて、「じゃあ、自分たちはどうするのか」というのをピッチで表現しようとする監督だと思います。

轡田 湘南時代、京都時代との違いで言えば、いまの浦和の方がボールを持ったときに輝く選手が多いと思うんですよ。中盤を見ても、中断前の東京ヴェルディ戦では瀬古樹、植木颯、安居海渡、サミュエル・グスタフソンの4人が選手交代などで入れ替わりながらトリプルボランチのような形でプレーしましたが、彼らがいるのに、ただ前に速い、前に蹴るだけのサッカーになることは想像しづらかった。自ずとつなぐ場面が増えるだろうと思っていたら、そうなってきた。島崎さんもおっしゃっていましたが、曺監督はいる選手の特性に合わせている気がしますし、チームの中で、このくらいのところに落ち着くというバランスが少しずつ見つかり始めているのかな、と感じています。

――これまでの8試合の中でいろいろな意味で印象に残っている試合はどれですか?

島崎 僕は5節のアビスパ福岡戦ですね。山梨学院大との天皇杯2回戦で今季初勝利を挙げて、続く横浜F・マリノス戦でリーグ初勝利を飾ったあとのゲーム。この試合で初めて試合中にシステムを変えたんですよ。それまで4-1-2-3をかなり重視しているように見えましたが、前半にアンカーの脇のスペースを使われたので、後半頭からインサイドハーフの安居を1列下げてダブルボランチにした。それ以降はどの試合でも試合中に立ち位置を変えるようになり、明確にやり方を変えたと感じましたね。

轡田 僕は先につながるという意味で、ヴェルディ戦ですね。先制して追加点を取り、さらに3点目を取りにいくという勝ち方は近年の浦和にはなかったもの。1点で満足せずに2点目、3点目を取りにいくんだという今季の姿勢が出たと思います。あと、もう1試合挙げさせてもらうと、開幕3連敗で迎え、先制も許したマリノス戦です。もし、あの試合で負けていたら、現体制を続けられていたのか分からない、というほどのターニングポイントだったと思っています。

――ここまで毎試合のようにスタメンの顔ぶれが変わっているのも特徴だと思いますが、曺監督の選手起用や采配については、どう感じていますか?

島崎 沖縄キャンプのときからファーストチームみたいなものがなくて、全員横一線だったんですよね。今季の公式戦では、特別指定選手の稲垣篤志も含めて30人中26人を起用しています。起用していないのはGKの新井栄聡、負傷離脱中の堀内陽太、U-21チームに参加している田中義峯とルカ・ディドゥリカだけ。もちろん、今季はスカッドが少ないということもありますけど、ほぼ全員を起用しているのは間違いなく曺監督の特徴ですよね。

轡田 マチェイ(スコルジャ)さんとか、(オズワルド)オリヴェイラさんやミシャさん(ミハイロ・ペトロヴィッチ)まで遡ってもそうだと思うんですけど、外国籍監督はキャンプの時点で序列を定めるタイプが多かったじゃないですか。これだけシャッフルして、横一線でチャンスを与えるのは大槻(毅)さん以来だと思うんですよ。中断前には体調不良の問題もありましたけど、曺監督は「どんなアクシデントがあるにせよ、戦力が厚くなるきっかけを作らせてもらった」と話していました。シーズン序盤に多くの選手に経験を積ませられているのは良い部分だと思いますね。

島崎 あと曺監督は、選手のポジションをひとつに定めていなくて、さまざまなポジションで起用する傾向もありますよね。そういう意味でも、いろいろな選手を起用するタイミング、余地はまだまだあって、この選手はどういう使い方をすると生きるのか、見極めながら戦っている感じもある。分かりやすい例を挙げると、林幸多郎です。彼はFC町田ゼルビア時代にプレーしていたウイングバックの方が持ち味を出せるし、逆にサイドバックだと少しリスクもあるんですけど、彼を生かすにはどの立ち位置にしたほうがいいのか、つまり、システムありきではなく、選手の個性を生かすための立ち位置をかなり気にしているように感じます。

轡田 曺監督は「調子の良い選手を起用する」ということを頻繁に言っていて、それが選手起用の根っこにあるんだと思います。例えば、渡邊凌磨は加入した24年から百年構想リーグまでは何があっても先発起用されるように見えていましたけど、最近はベンチスタートになったり、メンバーから外れたりしていますよね。でも、能力があるのは確かな選手なので、そういう競争があるのは良いと思います。

バイエルンのようなペナルティエリアの幅での攻撃

シュートのうまさに定評がある小森。この非凡なストライカーがフィットすれば、攻撃力はさらに高まる 【(C)J.LEAGUE】

――取材をしているなかで、特に印象に残っている曺監督の言葉はありますか?

轡田 誤解を恐れずに言えば、曺監督は質問に対して必ずしもストレートに答えないこともある印象がありますが、先ほどの「調子の良い選手を起用する」という言葉に関しては、すごくはっきりした回答が返ってきたので、間違いなくそこは大切にしているんだろうな、と強く印象に残りましたね。

島崎 僕は曺監督の戦術面に注目しているんですが、僕が主宰している『浦研プラス』の企画でサッカーアナリストの杉崎健さんと序盤の戦いについて話し合っていた時に、「とにかく中央突破を目指している」というのが共通の見解としてあったんですね。

 そうしたら、4節のマリノス戦後の会見で「これまでよりピッチを広く使った攻撃が見られた」という質問に対して、「ピッチを広く使うことが本当に効果的な攻撃かというと、僕はそうは思わない」とはっきり言ったんです。「攻撃はペナルティエリアの幅にボールを運ぶのが第一優先」だと。

 この「中央重視」はいまのドイツ・ブンデスリーガのゲームでも見られる傾向です。特にバイエルン・ミュンヘンはペナルティエリアの幅でしか攻撃しないくらい。北中米ワールドカップの各ゲームでもそのような傾向がありましたけど、いまのヨーロッパのサッカーは、「最短距離で行くのが一番良いよね」と。それは攻撃側が攻めやすいからではなく、守備側が嫌なんですよ。何度も何度も正面から攻められると、守備側は精神的につらい。自分の感じていたことと、曺監督の言葉が合致したので、すごく印象に残っています。

――選手についても聞かせてください。特に注目している選手、期待している選手は誰ですか?

轡田 金子拓郎はここまで、苦しいときに“何とかしてくれる”選手の1人ですよね。

島崎 間違いないですね。プレー面では彼が最もチームを引っ張っていると思います。リーグ全体を見ても、群を抜いている存在だと思います。クロスを上げられるのか、シュートを打たれるのかが分からないし、相手からしたら、じゃんけんで必ず後出しされて、負ける感覚だと思います。

 他に攻撃陣ではマテウス・サヴィオも当然ですけど、もう1人挙げるとしたら宮本優太ですね。ミスがあったり、失点に関与したりしていますが、彼は曺監督のサッカーを最も体現している選手で、曺監督からの信頼が厚いからこそ、頑張ってもらいたいですね。彼のプレーが変わるようなら、チームコンセプトも変わるリスクをはらむように思います。

轡田 僕は攻撃でいえば、小森飛絢です。本当にシュートの上手な選手で、得点王になるポテンシャルがあると思います。ただ、いまのところ、うまくハマっていない印象があるので、彼の能力が存分に発揮されるようになってほしいです。あと、キーマンと言うといまさらですが、西川周作ですね。いまの戦い方だと明らかにGKに負担がかかります。実際、相手がフリーの状態のシュートが飛んできたりしていますから。40歳になって大変だと思いますけど、そのぶん、西川にかかる期待は大きいと思います。

――クラブについても聞かせてください。まず、今季の補強については、どんな印象をお持ちですか?

島崎 補強に関しては、「このポジションが足りないから補強しよう」というようには感じられなくて、良い選手だからアプローチしているように感じます。開幕後に瀬古と山根視来を獲得しましたが、右サイドバックの山根はまだしも、ボランチに関しては補強の第一ポイントではなかったですよね。ただ、2人とも海外でプレーしてきた実力者で、即戦力。実際、彼らの加入によってチームの底上げがかなりできたので、近年の中でも良い補強だったと思います。

轡田 クラブはもう5年も6年も「速く攻めたい」と言っていますが、その割にはそういうタイプの選手が多くないと感じていました。いま話があった瀬古や山根もどちらかと言うと落ち着かせる側の選手だと思います。チームがうまく回っていきそうなので、良い補強だと思いますが、本来の狙いと合っているかというと、「どうなんだろう?」と思うところもなくはないですね(苦笑)。だから、島崎さんのおっしゃる通り、「ここに、このタイプ」というより、良い選手だから獲ったという部分はあるのかもしれません。

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著者プロフィール

福島県出身。埼玉大学卒業後、サッカーモバイルサイトを運営するIT企業を経て、フリーランスに。2025年はサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフユナイテッド市原・千葉の担当記者を務める傍ら、サッカー日本代表や過去に担当した浦和レッズや横浜F・マリノス、川崎フロンターレなどJリーグを中心に取材している。著書に『浦和レッズ変革の四年 〜サッカー新聞エルゴラッソ浦和番記者が見たミシャレッズの1442日〜』(スクワッド)、『トリコロール新時代』(スクワッド、三栄書房)がある。

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