【戦術分析】浦和が交互に見せる2つの“表情” パッチワークのような修正の副産物とは?
いったいどちらの“表情”で…交互に表れる興味深い数字
数字のトリックのように見えるが、浦和の試合のボール保持率、パス成功率を見比べると、非常に面白いことが分かる。パス成功率が高ければ高いほど、速攻やカウンターよりもボール保持によって試合をコントロールしようとしていたことや、確実なパスでボールを前進させるプレーが多かったことが読み取れるわけだが、浦和は町田戦以降、パス成功率が80%前後の試合と70%前後の試合を交互に繰り返しているのだ。まるで「ボールをつなぎすぎだ!」「もっと速攻を意識しろ!」と「蹴りすぎだ!」「試合をコントロールしろ!」の間で行き来しているようだ。
町田戦、福岡戦、岡山戦のようにパス成功率80%前後というのは、意識的にボールをつながないと打ち出せない数字である。なお、速攻がメインになると、パス成功率は75%くらいで落ち着くのが標準的と言えるだろう。どちらの“表情”でプレーしていたのかを知るうえで、貴重な参考データと言えるのではないだろうか。
町田戦から始まった大改造の最初の一手は、左ウイングのサヴィオを内側へ送り込み、フリーマンのように振る舞わせることだった。これによって左サイドの攻撃が機能しなくなるのは痛手だが、曺貴裁監督は会見で幅を使った攻撃は志向していないといった旨を発信していたので、右サイドだけでも機能すればオーケーと考えていたのかもしれない。
しかし、相手も金子がいる右サイドに人を集めて対応すればよくなるので、幅は大事だ。その点で、東京V戦で披露した左サイドバックと左インサイドハーフのコンビネーションによるサイド攻撃は、今後の可能性を探るうえで示唆に富むものだった。もちろん、サヴィオがサイドに留まるなら、彼を起点にして仕掛ける流れを作れれば、両サイドからバランスの良い攻撃がもっと仕掛けられるに違いない。
金子をいかにサイド攻撃に専念させるかについても、インサイドハーフのサポートと、1トップにいざとなれば中盤での仕事もこなせる選手を起用することで、解決の糸口が見えてきた。右サイドバックにおけるボザの攻撃参加は個人的に好きだが、元日本代表右サイドバックの山根のサポートの巧みさを見ると、やはり「餅は餅屋」なのだろう。
人への意識が強い浦和の守備を考えると、センターバックの選手たちの担当エリアがどうしても広くなってしまう。どこまでも相手を追いかける宮本と根本の姿は、何度も目撃されている。この状況を考えても、バランスを維持するうえで3バックの採用は理にかなっている。4バックのときにはアンカーの瀬古樹を下げることでバランスの維持を試みており、「システムは関係ない」(曺貴裁監督)というレベルまで、あと少しといったところか。
こうしたパッチワークのような修正の連続が、多くの選手起用につながっているのかもしれない。浦和はここまでリーグ戦で25人の選手がピッチに立った。開幕当初は序列が高かった安居や渡邊凌磨でも平気でベンチに置く曺貴裁監督の采配は、閉塞感からはほど遠いものになっている。特に稲垣の抜てきには驚いた。東京V戦で今季初出場を果たしたサミュエル・グスタフソンが瀬古や植木、安居らとプレータイムを分け合うようになれば、さらにチームの幅は広がっていくだろう。
度を超えたマンマークがジャイアントキリングのきっかけのひとつであることは世界中に知れわたっている。ジャン・ピエロ・ガスペリーニのアタランタはヨーロッパリーグ決勝で公式戦51試合無敗を続けていたシャビ・アロンソのレバークーゼンを3-0で撃破。最近ではブライトンが前年王者のアーセナルを相手にこれまた3-0の勝利を飾った。いずれも度を超えたハイプレッシングが勝因だった。
浦和のハイプレッシングは度を超えたという部分において少し物足りなさが残る。また、ハイプレッシングで大事なことは、プレッシングのスピード、方向性を利用したマークの変更だ。前田大然が得意とし、ときに暴走とも評されるが、何度もボール保持者を追いかける動きが相手の選択肢を減らし、ボールロストにつながっていくのだ。
瀬古と山根の獲得は何を意味しているのか?
浦和の問題は、それぞれの選手がそれぞれの基準でプレーしているように見えることだ。ボールを奪うのか、ゴールを守るのか、それによって、選手それぞれの立ち位置の文脈は異なってくる。理屈で言えば、相手を抑えることに成功すれば、シュートを打たれることはない。しかし、ゴール前で相手と対峙する味方選手のカバーを行わないことは、失点の可能性を広げていると言えないか。一方で、相手のウイングにダブルチームで対応すれば、マークを捨ててダブルチームに加わった選手の担当エリアを、別の誰かが受け持つ必要性が出てくる。
現状、浦和に失点が多い主要因は、この撤退守備における基準のバラツキにあると感じる。ボールを奪いにいく必要のない場面でも、マンマークゆえに相手にアプローチし、相手の攻撃を加速させてしまう。相手が優位な状況で1対1を強いられれば、“負債”がたまっていくのも当然だろう。
ハイプレッシングと速攻による乱打戦を、浦和のフロントが志向していることは間違いないだろう。普通はハイプレッシングとボール保持を組み合わせるのだが、「とにかく攻撃的な姿勢だ!」ということを目標に掲げることを否定するつもりは毛頭ない。
いまの浦和で試合の流れを最もコントロールしようとしているのは、シーズン開幕後に加入した瀬古樹である。本来はいなかったかもしれない選手である点は見逃せない。町田戦から登場した瀬古は試合をコントロールする冷静な判断と、ボールを奪った際にカウンターの起点となれる能力を併せ持つ稀有な存在だが、どちらかと言えば、ゲームコントロールを優先してプレーしているように見える。というか、「いつだって攻撃だ!」の姿勢のほうが異質なので、瀬古は普通のプレーをしているとも言える。
一方、同じく途中加入の山根が東京V戦で見せたプレーはインテリジェンスにあふれていた。相手の選択肢を消すプレッシングの立ち位置は言うまでもなく、ボール保持時には3バックの一角に入ったり、一度だけだがセントラルハーフも務め、金子のサポート役も担うなど、さまざまな役割を横断して行っていた。
ハイプレッシングと速攻の組み合わせと言えば、レッドブル・グループを象徴するスタイルだ。とにかく走ることが求められるので、若手選手を登用する印象が強いが、浦和に登場したのは28歳の瀬古と32歳の山根である。いったいどうしたいのか。気がつけば、浦和のビルドアップ隊には時間とスペースを作ったり、フリーな選手を見つけたりすることが得意な選手が増え、前線には時間とスペースがなくてもどうにかできる選手が増えている。
「速攻」か、「遅攻」かは延々と続くサッカー界のお題目のようなものである。大切なのは自分らしさの檻の中で、もがかないことだろう。自分たちのすべきこと、相手に見せるべき“表情”は、相手が嫌がっているかどうかを基準にすべきだ。自分たちのスタイルだからと言って押し通すのは、かなりの破壊力がいる。ロングボールによる速攻をどうしてもやりたければ、原大智のように動ける“空中戦の的”が必要になる。原クラスの選手がいないにもかかわらず“ハイボール大作戦”を繰り返したら、自分たちのやりたいプレーを押し通すだけの、ひとりよがりになってしまうのではないだろうか。
偶然かもしれないが、「ボールを持つゲーム」と「ボールを持たないゲーム」を交互に繰り返している浦和。それぞれのプレーが相手にとって嫌なプレーになっているなら問題はない。相手を考慮せず、スタイルの徹底を合言葉に自分たちのすべきことを決めているなら、それは問題だ。中断明けの浦和はどちらの“表情”を見せるだろうか? どの程度のバランスを取るかは監督の腕の見せどころとなる。
最後に、浦和は今季のリーグ戦で、セットプレーで4得点を決めている(相手オウンゴールも含む)。シンプルにゴール前にボールを蹴り込むのではなく、さまざまな工夫が見られるので、セットプレーコーチが頑張っているのだろう。また、U-21チームのコーナーキックも工夫されていたので、クラブ全体で取り組んでいる可能性も高い。右利きのサヴィオ、左利きの金子と、優れたキッカーが揃っていることも大きく、今後も得点が期待できそうだ。浦和のセットプレーに注目してみてほしい。
(企画・編集/YOJI-GEN)