【戦術分析】浦和が交互に見せる2つの“表情” パッチワークのような修正の副産物とは?
もたらされる予定だったものとは違うスタイルで
2025シーズンのJ1リーグで曺貴裁監督は京都サンガF.C.を3位に導き、AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)出場権獲得という結果を残した。浦和が彼を招へいするなら、このタイミングしかなかったのかもしれない。キーマンである原大智、宮本優太(現浦和)が移籍してしまったとはいえ、百年構想リーグでの京都は何かの抗争に敗れたかのように坂を転げ落ちていった。WESTでの成績は10チーム中8位。シーズン途中の5月21日に曺貴裁監督の契約が解除されたのは、あらかじめ決まっていたストーリーが早送りされただけだったのか、それとも予定通りだったのか。
百年構想リーグでの低迷によってACLEの出場獲得という成果が霞みかねないなかで、近年の欧州化とは異なる流れ、かつその強烈なパーソナリティや本人の歩んできたストーリーも相まって、「なぜこの監督を選んだのか?」と多くのサポーターが懐疑的になる要素は十分あった。そんな疑問や不安を解消するには、何よりも結果が重要となる。にもかかわらず、浦和はスタートダッシュに失敗して3連敗を喫するのだから、人生はなかなかうまくいかないものであり、世の中はよくできているとも言える。
この時期、早くも解任論が渦巻きはじめたが、浮上のきっかけは3連敗目のFC町田ゼルビア戦でつかんだのかもしれない。この試合で見せたボール保持のスタイルを継続して、直後の天皇杯・山梨学院大戦で公式戦初勝利を挙げると、横浜F・マリノス戦、アビスパ福岡戦ではいずれも3-2の逆転勝利。鹿島アントラーズ戦では虎の子の1点を守り抜いて宿敵を撃破。ダニーロ・ボザが負傷してスクランブルに陥ったファジアーノ岡山戦は1-2で敗れたが、東京ヴェルディには3-1で勝ち切り、終わってみれば4勝4敗の五分に戻した。
この成績を「期待外れ」と見るか、「よく持ち直した」と見るかは個々の判断に任せるとして、この8試合を通してピッチ上で何が起きていたかを追っていく。
曺貴裁監督のスタイルの印象を簡単にまとめると、「ハイインテンシティ」「速攻の連打」「素早い攻守の切り替え」「ハイプレッシング」といったところだろうか。4-4-2のゾーンディフェンスを得意とするスコルジャ監督に、無理やり「ハイプレッシング」をオーダーしていたことを考えると、クラブが理想とするスタイルを無理なく遂行できる監督を連れてきたという点で、この招へいは論理的だと言えるだろう。
ガンバ大阪との開幕戦は前半のうちにマテウス・サヴィオが退場したため、内容と結果は参考外だが、10人で一度は逆転しており、「いままでとは違う!」と多くの人が感じたに違いない。前体制ではゾーンディフェンスによる「安定感」が見て取れたが、いまはハイプレッシングによる「破天荒感」が際立っていて、これまでのスタイルとは異なることを印象付けた。
サンフレッチェ広島との第2節では、マンマークの天敵であるワンツーやハイラインの裏を執拗に狙われ、「ハイプレッシングは絵に描いた餅なのでは?」と多くの人を不安にさせる内容となった。この大敗がチームに与えた影響は計り知れないものだったのかもしれない。よって、このあと大きな変化が訪れる。
最初の変化は町田戦で起きた。町田が早々に先制したこともあり、期せずして浦和はボールを持つ状況になった。左サイドバックのウイング化によって、サヴィオをフリーマンのように活用。ボールをつなげる植木颯をアンカーに抜てきしたことで、浦和は「ボールを保持する準備万端」といった雰囲気をまとうようになる。
なお、Jリーグ公式によると、この試合の浦和のボール保持率は59%、パス成功率は84%。これは立派な数字だ。決めるべきときに決めた町田に屈したものの、曺貴裁監督によってもたらされる予定だったものとは違うスタイルの妥当性を匂わせるゲームとなった。
横浜FM戦は互いにハイラインを牽制するようなロングボールの蹴り合いで幕を開けた。次第に横浜FMがボールを保持して攻撃を仕掛けるようになったが、浦和はロングボールを蹴られても、根本健太やボザが跳ね返し、宮本のカバーリングも機能していたので、横浜FMが“ハイボール合戦”から降りたと見るほうが正しいだろう。
しかし、リードした横浜FMがゴールを守ることに主眼を置くと、浦和は“火事場のクソ力”を継続的に見せるようになる。相手の陣形が整理された状態での浦和のハイプレッシングは危うさを覗かせるが、相手の配置が整っていないとき、特に相手にボールを奪われた瞬間に仕掛けるプレッシングでは、「熱量」で相手を凌駕するようになっていった。
素の“表情”を見せたゲームで記録された“らしからぬ”スタッツ
もちろん、相手のカウンターを防げなかった場合、広大なスペースをセンターバックとGKでなんとかすることが――京都時代と同じように――求められる。今季のGK西川周作はゴールを許す場面が目につくが、一方で「それを止めるんかい!」というスーパーセーブも少なくない。失点数が多いからといって評価に値しないわけではないことは記しておきたい。
浦和相手にリードしたあとで引いたら逆転される法則は、福岡戦でも継続された。そして2勝3敗で迎えた鹿島戦では、試合当日の朝に決めたという3バック(5バック)を披露することになる。
空中戦を嫌がらない根本、宮本、ボザの3バックはチャレンジ&カバーも精力的にこなした。考えてみれば広島戦で、170センチの宮本と180センチの工藤孝太の2センターバックで、191センチのセバスティアン・アレーに挑んだのは無謀すぎたのかもしれない。3バックにすることで、誰かが中盤でフリーな選手を捕まえにいっても最終ラインのバランスが崩れることがなくなり、サヴィオや金子が攻撃に余力を残せる仕組みが完成した。
岡山戦では体調不良者が複数発生し、練習もままならなかったと報道された。練習ができないとなると素の“表情”が見えるので、分析屋にとって興味深いことこの上ない。なお、素の“表情”を見せたはずのこの岡山戦における浦和のボール保持率は60%、パス成功率は78%(Jリーグ公式)と、曺貴裁監督のスタイルらしからぬスタッツになったのは面白い。
鹿島戦に続いて3バックを採用したこの試合では、金子に代わって水沼宏太が右ウイングバックで起用されたが、その起用法が興味深かった。鹿島戦でシャドーとして起用された金子は右ハーフスペースを使うことが多かったが、金子のプレースタイルを考えれば少しもったいなかった。そこで岡山戦では、水沼が右サイドに常駐し、中央のエリアを南野遥海とサヴィオが使うことで、金子の内側問題解決のリハーサルが行われた。もちろん、水沼がプレースタイル的に無理なく対応できたことは見逃せないが、この方法が次節の東京V戦でも使われたのだから、よくできたストーリーである。
個人的に興味深かったのは左サイドのバランスである。フリーマンのサヴィオは左サイドからいなくなることが多いため、左サイドバックがウイング化してもそこまで優位性を得られなかったが、左サイドバックの林幸多郎と左インサイドハーフの植木が連係することで、サヴィオがいなくても攻撃が形になっていた。
前述のように右サイドは金子がサイドから勝負できるように設計された。右インサイドハーフの安居海渡は右ハーフスペースを使い、右サイドバックの山根視来がサポートすることで攻撃に厚みが生まれた。金子がサイドに張ることで孤立しがちな1トップに、間で仕事をこなせる南野が起用されたことで全体的なバランスも改善された。2センターバックで臨んだため、染野唯月や一美和成との空中戦に苦しむ場面もあったが、後半途中から3バックに変更して凌ぎ切り、ハッピーエンドで中断期間に突入することになったのだった。
さて、ここからが本題である。ポジティブなこともネガティブなことも列挙していきたい。