彼が撒いた種がいつの日か大樹となって…数々の偉業を成し遂げた日本テニス界のパイオニア・錦織圭が残したもの
圭ともっと一緒に練習したい
たとえば、昨年の全米オープン。コールマン・ウォンという香港出身の当時21歳の若者が、予選を突破し本戦でも初戦で勝利した。この勝利で「香港選手初のグランドスラム・シングルス勝利者」になったウォンは、2回戦でもアダム・ウォルトン(オーストラリア)に快勝。3回戦では第15シードのアンドレイ・ルブレフに敗れるも、フルセットの大熱戦で観客を大いに沸かせた。
現在はスペインのラファ・ナダル・アカデミーを拠点にしているウォンだが、基本は香港育ち。そんな彼に「幼少期のアイドルやロールモデル」と問うと、「マイケル・チャン」との答えが返ってきた。21歳のウォンは、チャンの現役時代を知らない。それでも、「香港でチャンを知らない人はいない」という。
「チャンが17歳で全仏オープンを制したことや、その大会でアンダーサーブを打ったのは有名な話。香港ではテニスの上手な男の子は、みんな『マイケル・チャン二世』と呼ばれるんだ!」
チャンへの憧憬を語る彼は、「それからもちろん、僕が大きな影響を受けたのは錦織圭」と、かつての“チャンの教え子”の名を挙げた。
「実は今年の1月、香港のツアー大会で圭と練習させてもらったんだ。すごく素敵な経験だったし、できれば将来、もっと一緒に練習したい。もちろん、対戦できたら最高だね!」
そう語る彼の人懐っこい笑顔に心が温まったのは、マイケル・チャン、錦織圭と続くアジアの系譜が、この若者に受け継がれていると感じたからだろう。
圭の姿を見て、テニスに恋した
昨年の全米オープン会場で、当時14歳のラニーに声を掛けたとき、彼女は「圭を取材していた記者の人なのね!」と明るく応じてくれた。語り口調は明瞭にして快活。柔和で人懐っこい笑顔は、母のアンバーさんを想起させた。
現在15歳のラニーは、ジュニアの世界ランキング52位。将来有望なトップジュニアの一人である。そんなラニーは、「私がテニスを続けた理由は、圭にもあると思う」と言った。
「父が圭のコーチをしていたとき、一緒に遠征に行けたのは本当にクールな経験でした。圭が世界のいろいろな場所で戦っている姿を見て、私はこのスポーツに恋をしたんだと思います」
まっすぐな言葉が胸に刺さり、鼻の奥がツンとする。
そのラニーはつい先日、大阪市で開催された「世界スーパージュニアテニス選手権」に出場していた。左手首のケガで試合から長く離れていたが、日本に来たいとの思いがあり、復帰戦に大阪を選んだという。錦織の引退について水を向けると、「私は彼を見て育った。その選手が引退するなんて、とても不思議な感じ」と、複雑な感情の入り混じる笑みを浮かべた。