強豪校ではなく“これからの学校”へ 磐田東を選んだ球児たちの決断

大利実

【撮影:大利実】

 今夏の静岡大会で、下級生主体のスタメンでベスト4入りを果たした磐田東高。2024年春から指揮を執るのが、盛岡大附高(岩手)や健大高崎高(群馬)のコーチとして実績を残した赤堀佳敬監督である。積極的なリクルート活動の成果もあり、県内外から意識の高い選手が集まり始めている。

 なぜ、磐田東を選んだのか。何が決め手になったのか。進学先を選ぶ選手側のリアルな声に迫った。

進路希望調査に書かれた「岩田東」

 まず、赤堀監督のボヤキから。

「聞いてくださいよ。今の高校1年生の話なんですけど、中学時の進路希望調査に『岩田東高校』と書いたのが2人いたんですよ。担任の先生から、『調べてみたけど、こんな学校はない』と言われたらしくて。そりゃ、そうですよね。まだまだ、全然知られていないんですよ」

 進学を希望しているので、静岡にあることは理解していても、「いわたひがし」が「磐田東」には結び付かない。地元では「磐東(ばんとう)」の名で知られているが、さすがに県外には浸透していないのが現状だ。

「そもそも、磐田東の“磐”が書けない選手もいると思いますよ」

 サッカー好きであれば「ジュビロ磐田」が思い浮かぶだろうが、野球少年たちにはやや難易度が高いか。

 そんな中、「自分が通っていた学校が磐井中だったので、すぐに書けました」と話すのが、今夏、一番ショートで活躍した阿部琉生だ。

 岩手県一関市出身。中学1、2年時は岩手県内のシニアでプレーしていたが、事情があり、3年生に上がる前に宮城仙北ボーイズに移った。夏の全国大会ではキャッチャーを務め、攻守で活躍。大会MVPを受賞した。大きな勲章を得たが、この時点では進学先はまだ決まっていなかったという。

「地元の公立か関東の私立に行こうか迷っていたところで、仙北ボーイズの田中(伸次)監督から赤堀さんを紹介してもらいました。田中監督からは、『赤堀さんについていけば、絶対にいい将来があるから』と聞いて。12月に練習見学に行き、雰囲気も体つきも中学生とは違っていて、シートノックの送球もラインがぶれない。自分たちの代からいい選手が集まると知って、これから歴史を作っていくことにも魅力を感じました」

 両監督のつながりは、赤堀監督が盛岡大附のコーチをしていたときから始まっている。

 進路選択に関して、「監督からの紹介」というワードを耳にする機会は意外に多い。自分で行きたい学校を選んだほうが良さそうな気もするが、選手自身の考えを聞くと、決してそうとも言い切れないようだ。

「最初から自分で決めるとなると、悩んでばかりで、なかなか決め手が見つからなくて。田中監督は、ぼくのことを中学の途中から受け入れてくれて、全国大会にも出させてもらって、いろいろなお話をする中で信頼感が強くなっていました。だから、田中監督が推薦する学校であれば行ってみたい。実際に磐田東の練習を見て、進学を決めました」

 親からは「全力でサポートするから、自分の力を試してこい」と背中を押されたという。

 進学した1年後には、弟の琥羽も磐田東に入学した。中学時は東北選抜に入り、国際大会を経験した実績を持つ。兄は「ぼくは一切誘っていなくて、むしろ反対していた」と笑う。

「寮生活で一緒に過ごすとなると、自分の弱さを見られるのもあって、それがちょっとイヤで。それに結構言い合うタイプなので」

 それでも、弟は磐田東を選んだ。その理由はシンプルだ。

「兄の背中を追っていけば、プロになれるかもしれないと思ったので。だんだん離されている気がするので、頑張りたいです」

 じつは阿部家にはもうひとり、琥羽のひとつ下にも弟がいて、年子の三兄弟。兄2人の背中を追って、磐田東に進学する予定だという。話題になるのは間違いないだろう。

磐田東進学を決めた駿台学園中コンビ

強豪・私立駿台学園中出身の原田充稀(左)と駒橋一吹(右) 【撮影:大利実】

 今夏は中学軟式出身者が2人、レギュラーの座を勝ち取っていた。中軸を任されていたサードの駒橋一吹と、主に二番センターで出場した原田充稀だ。2人は全国制覇の実績を持つ私立駿台学園中(東京)の出身。同校を西村晴樹監督が率いる。

 駿台学園中と赤堀監督がつながったのは、現在の大学2年生世代から。駿台学園中で中軸を打っていた岸野祥大(獨協大)が初めて健大高崎に進学してから、ひとつ下の後輩になる栗原朋希(神奈川大)、島田大翔(中京大)も続いた。今夏の甲子園で登板した健大高崎の1年生左腕・大橋叡刀も駿台学園中OBである。

「駿台の選手たちは西村先生に厳しく鍛えられているので、少々きついことでも頑張ることができる。高校で活躍するために、とても大事なことだと思います」

 駒橋と原田に関しては、赤堀監督が自らスカウトに出向いている。彼らが中学3年の4月、星稜中(石川)のグラウンドで行われた練習試合にその姿があった。星稜中にまで足を運ぶ高校関係者はかなり稀である。

 さほど迷わずに進学を決めたのは原田だ。夏の大会前には決断していた。

「中学生のときにバッティングが苦手だったのもあって、西村先生から『赤堀さんに教われば、バッティングが良くなるんじゃないか』と言われました。あとは、まだ甲子園に出たことがない磐田東で、甲子園を目指してチャレンジすることに価値があると思って選びました」

 駒橋は中3の夏が過ぎても、進学先を絞り切れずにいた。磐田東ともうひとつ、南北海道の私立から誘いを受けていた。どちらも学校見学に行ったうえで決断した。

「指導者や先輩方の“甲子園に出て、日本一になる”という想いの強さに惹かれました。充稀からも、『中学3年間一緒にやってきたから、もう1回一緒に頑張って、甲子園を目指そう!』と誘われました」

 なお、駒橋の兄・優樹(亜細亜大)は横浜高の正捕手として2025年センバツ優勝を経験している。兄のように全国区の強豪に行きたい気持ちはなかったのか。

「あったんですけど、勉強も含めて、そこまでの力がなくて。お兄ちゃんには、『甲子園に出ろよ!』と磐田東に送り出してもらいました」

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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