現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

鎌田と冨安がそろって先発した歴史的重み 好感度急上昇の“怪物君”ハーランドの素顔

森昌利

クリスタルパレスの鎌田と冨安が、第2節のマンチェスター・C戦で揃ってスタメン出場を果たした 【写真:アフロ】

 2026年8月28日(現地時間、以下同)は歴史的な日となった。マンチェスター・シティをホームに迎えたプレミアリーグ第2節で、クリスタルパレスの鎌田大地、冨安健洋が先発出場したのだ。同じチームの2人の日本人選手が、プレミアの舞台でそろってスタメンを張るのは史上初。試合には敗れたが、どちらも好パフォーマンスで起用に応えた。

こんな状況は夢にも思わなかった

 もしかしたらこの原稿が出るころにはもっと増えている可能性もあるが、今季のプレミアリーグにはなんと10人の日本人選手が所属している(編集注:9月1日にトットナムの高井幸大がシント=トロイデンに移籍したため9人に)。稲本潤一、西澤明訓がイングランド1部リーグに日本人として初めて参戦した2001-02シーズンから取材を始めて今季で26シーズン目になるが、こんな状況は本当に夢にも思わなかった。

 というのも、発祥国のフットボールは現在の“手を使わないスポーツ”になる以前の原始の記憶が今も脈々と伝わり、格闘が香る非常にフィジカルなゲームで、根本的にテクニカルで華奢なイメージの日本人に最も合わないリーグだと思っていたからだ。

 実際、筆者が25年前に初めて担当した西澤は昇格したばかりだったボルトンで出場機会が与えられず、1試合もリーグ戦を戦うことなく帰国した。試合に行っても電話で「今日もベンチ外です」と新聞社に報告するだけの日々だった。

 2000年代は、あの中田英寿を含めて、日本人がプレミアリーグでインパクトを与えることはなく、レギュラーに定着できた選手はいなかった。

 そんな中、2012年の夏に香川真司がマンチェスター・ユナイテッド移籍を果たした。ドルトムントのブンデスリーガ2連覇の立役者で、技術の高い日本人選手の最高傑作。しかもあのアレックス・ファーガソン監督のお墨付きだった。

 香川の移籍間際に、西澤のボルトン加入当時から付き合いがあり、2013年のファーガソン勇退をスクープしてその年の英国最優秀フットボールライター賞に輝いたマーク・オグデンが突然電話をかけてきたのをよく覚えている。

 その電話でマークは、「マサ、香川について知っていることを教えてくれ。ファーギー(ファーガソン監督の愛称)がドイツに飛んだ。移籍が実現しそうだ」と言った。この1週間前、彼に香川の獲得はあるかと聞いた時、ファーガソンはブンデスリーガを「あまり評価していない」と言っていたのに、この時は手のひらを返したように興奮していた。

 これでやっと日本人がイングランドで認められると心の底から思い、喜んだ。

 しかし香川に惚れ込んだファーガソンが突如として勇退し、この名将とはスコットランド人という共通点しか思い浮かばない、非常にディフェンシブなフットボールを展開するデイビッド・モイーズが監督になって、「香川は左サイドでレフトバックとの守備の連携に問題がある」という発言を聞いた時、日本最高のファンタジスタがこのチームで輝くことはないと観念した。

 それでもその後、吉田麻也がサウサンプトンで健闘して、少し希望が灯った。もっともデヤン・ロブレン、トビー・アルデルワイレルド、おまけに最後はフィルジル・ファン・ダイクと、次々と強力なチーム内ライバルが現れ、準レギュラーの位置から完全に脱却することはできなかった。

 そして岡崎慎司が出現した。ミラクル・レスターのレギュラーとして確かな存在感を示した。けれども、レスターがプレミア制覇を果たした翌シーズン、大ヒーローとなったクラウディオ・ラニエリ監督は欧州チャンピオンズリーグの初戦、奇跡の優勝をひたむきに走って支えた岡崎を無情にもベンチ外にした。

 このときの岡ちゃんの怒りと悲しみは今でもよく覚えている。この扱いには、「確かに昨季はよくやってくれたが、私は日本人選手に期待しない」というラニエリの本心が見え隠れした。

 だから、突如として冨安健洋がアーセナルのレギュラーとなり、三笘薫がブライトンのエースとなり、遠藤航がユルゲン・クロップ監督の下リバプールでレギュラーを勝ち取るなど、近年の日本人選手の活躍が信じられなかった。

 その背景には、ドイツを中心に欧州を主戦場とする日本人選手がどんどん増えて、本場のフットボールに関する情報が伝わり、短期間でヨーロッパに対応できる体と精神力を身につけたことがある。

 それにペップ・グアルディオラがマンチェスター・シティで大成功して、体力勝負だったイングランドで技術の重要性を示したことが、日本人選手を受け入れる土壌を作ったとも思う。またVARの導入で、反則基準が厳しくなった影響もある。ファウルまがいのコンタクトプレーが減少し、ボール扱いがうまい選手の価値が上がった。

 本人はこれでもはしょったつもりなのだが、本当に前置きが長くなった。しかしこうした紆余曲折の25年の重みがあるからこそ、筆者が8月28日金曜日の夜、クリスタルパレスのセルハースト・パークで鎌田大地と冨安の2人が同一チームで先発出場を果たした時に、言葉にできない感慨を覚えたのである。

鎌田も冨安もシティを相手に堂々たる存在感

鎌田はフル出場し、冨安は後半29分までプレー。大差で敗れたものの、両選手のパフォーマンスは素晴らしかった 【Photo by Sebastian Frej/Getty Images】

 フィジカルなフットボールを伝統とするプレミアリーグの厚い壁に弾き返され続けてきた日本人が、ついにここまで来た。しかも、この試合で鎌田、冨安の2人は、強豪マンチェスター・Cのフィールドプレーヤーの誰にも負けていない、堂々たる存在感を示した。

 1-4で負けたが、これは最前線のクオリティの違いがもろに出た結果だった。パレスがポイントゲッターであるイスマイラ・サール、ジャン=フィリップ・マテタの2人を欠いていたことに尽きる。

 あの2人がいたら本当にどうなっていたか分からない試合だった。中盤の鎌田とアダム・ウォートンは攻撃の起点として申し分ない働きだったが、ファイナルサードでの決定力が明らかに不足していた。

 冨安も3バックの左センターバックで躍動した。コンディションさえ整っていれば、プレミアリーグでも際立った選手であることは分かっていた。しかし後半29分、左足を痛めた様子を見せて交代。大事に至らなければいいのだが。

 サールもマテタも表向きは故障だが、前者はリバプールから誘いを受けて移籍を熱望しており、マテタは契約問題でクラブと揉めているという。2人ともこの原稿を書いている時点ではクリスタルパレスの選手で、確かにプロの世界ではつきものの問題だが、こうしたフットボール以外の理由で選手が試合に出ないとがっかりする。

 オリバー・グラスナーという有能な監督を失ったのも、経営陣の責任が大きいと思う。しかし結局は、基本的にプレミアリーグ残留が最大の課題というクリスタルパレスの立ち位置があって、それを超える実力を示した選手や監督は、その野心がクラブの現実と乖離して、こうした不可解なことが起こってしまう。

 史上初となる日本人選手2人のプレミアリーグ同一チーム同時先発という歴史的な瞬間の感動の裏で、今季のクリスタルパレスに強い不安を感じた。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2025-26で25シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル30年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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