国内最速タイ記録となる5戦目で世界奪取を狙う吉良大弥のルーツをたどる 小・中・高校時代の指導者の証言
国内最速記録で最も若い世代の日本人世界王者誕生なるか
5戦目で世界奪取は元世界4階級制覇の田中恒成(畑中)と並ぶ男子の国内最速記録。また2003年生まれの吉良が世界王者になれば元IBF世界ライトフライ級王者・高見享介(帝拳)の2002年を更新し、歴代で最も若い世代の日本人世界王者が誕生する。
「世界王者になってからがスタート」。志成ジム、東京農業大学(中退)の先輩で世界4階級制覇王者の井岡一翔、二宮雄介・志成プロモーション代表が口をそろえ、この先の輝ける未来に期待をかける23歳の逸材である。
「今、吉良大弥は本当に強い状態。彼に唯一、足りないのは(世界の)ベルトだけだと思ってます」
20代の頃から元WBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志(ワタナベ)のミットを持ち、現在は井岡をはじめ、堤駿斗・麗斗兄弟のトレーナーを務めるなど、経験豊富な佐々木修平・志成ジム会長も吉良の能力の高さ、最速での世界獲りに自信を示す。
カニサレスは過去に4人の日本人と対戦。23歳で初来日時はWBA世界ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ)と引き分け、中国で元WBO世界フライ級王者の木村翔(青木)を大差の判定で下すなど、通算2勝1敗1分の戦績を残す。
特に直近の2024年1月、大阪で寺地拳四朗(BMB)のWBC世界ライトフライ級王座に挑戦し、2回にダウンを喫しながらも3回に倒し返し、激闘の末に僅差0-2の判定で王者に冷や汗をかかせた一戦のインパクトは大きい。
30代を迎えて、なお屈強なフィジカル、タフネスぶりを誇示したカニサレスに対し、それでも臆することなく「KOで倒して、圧倒的に勝ちたい」と吉良は口にする。
佐々木会長は「状況に応じて、いろいろ変えられる」とボクシングIQの高さを武器に挙げ、「だから、あまり気負い過ぎないように。頭をクリアな状態にすることが大事」と続けた。
まだプロ戦歴の浅いホープが、その全貌を見せるのはこれから。佐々木会長は愛弟子の対応力、引き出しの多さについて「もともと持っていたもの」と言った。それでは、どんな道のりを経て、吉良はここまで来たのか。
ルーツをたどるべく、小・中学生、高校生、それぞれの時代を知る当時の指導者たちに話を聞いた。
自分が見てきたなかで吉良が一番の才能
東京農業大学1年時は全日本選手権で準優勝。パリ五輪を見据え、翌年にはベストのフライ級からバンタム級、五輪実施階級のフェザー級と階級を上げるも結果を出すことはできず。五輪出場の可能性が潰えたこともあり、大学を2年で中退し、プロに転向。これが吉良の略歴になる。
世界戦発表会見後、吉良に「ボクサーとしての土台は、どの時代につくられたと思うか」と尋ねた。「その時代、時代で大切なものがあったので」と、しばらく「うーん」と考えてくれたあと、返ってきたのは「高校時代」だった。
まずは当時の王寺工業高校監督だった高見公明(たかみ・ひろあき)先生の証言から紹介しよう。
自分が見てきたなかで一番の才能――。
『ボクシング・マガジン』『ボクシング・ビート』など、ボクシング専門誌の編集長を歴任した大ベテラン・前田衷さんから折にふれ、高見先生の吉良に対する最大級の評価を聞かされてきたから興味があった。
高見先生は王寺工業高校、奈良朱雀高校(前身の奈良工業高校を含む)から何人もの高校チャンピオンを育成し、のちの五輪代表、全日本選手権王者、プロのチャンピオンを育てたアマチュアの名指導者である。
教え子のなかから名城信男(六島)、寺地拳四朗(BMB)、西田凌佑(六島)とプロの世界王者は3人も出ている。中学生だった村田諒太(帝拳)にボクシングの手ほどきをしたのも高見先生だ。
カウンターのセンス、距離感、スピード、例えば、そういった答えが返ってくるものと想像していたが、違った。真っ先に挙げたのが「気持ちの強さ」だった。
「やったるぞっていう気持ち、負けん気の強さですね。あの子は“見た目”には出えへんかもしれないけど、秘めたものがすごい」
「あいつが倒すと言うなら倒す」
小高い山の上にある王寺工業高校では、アップダウンを含めた1周約300mのコースを設定された時間内に全力で走る。基本は高校の試合時間である2分3ラウンドに合わせ、2周600m強を3本、それぞれ2分以内。時間内に走れなかった場合は腕立て伏せなど、“罰ゲーム”が待っている。
心配機能の向上、下半身強化という目的はもちろん、部員同士で競い合うように走ることで競争心、負けん気が鍛えられる。
「人に負けて、なんも思わんようではダメやからね。走るのでも負けへん。これが大事やで、と選手たちには言ってます。同じ時間内に走るのでも“ケツ”で満足してるようではダメで、常に一番を目指して。その気持ちが絶対に試合で出てきますからね」
実は吉良が自身の土台をつくったものとして具体的に挙げていたのが、この高見先生のインターバル走だった。何か身体的な効果より「9割は気持ち」と話していた。
常に先頭グループでトップの座を争い、気持ちの強さが際立っていたのが吉良だったという。だからこそ、培われたものは心身ともに大きいということだろう。
教え子の負けん気、目標達成の意志の強さを誰よりも知っている高見先生はきっぱりと言う。
「吉良は今回、倒すと言ってますよね。拳四朗がカニサレスに判定やから、それ以上を目指して倒して勝ちに行くでしょう。あいつが倒すと言うんやから、自分は倒すと思いますよ」
宣言どおりに“兄弟子”超えを果たせば、関わったプロの世界王者は4人になる。これもなかなかない“記録”なのではないか。その瞬間を現地で見届ける。
高見先生は今年3月で王寺工業高校を退職。自身の選手時代の恩師でもある樋山茂・芦屋大学監督のもと、現在は芦屋学園高校、芦屋大学でコーチを務め、王寺工業高校にも外部指導者として携わり続ける。
ほかにも現役のプロには史上初の高校8冠を成し遂げた今永虎雅(大橋)、荒本一成(帝拳)がいる。今年は王寺工業高校3年の上窪聖がインターハイ・ライトフライ級を制し、芦屋大学は5年ぶり5度目となる関西学生リーグ優勝を果たした。まだまだ優れた選手をアマチュア、プロのリングに送り出してくれそうだ。