栗山巧 独占手記2026「ファンに伝える志」

現役最終年は初めて「波」の無いシーズンだった 8.30引退試合へ栗山巧がたどり着いた「打撃の神髄」

栗山巧

8月30日の引退試合が間近に迫っている栗山巧 【写真:熊谷仁男】

 プロ25年目を締めくくりのシーズンとして戦う埼玉西武ライオンズ・栗山巧の引退試合まであと1日と迫った。すでに本拠地ベルーナドームだけでなく、西武鉄道の駅でも来たるべき時に向けた装飾も施されつつある。いよいよ最後の試合、打席へ本人の胸中は?シーズンを通じた独占手記、第6回は現役生活の最終盤で考える打撃の神髄、そして盟友・ライバルへの思いを明かす。

 まず26日の二軍戦では、ご心配をおかけしました。第2打席で頭部に死球を受けて、途中交代して病院に向かいました。検査の結果、心配していた脳しんとうなどは認められませんでした。

 ぎりぎりのところでしたが、衝撃を受け流せたようです。球団の方にも、たくさんのご連絡をいただいたと聞きました。気にかけてくださった皆さんに、この場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

ひとつの理想形だった高橋由伸さん

 先日、元・巨人の高橋由伸さんと対談する機会がありました。

 確か、この2年にわたって続けてきたコラムの初回でも書かせていただいたと記憶しています。

 プロ入り直後。当時の二軍打撃コーチだった田邊徳雄さんから、高橋さんの打撃をお手本にするように、と教わりました。

 ムダが一切ない、シンプルで機能的なスイング。

 あれから25年。高橋さんの打撃はひとつの理想形として、僕の頭の中にずっとあり続けてきました。

 そんな方のお話をじっくりと聞ける機会というのは、もしかしたらここまでプロを続けてきたご褒美なのかもしれません。いずれにしても、高橋さんの打撃論からは、多くを学ばせていただきました。

 高橋さんは若いころから、極端なスローボールを打つ練習を重点的に行ってきた、とおっしゃっていました。実は僕も、今年に入ってから遅いボールを打つ練習をしています。

 今年に入り、打撃について考える時間が増える中で、「これをやるべき」と気づいて始めたものです。

 高橋さんと同じような考えに至ることができたのは、とにかく光栄なのですが…僕の方はだいぶ時間がかかりました(笑)。

 高橋さんはプロに入って早々に、自分の打撃の形を確立された方なんだろうな、と感じました。

 もしかしたら、プロ入り前からすでに感覚があったのかもしれない。それに比べると、僕ははるかに長い時間をかけている。そして、打撃の形をつかむには至っていない。

「最後だから」ではなく、いつも通りに

池袋駅構内には栗山の現役生活の軌跡を振り返るビジュアル広告が掲出されている 【写真:球団提供】

 引退試合が迫ってきました。

 それにあわせて、池袋の駅には僕の現役生活の軌跡を振り返る、大きなビジュアル広告が掲出されました。
 写真もみせてもらいましたが、びっくりするような大きさです。

 せっかくなので、こっそりと見に行きたいと思っているのですが…。

 僕が野球に集中させてもらっている間も、多くの方が1年をかけて準備をしてきてくださった。それらがこうして、形になってきています。大変な労力だったんだろうなと、あらためて感じています。

 そうやって、たくさんの方にお膳立てしてもらって、僕は試合を迎えることになります。

 25年間を締めくくる打席もやってくる。でも、特別なことをしようとは思いません。やれることというのは、自ずと決まってくると思っています。

 現役生活を通して、すべての打席でベストを尽くしてきたという自負はあります。

 だから「最後だから」ではなく、いつも通りに臨む。そう思っています。


 最後に「打撃の神髄」をみせられるように。

 そうつづってきたので、最後の打席には並々ならぬ思いで臨む、というイメージをもたれたかもしれません。

 でも、特別な思いを持ったり、特別なことを意識したりすることで、本当に何かが変わるなら。

 僕はもっと、たくさんのことを成し遂げてこられたのかな、と思ったりもします。

「これ以上やれることはないんじゃないか」という準備の積み重ねで、僕はここまで来ました。

 最後の最後で、他にやれることがあるんだったら、もっと早くからやっておきたかったと思うだけに終わる。そういうことがないように、長い間をかけて最善の準備をしてきたつもりです。

 特別な打席にはなるんでしょうけど、だからといって何か特別なことができるわけでもない。

 今はそう思っています。実際にその場に立ったら、また違うものが去来するかもしれませんが。

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著者プロフィール

1983年9月3日生まれ。兵庫県出身。背番号1。外野手。右投左打。177cm/85kg。プロ24年目。育英高から2001年ドラフト4巡目で西武に入団。2008年に自身初の規定打席に到達し最多安打(167安打)を獲得するなどチームの日本一に貢献。08年から9年連続でシーズン100安打以上を達成、12年から16年まではキャプテンを務めるなどチームの顔として活躍。稀代のヒットメーカーとして安打を積み重ね、21年に生え抜き選手では球団史上初となる通算2000安打を達成した。これまで獲得した主なタイトルは最多安打(08年)、ベストナイン(08、10、11、20年)、ゴールデン・グラブ賞(10年)。

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