札幌、仙台、磐田などの“元J1組”に挑む富山と宮崎 エキスパート3人によるJ2展望座談会【前編】
ボール保持時も非保持時も相手をコントロール
河治 磐田は百年構想リーグだとJ1も合わせて52位。60チームで52位は屈辱的です。その理由の一つとして、失点しないようにしたことで選手の矢印が後ろに向きすぎてしまったことがありました。それから、25年夏にジョルディ・クルークス(現横浜F・マリノス)、26年1月に倍井謙(現KVコルトレイク)と、個人で相手の守備を破れる選手が百年構想リーグの開幕前にいなくなりました。
ただ、今季は秋葉監督になって前向きなスタイルになったことに加え、クラブも積極的に補強して、補強のクオリティーではJ2ナンバーワンなんじゃないかと。監督が継続であることの積み上げも含めたチームの総合力では仙台が上ですが、百年構想リーグから新シーズンになって上積みされた部分の伸びしろがすごいので、自動昇格を狙うグループには間違いなく入っていると思います。
カギは武器になる得る選手をチームとして生かしていけるか。野澤零温(←FC東京)や小原基樹(←アルビレックス新潟)といった個で仕掛けられる選手、太田龍之介(←ヴァンフォーレ甲府)という前線で体を張れる選手を獲得して、マテウス・ペイショットの10番起用のような面白いトライもしている。23年に16歳でトップデビューを果たした川合徳孟もすごく伸びています。そういったプラスは一つひとつで見れば多いけど、それがチームとしてしっかり同じ方向を向けるかというところが課題です。
――唯一、磐田をBクラスにしたのは土屋さんです。
土屋 百年構想リーグの順位を元にすると磐田はCクラスですが、秋葉監督になったことであらゆるものを覆してしまう可能性がありますし、昇格争いをするくらいの力もあると思います。J2だけじゃなくてJ1を含めても選手獲得の本気度は相当高かったと思います。乾貴士(←ヴィッセル神戸)が加入したのは大きなポイントだと思いますし、2列目には小原や佐藤大樹(←秋田)が入り、岡山のアカデミーでも明治大学でも活躍した太田も加入しました。
それから、僕が一番大きいと思っているのは、コーチ陣です。ヘッドコーチに藤本主税さん、コーチに増嶋竜也さんが入りました。実は彼らの加入が非常に大きいのではないかと思っています。藤本さんはAC長野パルセイロの監督も務めましたが、ロアッソ熊本で大木武イズムを長期にわたってかなり叩き込まれていますし、サッカーが大好きな方です。SHIBUYA CITY FCの監督を務めていた増嶋さんには市立船橋高のコーチ時代に話をうかがったら、かなり細やかに目配りができる人だと感じました。
河治 増嶋コーチはセットプレーの攻撃も担当されていますが、キャンプの練習試合でセットプレーからゴールが決まった際、選手やコーチが増嶋さんを見てガッツポーズする場面もありました。
土屋 選手たちに慕われているんですね。Bクラスと予想しましたが、コーチ陣の加入も含めてAクラスもあり得ると思います。ただ、そこに入っていくには百年構想リーグでキャプテンを務めた角昂志郎のブレイクが欠かせない。高校1年生のころからよく取材させてもらっていますが、プロ2年目でそういう立場を任されるくらいの立ち位置になっていると思いますし、角が完全にブレイクすれば、Aクラス、J1昇格が見えてくるのではないかという意味でも期待している選手です。
――複数名がAクラスに予想したのは4チームだけ。お1人がAクラス、お2人がBクラスというチームが7チームもあります。
河治 今回は例年以上に予想が難しいし、大変でしたよ。
土屋 百年構想リーグがあったことで難しくなりましたね。
板垣 J2とJ3が同居したり、降格がないので勝ち点1を本気で取りに行くよりチャレンジするチームが多かったので、見えない部分も多かったですね。
Bクラス予想(並び順は北から)
土屋雅史:札幌、いわき、大宮、横浜FC、湘南、磐田、徳島、鳥栖
板垣晴朗:札幌、秋田、山形、大宮、甲府、新潟、徳島、鳥栖
――では、ここからBクラスについて聞かせてください。まず札幌(百年構想リーグ8位)です。河治さんはいかがでしょうか?
河治 川井健太監督の戦い方がすごく浸透してきていて、百年構想リーグの中でも結果だけではなく内容もすごく安定していました。自分たちの立ち位置をしっかり取りながら、攻めているときも守っているときも相手をコントロールしていくサッカーができていた印象です。いきなりフルシーズンではなくてまずはハーフシーズンを戦い、時間をかけてチームを作れたこともメリットで、この積み上げは大きいと思います。
ヴィニ・ペイショット(←清水エスパルス)はプレシーズンからかなり評判が良い選手ですし、いきなり開幕から活躍する可能性も高いと思います(実際に開幕戦でゴール)。それから唐山翔自がガンバ大阪から期限付き移籍してきましたが、札幌でどれくらい使われるのか楽しみにしています。
家泉怜依(→水戸)の流出が唯一にして最大と言っていいくらいの不安要素です。代わってセンターバックに入るであろう西野奨太は百年構想リーグで期待されながらケガをしてしまって、今は戦列に復帰していますが、彼がどのくらい存在感を発揮できるか。家泉は川井監督のもとでかなり伸びたので、西野も新たなディフェンスリーダーに育つことを期待したいです。チームとしてのベースは大崩れしないでしょうし、個の能力も高いので、百年構想リーグの終盤に掴んだ手応えを新シーズンにつなげていけるのではないかと。
日本を知らない新外国人監督の昇格例はない
板垣 百年構想リーグでは尻上がりに調子を上げていったチームですよね。Aクラスに入ってもおかしくないですが、抜けた戦力との兼ね合いが気になります。個人的には梅津龍之介(法政大)に注目しています。川井監督は抜擢がうまい印象があるので、彼のような若手が台頭してくればAクラスに十分入れると思います。梅津は27年の加入が内定していて、まだ特別指定選手ですが、すでに百年構想リーグで抜擢されて存在感を見せています。
懸念材料は、川井監督が通年でどうマネジメントするか、調子の波をなくせるかどうかですね。移動の大変さもありますし、J2は地域が広い中でどれくらいマネジメントできるか。組織の中でのコンディションにばらつきが出てしまうと難しいかもしれません。そこが不安材料でBクラスにしています。
土屋 河治さんもおっしゃっていたとおり、百年構想リーグ前のキャンプも含めれば5カ月くらいの時間はアドバンテージになったと思います。百年構想リーグは第11節から7連勝しましたが、そのうちホームの大和ハウス・プレミストドームのゲームでいわきFC戦、藤枝MYFC戦、大宮戦とすべて90分以降のゴールで劇的な勝利を収めているんですよね。その最後の大宮戦で4-3というすごい試合をしたときに、決勝点を決めた後にベンチにいた選手たちが前に出てきて、ピッチのチームメートを鼓舞している光景を見たときに、チームの一体感が非常に出てきていると感じましたね。百年構想リーグをうまく使えて、戦術の浸透とチームの一体感の向上がすごく出たチームだと思います。
Bクラスとはいえ、限りなくAに近いBなんですけど、どうしても家泉という不動のレギュラーが抜けたところをどう穴埋めするのかが気になります。髙尾瑠、西野、家泉、パク・ミンギュの4バックが非常に安定していましたから。とはいえ、唐山と木實快斗(←ギラヴァンツ北九州)は育成年代でかなり鳴らした2人なので、札幌でブレイクすれば確実にチーム力の向上に繋がると思うし、いい補強だったと思います。
――次は大宮(百年構想リーグ15位)です。Aクラスに入れたのは河治さんですね。
河治 大宮は宮沢悠生監督を解任するというかなり厳しい措置を取りましたよね。その後、ヘッドオブメソドロジーとして再契約しましたが。本当の意味でチームを押し上げられなかったところもあると思いますが、他のチームだったらこのタイミングで解任していないかもしれない。ただ、さらにバージョンアップを図るんだという姿勢をクラブから感じられます。
山本桜大がライプツィヒに完全移籍した上で(大宮に)期限付き移籍という形で残りますが、彼にとっては最後のJリーグになるでしょうし、昇格させたい気持ちは強いと思うので、J2で飛び抜けるくらい、海外移籍する直前の小川航基(現NECナイメヘン)くらいの存在感を出してほしいです。
チームとしてはスタイルもかなり構築されてきているところに、昨季までウェストハムでアシスタントコーチを務め、そのメソッドを持っているナルシス・ペラッチ・ナダル監督が来たので、うまくいけば仙台と双璧になるほどの存在だと思っていますね。
土屋 僕はBクラスですが、百年構想リーグで10得点を取った泉柊椰と山本桜大が残ったのがまず大きいと思います。山本が高校3年生のときのプレミアリーグは川崎フロンターレがぶっちぎりで優勝して、いまはトップチームで活躍する大関友翔と松長根悠仁がいましたが、2人ともそのシーズンのプレミアリーグで最も印象に残った選手として山本の名前を挙げていました。僕もすごいと思っていましたけど、対戦相手もそう思っていたという能力を百年構想リーグで証明してくれました。
ただ、これまでのデータとして、J2は27シーズンやってきて、実は新外国人監督でJ1に昇格した例は11年にサガン鳥栖を率いた尹晶煥監督(現仁川ユナイテッド監督)と12年に湘南ベルマーレで、21年に京都サンガF.C.で指揮官を務めた曺貴裁監督(現浦和レッズ監督)しかないんですよ。しかも、尹晶煥さんは、監督になる2シーズン前からコーチでしたし、昇格する前年は松本育夫さんを監督として事実上、尹晶煥さんが指揮を執っていました。さらに選手としてもJリーグを経験している。もちろん、曺さんもJリーグでプレーしていますし、湘南ではコーチも経験しています。つまり、Jリーグを知らずに日本に来た新外国人監督がチームをJ1に昇格させた例はありません。これは重要なエビデンスだと思っていて、考慮すべきポイントだと思います。
それでも若手に良い選手が多いですし、今年の頭に名古屋グランパスから期限付き移籍で加入した加藤玄はケガで百年構想リーグはあまり出られませんでしたが、日本代表を狙える選手だと思っています。育成出身で水戸への2年間の期限付き移籍を挟んで在籍11年目になる小島幹敏もいますが、加藤や主力になりつつある中山昂大を含めてポジション争いが進んでいくと、チーム自体はすごく面白いと思います。
――同じくBクラスにした板垣さんはいかがでしょうか?
板垣 僕も継続の流れで新監督のチームには概ね厳しくしていますが、コーチに奈良クラブの監督を務めたフリアン・マリン・バサロさんが入りました。フリアンさんが「Jリーグとはこういうものだ」ということを伝える存在として期待されていると思います。一人ひとりの戦力、強度は高いチームですし、J2の中では環境面がトップクラスです。J1とJ2の競技力の差っていうのは縮まっている一方、環境面の差はなかなか縮まってないところがありますが、大宮は環境面ではJ2で図抜けた存在だと思います。
環境が難しいところで頑張っているチームを応援していきたい気持ちと、投資しているクラブに見合った結果を出してほしいという気持ちの両面がありますが、大宮は上がって然るべきチームになってきているとは思います。だからこそ、監督がハマるかどうかが重要なファクターだと思いますし、監督を支えるコーチングスタッフの重要性が問われると思います。
<中編(8月13日掲載予定)に続く>
(企画・編集/YOJI-GEN)
※フォローすると試合の情報などを受け取ることができます。(Yahoo! JAPAN IDでログインが必要です)
詳しくはこちら