週刊MLBレポート2026(毎週木曜日更新)

イチローさん、ホームランダービーで観客を魅了するも惜敗 “隙と焦り”が生んだ1ポイント差に「ここでも何か足りない」

丹羽政善

ホームランダービーを悔しい表情で振り返るイチローさん 【筆者撮影】

球場をざわつかせたイチローさん“本気”の演出

 思った以上に“ガチ”の企画だった。

 昨年、メジャーでは初めてOBによるホームランダービーがブリュワーズで行われたが、マリナーズでは初めて。どの程度の盛り上がりになるのか。そもそも何人がホームランを打てるのか。

 投手だったライアン・ローランドスミスも出場。その彼は同じオーストラリア出身で「クロコダイルハンター」として知られたスティーブ・アーウィンの仮装で登場し、バットではなく、ワニの浮き輪を手にしていた。1番手のバッキー・ジェイコブソンは、明らかに普段から体を動かしていないことが分かる体型。それでも3本塁打を放ったが、かろうじてという感じ。

 この時点では、コンテストというより、エンタメだった。

 ところが、2番目に登場したステファン・ロメロが最初の2分間で23スイング。約5秒に1回というペースで、これは今年からルールが変わったものの、昨年までのオールスター/ホームランダービーに出場していた選手らと変わらない。しかも7本塁打をマークし、計9ポイントでトップに立った。

 イチローさん(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)も「他の選手があんなに打つとは」と驚いた。一緒に練習をし、優勝したロメロについては強敵になると考えていたそうだが、「(オースティン・)ノラがあそこまでやるとは思わなかった。油断していました」と真顔で振り返った。

 予選ラウンドでは、そのロメロとノラが9ポイントでトップ。得点を稼ぐにはポイントが2倍になる30秒のボーナスラウンドで何本の本塁打を放つかということになり、ノラはここで3連続本塁打を放ってポイントを荒稼ぎした。

 イチローさんが登場したのは最後7人目。このとき、まるで現役時代にチャンスで登場したかのような歓声が、球場全体を包んだ。

 実はこのイベントは試合後に行われた。試合では1点差負け。後半に入ってからの貧打を象徴する展開で、終わった瞬間に多くは帰路につき、閑散とするなかで行われるのかと思いきや、ほとんどのファンが残っていた――決して大袈裟ではなく、イチローさんを見るために。

 その期待には十分応えた。しかも、登場する前の段階でゾクゾクさせた。

 イチローさんに投げる投手が姿を見せると、簡易型のマウンドをそれまでの位置から3メートル以上も下げた。投球練習を始めると、それまでの緩いボールはまるで異なり、まさに速球。これでやるのか? 球場がザワついた。

 イチローさんも「あれはインパクトあると思う」と話し、狙いであったことを明かしている。

「他の選手は緩い球というのは分かっていたし、あれはあれとして作品にしたかったというのはあります。なかなかあれは見られない。すごい球なんですよ。ピッて、手元で」

 投げたのは、わざわざ日本から駆けつけたENEOSの日高一晃コーチ。イチローさんが東京で練習するときにお世話になっているという。

「もう6年くらいになるんですけど、初めて会ったときから僕は驚いたんですよ。とんでもないピッチャーだなと」

 さらにこんな裏話を披露した。

「実は日高さんの球を打ち返すには、ある程度状態を上げていかないと飛ばせない。そういう球。だから自分のバロメーターにもなる。途中何年かは、僕の状態が全然上がらなくて、日高さんのあのクオリティの球を打てなかったんです。僕の状態がきっかけで。そういう意味でバッティングピッチャーの球で自分の状態を測れる人ってなかなかいないんですよね。本当にすごいピッチャーです」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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