曺貴裁監督が就任した今季の浦和レッズはどうなる? 識者2人がキャンプ・練習・プレシーズンマッチから読み解く
それ以外のロジックを伝えてほしかった
沖永 僕はサッカー専門紙の浦和担当になる前は、地元のレノファ山口を中心にJ2を見ていたので、2017年の湘南ベルマーレのイメージがすごく強かったんですよ。当時の湘南は降格したばかりでJ2でめちゃめちゃ強くて、「これは敵わないな」という印象がありました。
ただ、そのあとに浦和担当として曺監督のチームを見ていると、京都サンガF.C.が3位になった2025シーズンも、そこまで脅威には思えませんでした。実際に浦和は曺監督が就任して以降の京都にはだいぶ勝ち越しています(リーグ8試合で3勝4分1敗)。以前も曺監督を招へいしようとして頓挫したと聞いていましたが、もうなくなった話だと思っていたので、今回の就任は驚きました。
菊地 僕も湘南の印象が強いですが、浦和を含めて専門紙でJ1クラブの担当を務めた時期が長かったので、沖永さんとは逆で上位チームを食っていくイメージですね。だから以前に招へいの噂があった際には、経験豊富でプライドが高い選手も多かったので「レッズで大丈夫かな?」と思っていましたが、今は当時と比べチームも変化してきました。
清水稔代表や堀之内聖スポーツダイレクター(SD)が熱量、情熱を曺監督招へいの理由の一つに挙げていました。一方で曺監督自身は「情熱だけでチームが良くなるかというと、それは全く正解ではない」とも言っていましたが(笑)、近年は練習も静かだったり、熱量は足りない要素だと思っています。
――先日、2020年1月以来、6年ぶりに『Talk on Together 2026/27』、いわゆる浦和レッズを語る会が開催され、いま名前が挙がった清水代表や堀之内SDがファン・サポーターの前で話したり質問に答えたりする機会がありました。彼らの言葉を聞いて何か感じることはありますか?
沖永 今回のキャンプを通じて初めて曺監督の練習を見ましたが、反対派の人たちが思っているかもしれない威圧的なところはなかったですし、フランクな部分もかなりあるんだなという印象でした。過去のチームを見ても、選手を熱くさせるようなところは非常に優れているんだろうと思っていましたが、キャンプを見てあらためて、モチベーターとして優秀なのだということはよく分かりました。
そういうこともあって、ああいう場で清水代表や堀之内SDが話すのなら、それ以外のロジックをもっと伝えてほしかったと思います。招へいしたかった理由がもっとあるはずでしょう、と。データを示すにしても、こういうところが優れているとか、もっといろいろなロジックを積み上げられるはずですよね。
――ミーティングの映像が公開され、「『RED GAME』をやろう」と曺監督が熱弁していましたが、ああいうのはすでにみんなが分かっている曺監督らしさで、データや湘南、京都時代のプレー集、あるいはベンチマークにしたい欧州クラブのプレー集などを見せて「こういうサッカーがしたい」「こういうチームにしたい」と示してもよかったと思います。
菊地 確かに周囲の反発もある中で、もしかしたらそれが想定以上だったのかもしれませんが、「それでも曺監督に託す」という強いメッセージ性は感じられなかったというのは正直なところです。ただ、堀之内SDが編成について方針シートなども使いながら説明したのはよかったと思います。結局は「その結果どうなったの?」という評価になりますが、他のクラブでもあれほど細かく説明する例はあまりありません。批判も少なくなかったようですが、それも含めて説明するということは大事だと思います。
まずはプレスを仕込みたい
沖永 「スタッフが多い」といろいろなところで言われていて、選手が少ないからそう見えるというのもありますけど、コーチ陣の活用や役割ははっきりしていると思いました。グラウンドデザインとしては曺監督のサッカーで、そのベースとなる技術的な部分や前段の部分を指導しているのが吉田達磨ヘッドコーチという印象でした。吉田さんがポゼッションを仕込んでいるとかではなくて、パス&コントロールや個別トレーニングだったりの、底上げの部分を託されてましたね。
一方、攻撃を杉山弘一コーチが担当したり、山中真コーチが吉田さんのサポートをしたりするなど、新任のコーチの役割もしっかり分かれていて、曺監督が全体を見ている印象です。序盤は班分けするときに曺監督が守備を担当するパターンが多かったです。
菊地 大原サッカー場に戻ってきてからの練習を見ると、こういうサッカーがしたいんだろうなと感じられるメニューが多かった印象です。例えば、狭いエリアでの4対4+3のポゼッションでは、途中から後ろの3人の誰かが前方に飛び出すようになったり、その際に守備側は誰が飛び出すのか気にするのではなく、まずはしっかりプレスすることを前提にしていたり。攻撃パターンの練習でも前に2人、後ろに3人の形ながら、後ろの3人もゴール前に飛び出していました。僕はキャンプには行けませんでしたが、キャンプではそのように戦術意図が表れるようなメニューは多かったですか?
沖永 まずはプレスを仕込みたいというのがあったと思いますし、練習で使うエリアの広さと参加人数を考えると、めちゃくちゃ狭いのが印象的でした。嫌でも球際の局面になるみたいな、プレッシャー、プレスが常に発生するようなものをまずやっていた。練習で使うプレーエリアはリカルド・ロドリゲス元監督(現柏レイソル)やマチェイ・スコルジャ前監督(4月に退任)よりだいぶ狭い印象があり、フルピッチの4分の1で9対9とか10対10をやることもあるくらいだったので、そういうところから意識付けをしていたと思います。
やることもかなり絞っていて、極端に言うと、キャンプではプレスと速攻と、奪ってすぐに前につけるとカウンターを食らいやすいので、数的不利でゴール前をなんとか守る。大きくわけてこの3つをずっとやっていた印象です。やりたいことから起こり得ることをすごくシンプルに整理して、「まずここをとにかくやっていこう」という感じのキャンプに見えました。下からつなぐビルドアップみたいなメニューはありませんでしたね。
菊地 キャンプ後の公開練習で「こういうサッカーがしたいんだろう」と感じられたのも、あれこれやるのではなくて狙いを絞って取り組んでいるからだったと思います。
沖永 たとえば1月も、林舞輝コーチ(4月に退任)がメインでハイプレスにトライしていましたが、スコルジャ監督や林コーチはリスクを消しながら、どちらかというと安全に重心が乗っているなかでハイプレスに行きましょう、というものでした。そこに選手は難しさを感じていたようですが、いまは「迷うならとにかく行って、裏返されたら戻ればいいんだから」みたいな感じです。余計なことを考えないというと語弊があるかもしれないですけど、シンプルにやりたいことのメインの部分を積み上げているんだなと感じました。
菊地 キャンプでの練習試合を含めた実戦形式でも、狙いは分かりやすかったですか?
沖永 そうなんですけど、逆に分かりにくいとも言えて。たとえばリカルド監督の練習だったら、「我々はこういうビルドアップから始めて、こういうふうにボールを進めていく」みたいなのが分かるじゃないですか。でも、そういう練習はどうやら非公開の時にもやっていないみたいで。自陣でどうこうは後回しになっているので、膠着(こうちゃく)したときにどうするのかというのは練習試合でもよく分かりませんでした。
それでも、一度こちらの流れに持ち込むとなかなか鋭いし、こうやりたいという局面になればはっきり強みが出る、という印象です。練習試合でも裏を取られるシーンはけっこうあって、藤枝MYFC戦は無失点で勝っているんですけど、意外とピンチもありました。ただ、ピンチっぽいけど、正面からは絶対打たせない、危険なエリアからは絶対打たせない、といった練習でこだわっていたところはけっこうできていて、ピンチっぽいけどそこまでピンチではなかった。そこはある程度できていたと思います。