アストンマーティン・ホンダは正しい道を見つけたのか? 本格復活への期待と課題

柴田久仁夫

何が変わったのか

大改造を施したAMR26は、かなり贅肉を落とした印象だ 【(C)AstonMartinF1】

 では、ハンガリーGPで何が変わったのだろうか。

 アストンマーティンはここに、ノーズやフロア、リアウィング、リアサスペンションなど、16ヶ所ものアップデートを投入した。もはやほぼ別物のマシンと呼んでいいほどの大改造である。同時に大幅な軽量化にも成功し、ラップタイムは秒単位で縮まった。コンマ1秒の短縮にしのぎを削るF1で、一気に1秒以上速くなるなど、普通はありえない。

 しかし本当に重要なのは、マシンがどれだけ速くなったかという結果ではなく、「どこを改善すればさらに速くなるのか」が、チームの中でようやく見え始めたことだ。

 F1の開発競争では、絶対的な速さ以上に、「正しい方向へ進んでいる」という確信が何より大切になる。少し技術的な話になるが、今回の大改造で目を引いたのが、旧仕様にあった「ハイレーキ」がほぼ消滅していたことだった。「ハイレーキ」とは、車体リアの車高をフロントより持ち上げ、前傾姿勢で走らせるアイデアだ。

 強大なダウンフォースを発生し、コーナリング性能も劇的に向上する。ニューウィの代名詞というべき技術で、レッドブル・ホンダのタイトル獲得に大きく貢献した。ライバルチームもこぞって後追いした技術だったが、2022年に空力規約が大きく変わって以降、ハイレーキのメリットは薄れ、ほぼ消滅していた。

 それをニューウィは今年、復活させたのだ。しかしハイレーキをまとったAMR26は大苦戦。今回の改良仕様では、そのアイデアを封印したように見える。

本格復活は可能か

アストンマーティンのレース現場を仕切るマイク・クラック(写真左)と記者の質問に答えるホンダの折原伸太郎エンジニア 【(C)HondaF1】

 だがどうやらこの措置は、高速コーナーの存在しないハンガロリングだけのようだ。今回の改良で、フロア下の高速気流が安定してリアに導かれ、少しぐらいの挙動変化ではダウンフォースが抜けないことも確認された。従来のハイレーキとは異なり、今季の新技術規約でも成立するよう最適化された、「新世代ハイレーキ」とも呼ぶべき技術。それが威力を発揮すれば、アストンマーティンにとってかなり強力な武器になりそうだ。

 そしてホンダはいよいよ、夏休み明け8月末のオランダGPで改良版PUを投入する。高速燃焼システムを見直し、かなりのパワーアップ、そして電気エネルギーの回生能力の大幅向上が見込めそうだ。もし両者が同じ方向を向いて機能し始めるなら、今季後半は来季への土台を築く重要な時間になるだろう。

 F1に魔法はない。一度のアップデートでトップチームになることも、一人の天才だけでタイトルを獲得できることもない。そして今のアストンマーティン・ホンダには、ようやく希望を語れる材料がそろってきた。「この道を進めば勝てる」という確信を、彼らはこのまま積み重ねることができるかもしれない。

 ハンガリーGPは、アストンマーティン・ホンダにとっての「正しい道」がようやく見え始めた週末だった。その道が、本当に勝利へ続く一本道なのか。それを証明する戦いが、いよいよここから始まるといえる。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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