“スペイン流”を目指す大岩ジャパンの顔ぶれ、森保監督の「半年間続投」が及ぼす影響 識者3人による緊急座談会【後編】
森保監督の半年間続投の背景にあるもの
川端 そもそもこの決定が、大岩監督にスムーズに引き継ぐことを目的としているのかどうかなんですよ。そこが見えないのは良くないと思っていて。「アジアカップを獲るためにすべてを使って戦ってくれ」と言いつつ、「大岩監督にスムーズに引き継ぐために4年後も見据えてやってくれ」って……そんな無茶苦茶なことありますか? それなら大岩さんが最初からやればいいという話です。
田中 これって本当に意味が分からないですよね。
池田 今の時点で矛盾してるから、すごく気持ちが悪い。
川端 たぶん、頼んでいる側も気持ちが悪かったと思います(苦笑)。まあ、そこはいろんなことを汲んでの苦肉の策という感じの決定なんでしょうけど。
――アジアカップに大岩さんがコーチ的な立場でベンチに入るとか、そういったプランもないんですか?
池田 ないと思いますよ。森保さんも一部のコーチングスタッフは現状のままを希望しているとか。
――そもそもこうなった原因について、推測できることはありますか?
川端 難しいですね。ただ、これは何か確たる根拠があるわけでもない純粋な推測になってしまいますが、A代表監督にとってアジアカップを戦うことは、めちゃくちゃハードなことだと毎大会感じています。W杯から半年後とかの開催で、選手のモチベーションもなかなか上がらないし、実際に選手に話を聞いても、「正直しんどいですよ」という反応じゃないですか。でも、そうした中でも結果を出さないと、「アジアでも勝てなかった」と、W杯までひたすらボロクソに言われてしまう。だから森保さんの半年間続投は、(大岩監督から)その負荷をなくしてあげるためなんじゃないかと。
池田 すごくピュアですね(笑)。その発想はまったくなかった。
――まさに森保監督はロシアW杯から半年後に行われた19年アジアカップUAE大会決勝でカタールに負けてから、ずっと叩かれていましたね。
川端 そう。だから森保さんが、アジアカップを「火中の栗」として認知しているのであればなおさら、「剛のためにそこは俺が引き受ける」となる理由はあるのかな、と。次のW杯で結果を出すためには、アジアカップで若い選手にチャンスを与えてブレイクのきっかけを作らないといけない。今回のチームは年齢が高めですし、世代を更新する必要があるのは明らかですからね。
ただそうすると、必然的に勝率は削られる。経験の浅い鈴木彩艶(パルマ)を正GKに抜擢してベスト8で敗れた24年のアジアカップのように。でも、たとえ勝率を削られても、そういう真剣勝負の場で新しい選手に経験を積ませなくてはならないし、同時に結果も残さなくてはならならないとなると、やっぱり新任の監督では荷が重い。だから森保さんをそこまで引っ張るのかなと。
――だったら、大岩さんがパリ五輪世代とロス五輪世代を中心とした若いメンバーで戦って、アジアは獲れないかもしれないけど、4年後にはつながるというスタンスを明確にしておけばいいのでは?
川端 いや、A代表のトップ選手と一緒にピッチに立って、勝たなきゃいけないというプレッシャーを感じながら戦うからこそ若い選手の経験になるのであって、若手だけでやっても逆に経験にならないと思います。アジアカップの彩艶も冨安も、古くは吉田麻也(LAギャラクシー)もそうでしたが、A代表が背負う重圧を感じること、そしてそれを乗り越えること自体が大事なので、それを「今回は若手でいくから勝っても負けても気にしないでいいよ」と言って取り除いてしまっては、経験の場として機能しない。もちろんアジアカップを獲りたいという欲はある。ただ、その欲のために4年後を犠牲にはできない。その両獲りを目指す選択肢としての森保ジャパン継続なのかな、というのが自分の推測です。
池田 正しい判断かどうかは置いておいて、たしかに、そういうロジックは成り立ちますね。
川端 ただ繰り返しますけど、これはピュアな推測です。何か関係者から話を聞いたわけでもありません。A代表の強化にとってはすごく重要だけれども、同時にすごく足を引っ張られる部分でもあるこのアジアカップという異様に難しい建付けをどうするか。アジアカップでの好調がW杯につながらないのは、過去の結果が言葉より雄弁に証明していますしね。日本が優勝したのは過去4度ですが、いずれも「アジアカップの時が一番強かった」みたいになっていますから。W杯でアジアのチームと対戦することは基本的にないわけですしね。
――できれば、W杯出場組は休ませてあげたいですよね。
池田 これまでのカレンダーだと、9、10、11月とそれぞれインターナショナルマッチウイークが設けられていて、欧州組はそのたびに長距離移動で日本に帰ってこなくてはならなかった。そうした負荷が南野拓実(モナコ)、遠藤航(リヴァプール)、三笘薫(ブライトン)の怪我につながった部分は少なからずあったと思うんです。その上でさらに年明けのアジアカップにも呼ぶのか、まずはそこから議論を始めるべきなんじゃないかと。あれだけ頻繁に招集されたら、ヨーロッパのクラブもそんな選手はもう要らないとなりかねませんよ。
川端 今年から9月末~10月頭にかけて4試合連続で試合が組まれるようになったから、多少は負担が軽減されると思いますけど、それでも帰国してくることには変わりないですからね。(※11月のインターナショナルマッチウイークはこれまでと変わらず2試合が組まれている)
感情が表に出ないことが大きなアドバンテージ
池田 そうですね。ただ逆に、リーグ戦がちょっと危ういところはありますけどね。僕と川端さんがバーレーンの現場で頭を抱えたのが、パリ五輪アジア一次予選(24年のU-23アジアカップ予選)のバーレーンとの最終戦の終盤です。危うく敗退しかねない頼りない試合のクロージングでした。結局スコアレスドローに終わって、辛くも予選は突破したんですが、あれは大岩さんにとって最低の試合でしたね。
川端 かなり危うかったのは確かですね。とにかく暑すぎたので、見ている側も意識朦朧としていました(笑)。
池田 あの試合の危うさはもっと語られてしかるべきだと思いますよ。パリ五輪でベスト8のチームが、アジア一次予選で敗退する可能性があったわけですからね。ただ一方で、トーナメントでの勝負手を打つ早さとか、延長戦の戦い方とか、そういった面では森保さんよりも優れているかもしれません。森保さんは最後までトーナメントに弱い印象を拭いきれませんでしたから。具体的に何がすごいかと言われると分からないんですが(笑)、大岩さんがここまでトーナメントで勝ち続けているのは、決して偶然ではないと思います。トーナメントに強い監督はずっと強いし、トーナメントに弱い監督はずっと弱い(笑)。
――18年には鹿島にとって喉から手が出るほど欲しかったACLのタイトルをもたらしましたが、間近でその采配をご覧になっていた田中さんは、具体的に大岩さんのどこが優れていると思いますか?
田中 この座談会の最初の方で話しましたけど、結局「岩」なんですよ(笑)。剛さんって、良くも悪くも感情が顔に出ないんですよね。僕はそれが「監督・大岩剛」の大きなアドバンテージだと思っていて、とにかくどんなに苦しい状況に陥っても決して崩れない。
だから、僕は羽さんとのコンビがすごくいいと思うんですね。しっかりとした理論を持っていて明るいキャラクターの羽さんと、マネジメント手腕に優れ、監督としてどっしりと構えている剛さんは、組み合わせとして申し分ない。やっぱり、監督がバタバタしちゃうとチームに悪い影響が及んでしまいますけど、剛さんに関してはそれがありませんからね。
川端 サッカーゲームで大岩監督の特性を何か付けるなら、「ポーカーフェイス」でしょうね(笑)。
池田 確かに。森保さんとは記者会見での対応にも大きな違いがありますよ。記者との関係性は、たぶん大岩さんの方がうまく作れそう。
川端 それはどうかな(笑)。
池田 あくまでも表面的に、ですよ。はぐらかすのもうまいし。森保さんは真面目に真正面から対応していただけることが多い反面、質問にムッとした時が分かりやすいじゃないですか。
川端 代表に来る記者はそもそも曲者ぞろいだし、スタンスも多様だからね。よく「日本のマスコミは〜」みたいに言われますけど、実際は全然一枚岩じゃない(笑)。これは悪い意味に取ってほしくないんですが、大岩さんって嘘がつけるんです。
池田 それは本当にそう思う(笑)。
川端 もちろん悪意のある嘘という意味ではなく、その場に合わせて“収まる”ことをしゃべってはぐらかすことがありますから。でもそれは、監督、特に代表監督という立場から考えると、決して間違っているわけではないんです。
池田 ちゃんと相手の質問に乗っかってあげてしゃべるんだけど、その意見には1ミリも賛同していないというね。
田中 だから、書き手の資質も問われますよね。まあ、タヌキですからね、剛さんは(笑)。
(企画・編集/YOJI-GEN)