次期日本代表監督に「大岩剛」が選ばれた理由、五輪代表と兼任するメリットは? 識者3人による緊急座談会【前編】
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Jクラブ監督の引き抜きをご法度とする不文律
川端 日本人監督なら、次のW杯まで森保さんが続投するか、そうでなければ大岩さんしかいないんじゃないかと予想してはいました。外国人監督を呼べないのであれば、それが基本線だろうと。もっとも、まさか森保監督の続投と大岩監督の就任の両方が正解になるとは思っていなかったです(笑)。
池田 北中米W杯で日本が敗退した直後に、川端さんも言っていましたよね。「やっぱりA代表と五輪代表の監督は兼任したほうがいい」と。つまり、日本サッカーの課題は明白で、アルゼンチンやスペインを見ても分かるように、やはり育成年代からどれだけA代表に人材を送り込めるかがすごく重要なんです。だから今回の人事も、そういった意味での1つのメッセージなんだと受け止めましたね。
川端 そこはタツさんと僕の考え方はちょっと違いますけどね。育成年代から五輪という流れは必ずしも必要じゃないというか、育成年代で芽が出切らなかった選手を発掘するポイントが五輪年代にあるのが日本サッカーの特徴で、だからこそ五輪代表とA代表の連動が不可欠という考え方です。育成からつながる選手はもちろんいるんですが、そこをマストに見る必要はないです。東京五輪のときの森保さんも、まずU-20W杯に呼ばれていた選手を呼ばないところからスタートしていて、そこの枠に実際に三笘薫や上田綺世がいたのでね。仮に兼任という選択肢を採らないにしても、A代表と五輪代表の連携・連動はもっと必要だろうとパリ五輪の当時から思っていましたし、北中米W杯が終わった今も思っているということです。
――田中さんはどうですか?
田中 「(鹿島アントラーズ監督の)鬼木達さんが引き抜かれなくて良かったな」というのが、率直な感想です。
川端、池田 ハハハハハ。
田中 でもまあ、消極的な選択になってしまうのかもしれないですけど、いろんな状況を鑑みても、「剛さんしかないだろうな」とは思っていました。
川端 Jクラブの監督の引き抜きをご法度とする不文律があるというか、そもそも選ぶ側(日本サッカー協会の技術委員会)にJリーグの人間がたくさんいるわけだから、「どんどん引き抜いていこうぜ」とは、なかなかならない。(ジェフ千葉の監督だったイビチャ・)オシムさんの代表監督就任以降、「それはやめておこう」という空気になっていますね。
池田 昔と状況は違うからね。
川端 秋春制へのシーズン移行のタイミングで、(W杯のタイミングがJリーグのシーズンの合間になるので)言いやすくはなっているかもしれないけれど、とはいえ難しい。だからその選択肢はないだろうな、と最初から思っていました。
外国人監督の可能性は捨て切っていない?
川端 まず、ディスカウントして外国人監督を連れて来てもしょうがないなと。1998年のW杯の後でアーセン・ヴェンゲルに頼んだら断られて、フィリップ・トルシエを紹介されたということがありましたよね。今、当時のヴェンゲル・クラスの監督にお願いするなら分かるけど、トルシエ・クラスに来てもらっても困るわけです。だから、特別な知識なり、実績なりを持っている外国人監督を選択肢に入れるというのは、あるべき姿だと思う一方で、「とりあえず外国人だ」みたいな選び方は、やってはいけないと思います。
池田 やっぱり、お金の問題で外国人監督は難しいだろうなというのはありましたね。川端さんが言うように、ディスカウントして連れて来るくらいだったら、日本人監督の方がいい。ただ、僕が日本サッカー協会というか、宮本恒靖会長に対して思うのは、「お金がない、ない袖は振れない」は、組織のトップとしてはダメなんじゃないの?ということなんです。
お金がないから、例えば「1億2000万円でやってくれる人を探しましょう」みたいなマインドセットになるのは、そもそもからして違う。そうではなく、5億円、10億円払って優秀な外国人監督を連れて来るプランを作るのが、協会トップの仕事なんじゃないかと。それは銀行からお金を借りてくるのか、国から出させるのか、どこかの企業を引っ張ってくるのかは分かりませんが、そういう大きなプランを描いてほしいという思いは、誰を監督に選ぶのかということ以前に強くありましたね。
今の日本経済を考えれば、しょうがないところもあるんだろうけど、それでもW杯優勝を目標に掲げるなら、協会もそういうチャレンジをして然るべきなんです。それをせずに、選手やチームだけの頑張りで優勝するとか、それはちょっと違うんじゃないかと思いますね。
川端 でも、実際のところ5億円じゃ優秀な外国人監督は連れて来られないんだよね。10億円でも厳しい。
池田 まあそうなんでしょうけど、それでも選択肢は広がる。
川端 今後さらに円安が進んでいくことも考えなきゃいけない。ドルベースで契約をすると大変なことになるリスクだってある。さらに言うと、監督に10億円を出せば、スタッフなどその周辺の人たちにも大金を払って連れて来なくてはいけない。それを4年間維持するという未来が、現実的に見えなかったんだと思います。だから、実は大きな絵も描いていたんだろうけど、思った以上にお金が出てこなかったっていうこともあるんじゃないかな。
田中 おそらく、そういうことそうなんでしょうね。
川端 「絵を描いたらうまくいく」という話はあるはずもなくて、「絵を描いてもうまくいかない」ときに、リアルな判断を下す責任だってトップにはある。そういう意味で、僕は今回のやり方が一概に間違っているとは言えないと思うんです。それともう一点、そもそも宮本さんは本当に外国人監督を連れて来るつもりだったと思いますよ。そして、その可能性を捨て切ってはいないのかもしれないな、とも思っていますし。
――本当ですか?
川端 次のW杯までの4年間を任せようとするからいろんなリスクが生じるわけで、それなら北中米W杯でブラジル代表を率いたカルロ・アンチェロッティみたいに、本番の1年前に招へいして最後の仕上げを託すみたいな形での監督交代はあり得ると思うんです。大岩さんについて言うなら、28年のロス五輪を試金石にしてそういうジャッジを下す可能性もなくはない。
池田 年俸10億円の監督に4年間を託すのは資金的に無理だけど、1年間だけなら……。資金的なメリットは間違いなくありますね。
川端 外国人監督にとっても、日本で4年間やるというのはリスクであって、ヨーロッパの市場から自分の名前が消えてしまいかねない。ヴェンゲルさんに頼んだときも、4年は長いと言われて、当初の構想では「トルシエ2年、ヴェンゲル2年」なんてプランまであったらしいですしね。これは大岩さんを信頼しないとかそういうことではなくて、「絶対にうまくいく」監督はそもそもいないんです。100億円使っても分かりません。アンチェロッティ監督だって失敗するんです。
すべての監督は人間で、魔法使いはどこにもいません。だから「日本代表を誰かに任せる」決断をしながら、同時に「ダメだったら、こうしよう」というプランBやCを用意しておくことも選ぶ側が持つべきミッションですよ。もちろん、表立って言う必要はないですよ。あくまで裏ミッションです。そして宮本さんはそうしたサブプランの中に、外国人監督招へいも残しているんじゃないかと推測しています。
――田中さんは鹿島の番記者として外国人監督のいいところ、悪いところも見てきたと思います。外国人の代表監督には賛成ですか?
田中 今回のW杯を見ていて思ったのは、「Jリーグでやっている監督たちって、そんなに悪くないんだな」ということです。大物監督が指揮を執ったブラジルやイングランドも、Jリーグでよく見るような負け方をしていました。もちろん、ワールドクラスを動かすカリスマ性や大会に至るまでのマネジメントとか、目に見えない部分で、そういった大物監督のすごさも確かにあるとは思いますけど、実際の試合で起きている現象自体はJリーグと大きな差はない。当たり前のことですけど、彼らだけが使える魔法のような戦術が存在するわけでもないですから。
逆に言うと今大会を通して、「日本人監督もちゃんとレベルが上がってきているんだな」と実感できた。あと、お金の話で言えば、5億円で連れて来ても意味がないというのは本当にそうで、それは鹿島で強く感じたことでもあります(笑)。
川端、池田 ハハハハハ。
田中 例えば欧州から来た監督と聞くと、それだけで最先端の戦術理論を備えた監督のように感じられますけど、文字通りピンキリです。特に、海外では選手を育てる概念がなく、完成された選手を出し入れすることでチームを作りますが、Jリーグはそうではない。日本人は欧米人と比べて肉体的にも精神的にも成熟するのが遅く、20代前半でもまだまだ成長の余地を残している。そうした日本人やJリーグの特性を知らないまま来られたら、何のために大金を払ったのか、となってしまう。5億円クラスだと、そうした選手を育てる意識や、戦術、マネジメント、勝負勘のどこかが欠けていることを覚悟しないと難しい。
池田 出すなら10億とか20億を出して、本気で一流を連れて来ないと。
川端 そうじゃないと、選手たちもまとまらない。それこそヴァイッド・ハリルホジッチさんを連れて来たら、チームが空中分解しちゃった過去もあるわけだから。「年俸5億はきついな~、円安が進むと考えたら出せて3億5000万かな、その枠の中ならこの監督が一番マシかな」みたいな選び方をしているようだと、確実に失敗するでしょうね。
池田 先ほどの話に戻ると、ラスト1年だけ大物に託すという考えはありだと思います。あらためて今回のW杯でいろんな国の監督を見て、別にW杯は4年間積み上げなきゃいけないものではないんだなと実感したから。4年間のチーム作りの集大成がW杯という考えにとらわれすぎている人が、日本には多いんじゃないかと。
――先ほど、トルシエの話が出ましたが、考えてみれば、02年の日韓大会で韓国を率いたフース・ヒディンクも、本番の1年半ほど前に就任したわけですし、実力のある監督であれば、1年ちょっとでもトーナメントを勝ち上がれるレベルには持っていけるかもしれませんね。
川端 もちろん、マッチングの部分は重要な課題ですけどね。まったく合わない監督を連れて来たら、1年でも辛いですから。博打にはなるので、個人的にはオススメしませんが、でも外国の大物監督にこだわるなら、その手しかないとも思っています。