「3カ月あれば優勝候補を倒せる」甲子園68勝の髙嶋仁が明かす、“常勝智辯”を築いた指導術とは
今度の相手は箕島、そして全国にはPLが
髙嶋: 和歌山に学校ができるんで行ってほしい、ということで。また0からです。僕が行った前の年、54年(昭和54年)っていうのが、箕島が春夏連覇しとるんですよ。
上重: また目の前に大きな壁が。
髙嶋: これを倒さないと甲子園に出れない。天理の次は箕島かよ、と。まあ、しかし倒さんと出れないし、こっちは出たい。
上重: でも、目標が明確にあるのは良かったんじゃないですか?
髙嶋: そうです。で、全国を見たらPLがおった。奈良の時からどんどんPLへ試合に行きました。1回も勝ったことないですけど。
上重: PLの野球はどうでしたか?
髙嶋: 鮮明に覚えとんのが、スクイズで5点取られたこと。今で言うセーフティスクイズを当時からやっとった。一つレベルの高い野球をしてましたね。腹立つんですよね(笑)。絶対PL倒したろ、と思いました。
髙嶋: そうです。エリートがおらんかったら、ハートと体力で勝たなあかんのです。箕島に勝つためには、うちは2000回(素振りする)、これで優位に立てるわけですよ。
上重: 選手たちの気持ちを「その気」にさせるポイントはどこにあるんでしょう?
髙嶋: 奈良の時の付き合いがある徳島とか大阪、兵庫、名古屋のチームと練習試合をしてもらうんです。まあ大変です。3時間半経っても終わらない。点数は計算機がいる。
上重: それだけ点を取られると。
髙嶋: 30点やったらまだいいですよ。それ以上取られる。でもね、選手って同じ年頃じゃないですか。涙流しよるんです。「悔しい」と。それを見た時に「あ、これ甲子園出るのに20年もかからへんな」と思ったんです。
上重: 悔しいという気持ちが出てきた。
髙嶋: そうです。帰ってきて次の日ミーティングするじゃないですか。100%通りますよ。「あんな打球を打とうと思ったら、こんなトレーニングがいるんや」「あんなボールを投げようと思ったら、こういう練習せなあかんのや」。もう、ほっといても動くようになる。
弱いチームでも3カ月あれば勝てる
上重: すごい変化ですね。
髙嶋: その年の春の大会、抽選でいきなり優勝候補を引いたんです。職員室では「去年は5回コールドやったから、今年は7回までいってほしいな」なんて声が聞こえてくる。負け前提ですよね。
上重: 監督の心の中では違ったと。
髙嶋: 結果から言います。5-2で智辯和歌山が勝ちました。
上重: ええー!勝ったんですか!
髙嶋: つまり、1勝もできないチームでも3カ月あれば優勝候補を倒せる。これが野球の怖いとこなんですよね。彼らは自信持ってやった。技術はまだないけど、量もやってきた、と。
上重: そこから常勝・智辯和歌山が出来上がっていくわけですが、監督の中に「こういうチームを作りたい」という理想はあったんですか?「強打智辯」というイメージがありますが。
髙嶋: いま言われる「強打智辯」を作ったことは1回もありません。
上重: え、そうなんですか? でも、記録を見てもホームランの数も多いですし、打のイメージが強いですが。
髙嶋: あの記録を作った時、和歌山大会ではホームラン1本も出てないですよ。
上重: ええ!? それは不思議ですね。
髙嶋: 不思議じゃない、当たり前ですよ。夏の大会、普通は甲子園から帰ってきたら練習しないでしょ? うちは大会が終わって帰ってきたら2時間練習するんです。試合の後ですよ。
上重: 試合の後に!?
髙嶋: 和歌山で6試合、甲子園で6試合、12連勝する体力作りをやっとるわけです。だから、和歌山大会でホームラン1本も打ってないチームが、甲子園行った途端にバカバカ打ち出すんですよ。
上重: どういうことですか?
髙嶋: 甲子園行ったら練習時間が2時間しかない。これが「調整」になるんです。体が楽になるから、元気に勝手にバット振りだす。
上重: なるほど!秘密はそこだったんですね。
髙嶋: そうです。そもそもの体力、日頃やってた練習の量がしっかりしてるから、甲子園に行ってからの調整ですごく楽になって、いい状態になる。和歌山大会の1回戦、2回戦というのが、うちの子は一番しんどいところでやってるんです。
エースは決勝まで投げさせない
髙嶋: ずっとです。でも決勝まで行くとだんだん調子が出てくる。10対1とかで勝つんですよ。
上重: それも監督の思惑通り。
髙嶋: そうです。1回戦で負けるのも、決勝で負けるのも、僕にとっては同じ負けなんです。甲子園に出れないんですから。だから戦い方もそうなる。
上重: というと?
髙嶋: 1、2、3回戦でエースなんか投げさせません。エースは決勝です。決勝に一番いいとこに持っていく。
上重: 選手層が厚くないとできない戦術ですね。
髙嶋: 選手がいないから、そういう仕組みを作っていかないと勝てないんです。ピッチャーを常に5人、6人用意しとく。5番手から「お前行け」、点取られたら「交代、お前行け」。だから決勝まで行っても、うちのピッチャーはバテてないんです。
上重: なるほど。
髙嶋: だから点取られるじゃないですか。5点取られた。でも勝ちたい。だから6点取るんです。バッティングのチームじゃないんですよ。勝ちたいから取るんです。
髙嶋: 取るような練習してますから。
上重: 智辯和歌山は守りの野球なんですか? それとも打つ野球?
髙嶋: 守りの野球です。練習が5時間やったら、3時間から4時間は守備です。
上重: え、じゃあなんであんなに打てるんですか?
髙嶋: 勝ちたいから打つんです。それだけのこと。
上重: うーん、難しいですね(笑)。
髙嶋: 例えば、上重さんが日本一のピッチャーになったとする。僕はスカウトに聞くんです。「今年はナンバーワンは誰やった?」「PLの上重や」「ストレートはなんぼ出んねん?」「145キロ」「変化球は?」「140キロ」「分かった。うちは150キロの練習する」。
上重: 常にトップを想定して練習している、と。
髙嶋: 田中マー君がおる時は150キロ出る。じゃあうちは160キロで練習する。常にトップを目指して練習しとるから、それ以上のピッチャーが和歌山にはいないんですよ。だから打ち負けない。
上重: バッティング練習は1時間とのことですが、その中身に秘密があると。
髙嶋: うちはバッティング練習を6箇所でやるんです。
上重: 6箇所!?
髙嶋: マシンが3つ、手投げが2つ、ゆるいボールが1つ。1学年10名で、ピッチャーを省くと野手は18人くらい。18人で6箇所で1時間やったら、1人300から400は打てます。
上重: 数がすごいですね。
髙嶋: 人数が少ないから、よその学校に比べたら10倍、20倍打てとるわけです。しかも、ここ打ったら次あっち行かなあかん、休む間がない。
上重: バッティングでバテるくらい打てる。
髙嶋: そうです。技術がないんで、打たして技術を身につけさそうとしとるわけですよ。基本は守りのチーム。でも、勝ちたいから打つんです。