「17年ぶり」ではなかったJリーグオールスター 特別な空間に込められた「33年間の感謝」と「第二楽章の始まり」

宇都宮徹壱

変わらない理念と変わり続けるJリーグ

オールスター決勝戦を前にピッチ上で「J'S THEME」を演奏するギタリストの春畑道哉氏。33年間の歴史を思い、シーズン移行後のJリーグへの期待感を高める演出だった 【宇都宮徹壱】

 半年限定、昇降格なしでPK戦あり。明治安田Jリーグ百年構想リーグとは、後世にどのような評価をされるのであろうか? 今回の樋口さんへのインタビューは、大会前に語っていたことの「答え合わせ」であると同時に、Jリーグがこの大会をどう評価しているのかを知るのが目的であった。

 インタビューを通して確認できたのは、明治安田Jリーグ百年構想リーグが、単なる特別大会ではなかった、ということである。むしろ、33年間続いたJリーグの一区切りであり、新しい時代へ向かうための「助走期間」と捉えるべきであろう。

 思えば樋口さんは、シーズン移行のプロジェクトを主導する立場にあった。プロジェクトは2023年2月から検討が始まり、同年12月の実行委員会を経て、2026年からのシーズン移行が正式に決定。しかし、ここで新たな課題が立ち上る。移行に向けた半年をどうするのか? Jリーグには、最適解が求められることとなった。

 選択肢は大きく2つ。半年分を2025シーズンに吸収して1.5シーズンにするか。それとも2025シーズンと2026/27シーズンの間に0.5シーズンを設けるのか――。結果としてJリーグは後者を選ぶわけだが、その後も昇降格やタイトルの扱いなど、レギュレーションに関するさまざまな要件をクリアにしていく、膨大な作業が待っていた。

 つまり百年構想リーグは、シーズン移行の議論が始まる3年前から、ずっと地続きとなっていたのである。そして半年間のリーグ戦を経て、オールスターという祭典を挟み、ようやく8月7日から新シーズンを迎えることになる。さぞかし感慨深いのでは、と樋口さんに水を向けると、当人は「始まりにすぎません」ときっぱり。そしてこう続ける。

「もっとも、いきなり『来月から新しいシーズンで』と言われても、クラブもファン・サポーターも、準備や心構えが整わなかったと思います。明治安田Jリーグ百年構想リーグがあったことで、シーズン移行後にJリーグがどこへ向かうのか、半年間かけて皆さんと一緒に考えることができました。それが一番、大きかったことだと思います」

 ならばシーズン移行によって、これからJリーグはどうなっていくのだろうか。樋口さんは「理念そのものは変わりません」と断言する。

「地域に密着することも、ファン・サポーター、パートナー、自治体をはじめとするステークホルダーの皆さんに支えていただくことも変わりません。そして、支えていただいた分だけ、Jリーグが地域や社会へ価値をお返ししていく。その考え方は、何も変わりません」

 その一方で、変えていくものは大きく3つ。まず、フットボールの面で世界のトップを目指すこと。次に、Jリーグで活躍した選手が世界のトップリーグから評価される環境をつくること、そして、60クラブすべてが売上規模を1.5倍から2倍へと成長させ、地域の中でさらに輝く存在になること。そのうえで、樋口さんはこう言葉を結んだ。

「Jリーグの理念という最終的なゴールは不変です。ただし、その時代ごとに具体的な目標を設定し、ひとつずつ前へ進んでいく必要があると思っています」

 理念は変わらない。けれども、時代の変化に合わせて柔軟に対応していく。それこそがJリーグの強さである。そこでふと思い出したのが、オールスターのビジュアルコンセプトに採用されていた、日本の伝統技法「墨流し」である。

 墨流しは、異なる色が混ざり合い、模様は二度と同じ生まれない。ひとつひとつが唯一無二であるように、Jリーグもまた、選手、クラブ、スタッフ、スポンサー、自治体、ファン・サポーターという、それぞれ異なる存在が混ざり合いながら33年間の歴史を刻んできた。

 明治安田Jリーグ百年構想リーグは、その模様に新たな一滴を落とした半年間であった。そして、その一滴から生まれる新たな模様は、間もなく始まる「第二楽章」の中で描かれていくことになる。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)。宇都宮徹壱ブックライター塾(徹壱塾)塾長。

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