「17年ぶり」ではなかったJリーグオールスター 特別な空間に込められた「33年間の感謝」と「第二楽章の始まり」
Jリーグでオールスターが開催されたのは、2007年が最後。プロ野球的な立て付けがフットボールに馴染まなかったのか、さして惜しまれることなく自然消滅していった印象が強い。なぜ、特別リーグのあとにオールスターなのか。当初はJリーグ側の意図が、今ひとつ掴みきれずにいた。
新宿駅で総武線に乗り換え、最寄り駅の千駄ヶ谷を目指す。その間、車内には、J1、J2、J3を問わず、さまざまなクラブのユニフォームを着たサポーターが乗り込んできた。赤、青、黄、緑――。さまざまなクラブカラーのユニフォームを着た人々が、千駄ヶ谷駅のプラットフォームに吐き出される。何とも爽快な光景が、そこには広がっていた。
これまで何度も取材で訪れていた、国立競技場。しかし、この日は何かが決定的に違っていた。それは、試合中のスタンドの光景もまた、同様であった。
オールスターなので、当然ながらホームとアウェイの感覚がない。よって、好プレーには自然と拍手が起こり、ゴールが決まればクラブの垣根を越えて歓声が上がる。そして、ブーイングは基本的になし。スーパーカップとも日本代表戦とも違う、目新しくも不思議な一体感が、そこにはあった。
結論から言えば、オールスターというイベントそのものは大成功だったと思う。正午前に会場に入り、撤収したのは21時近く。実に9時間に及ぶ長丁場の現場取材だったが、退屈に感じる時間帯はほとんどなかった。おそらくは、会場で時間を共有していた誰もが「Jリーグの祭典」を心から楽しんでいたのだろう。
百年構想リーグと同様、今回のオールスターのフレームを設計したのも、Jリーグ執行役員の樋口順也さんである。今回のオールスターについて、メディアが「17年ぶり」と報じていたことについて、当人は多少の違和感を覚えていたと語る。
「確かに『17年ぶり』という側面はありましたし、その表現を否定するつもりはありません。ただ、今回やりたかったのは、単にスター選手が集まって試合をするイベントではありませんでした。これまでJリーグを支えていただいた、すべての皆さんに楽しんでいただくと同時に、大きく2つの目的がありました」
「2つの目的」とは何か? それについては、のちほど語ってもらうことにして、ここでは開催直前まで樋口さんが抱えていた、切実な不安について語ってもらおう。
「大きな不安は3つありました。まず、天候。梅雨時だけに、雨が降ればイベント全体の雰囲気は大きく変わります。次に、試合内容。30分という短い試合時間だけに、全試合がスコアレスドローとなってPK戦が続いたらどうしようと思っていました。それから、ファン・サポーターがこの長時間イベントについてきてくれるのか、という心配もありました」
30分ゲームという前例のないフォーマット。長時間イベントに観客が付き合ってくれるのかという不安。これらに加えて、ステークホルダーの多さや天候をはじめとする不確定要素もある。どれかひとつでも歯車が狂えば、イベント全体が崩れかねない。通常のリーグ戦とは比較にならないほど、予測不能なイベントだったという。
そんな樋口さんが初めて「うまくいくかもしれない」と感じたのは、前日に味の素フィールド西が丘で行われた公式練習だったという。
「スタンドで見学していた、ファン・サポーターの皆さん。そして、クラブの垣根を越えて交流する選手たち。それぞれ、とてもいい雰囲気が感じられたんです。それを見ていて『これは大丈夫かもしれない』と初めて思えるようになりました」
「33年間のJリーグ」を一日で体験する空間
1993年に開幕したJリーグは、この夏のシーズン移行で大きな節目を迎える。だからこそ、これまでリーグを支えてきた、すべての人たちに感謝を伝えたい。そのうえで、樋口さんは今回のオールスターでの2つの目的を明かしてくれた。
「1つは、明治安田Jリーグ百年構想リーグで半年間、それぞれの地域で戦ってきたクラブが、今度はひとつのチームとなって地域を代表して別の地域と戦うこと。そしてもう1つが、シーズン移行を前にした33年間への感謝です」
百年構想リーグでは全60クラブが、半年間にわたって6つのリーグで競い合った。そしてオールスターでは、それぞれのリーグを戦ってきたクラブが、オールスターではひとつのチームとなって別の地域と対戦する。半年間の物語を一本につなぐ「集大成」として、このイベントは設計されていた。
一方、試合に先立つオープニングセレモニーでは、Jリーグの歴史を彩ったレジェンドたちが登場。場外では、歴代のユニフォームが展示され、懐かしのスタジアムグルメや名場面を振り返る企画も数多く用意された。単なるサッカーイベントではなく、「33年間のJリーグ」を一日で体験する空間がつくられていたのである。
Jリーグファンの誰もが楽しめるエンタメを追求しながらも、歴史を築いてきた先人たちへのリスペクトを忘れず、さらには未来に向けての新たな決意表明も共有していく。9時間にわたるイベントには、そうしたJリーグの明確な思いが細部にまで織り込まれていた。
こうしたJリーグ側の思いは、スタンドに詰めかけていたファン・サポーターにもしっかりと受け止められていたように感じる。目当ての選手が出場する試合が終わったからといって、席を立つ人はほとんどいない。場外イベントを楽しみながら、試合が始まればスタンドへ戻り、カテゴリーを問わず、どの試合にも拍手と歓声を送っていた。
「あらためて、ファン・サポーターの皆さんは本当にすごいなと思いました。朝早くから来て、場外イベントも楽しみながら、試合になるとちゃんとスタンドへ戻ってきてくださる。そして最後まで残っていただけた。あれは本当に想像以上でした」
百年構想リーグが、半年限定の「挑戦」だったとすれば、オールスターは、その挑戦を締めくくる祝祭であり、新しい時代へ向けてのイントロダクションでもあった。そしてオールスターのフィナーレとして、国立競技場の大型ビジョンに一本の映像が映し出される。
テーマは「これまでの感謝、そして新たな第二楽章へ」。3分の1世紀が過ぎたJリーグの歴史を「第一楽章」とし、シーズン移行後を「第二楽章の始まり」というメッセージを打ち出したエンディングの映像は、まさに圧巻。それはJリーグが、時代の変化に応じて進化を続ける決意表明でもあった。
1993年の開幕から昨シーズンまで、さまざまな名場面のなかに、数え切れないほどの選手、監督、クラブ、そしてスタジアムを埋めてきたファン・サポーターたちの姿が映し出される。そしてコロナ禍による無観客試合、さらには声出し応援ができなかった時期の様子が映されたシーンでは、自然とスタンドから手拍子が沸き起こった。樋口さんは語る。
「あの瞬間、Jリーグに関わってきた人たちのなかで、泣いていなかった人はいないんじゃないですかね。私自身、今思い出しても泣けます。本当にあの手拍子を聞いた瞬間、この33年間への感謝を伝えるという意味では、目指していたものを実現できたのかなと思いました」