壮大な「実験」であり「賭け」でもあった百年構想リーグは成功だったのか? PK戦導入と昇降格なしの中で“想定を超えた”もの
J1のプレーオフラウンドは、ホーム&アウェイで行われる。一方のJ2・J3では、まずEASTのAとB、WESTのAとBの同順位が対戦。それぞれの勝者同士、敗者同士が対戦して最終順位を決めるレギュレーションとなっていた。
もう二度と行われないであろう、半年限りの特別大会。であるならば、タイトルが決まる試合を取材したい。J1のほうは、ファーストレグでヴィッセル神戸が鹿島アントラーズを5−0で破っていた。鹿島がどれだけ挽回するかも興味はある。けれどもそれ以上に、一見地味に見える仙台と富山という顔合わせには期するものがあった。
ベガルタ仙台が勝利すれば、2009年のJ2優勝以来、実に17年ぶりのタイトル獲得となる。一方のカターレ富山は、クラブ史上初めてとなるタイトル獲得まで、あと一歩。富山からは、数多くのサポーターが駆け付けることが予想された。
昨シーズンは「奇跡」とも言える終盤の追い上げでJ2残留を果たした富山と、あと一歩で昇格プレーオフ進出を逃した仙台。一見すると仙台有利に見える顔合わせであったが、今大会の富山は非常にアグレッシブなサッカーを展開し、この試合でも序盤から主導権を握る。
富山にとって誤算だったのは、前半での失点後に退場者を出したことだ。普通に考えれば、ここで勝負は決まったと思った。ところが富山は、最後まで諦めなかった。90+4分に劇的な同点弾を決め、延長戦へ持ち込む。
15分ハーフの延長戦では、仙台が押し込み続けたが、それでも富山は必死に耐え抜く。そして試合の行方はPK戦へ。ここまで粘り続けた富山は、仙台の2人目をGKが止めたが、3人目と4人目が相次いでミス。結果、PK戦に4−2で勝利した仙台が、J2・J3百年構想リーグのタイトルを獲得することとなった。
試合後の表彰式。仙台の選手も監督も、そしてファン・サポーターも、心からこの優勝を喜んでいた。優勝したからといって、J1昇格へのアドバンテージが得られるわけではないし、得られる賞金も1500万円である。それでも表彰式で喜び合う選手や監督の姿を見て、主催者とはさぞかし感無量に感じていたことだろう。
一方で、敗れた富山もまた、この大会から大きな財産を持ち帰った。それは「自分たちもやれる」という確信である。完全アウェイの中、ほとんどの時間帯を10人で、あの仙台と互角に戦ったのだ。この経験は、選手やスタッフだけでなく、クラブを取り巻くすべての人々に大きな自信を与えたに違いない。
百年構想リーグは、シーズン移行に伴う半年間だけの特別大会であった。昇降格はないし、優勝したからといって星が加わるわけでもない。開幕前には「モチベーションが維持できるのか」「観客は集まるのか」「消化試合が増えるのではないか」といった懸念も聞かれた。けれども、少なくとも私がユアスタで目の当たりにした光景は、そうした懸念を大きく覆すものだった。
Jリーグにとって、この半年間はまさに壮大な「実験」であり「賭け」でもあった。それでも、ユアスタでの仙台と富山の一戦に関していえば、百年構想リーグは「成功した大会」のように感じられた。果たして、この大会はJリーグにとって「成功」と言えるものだったのか。それとも、反省と課題が少なくない大会だったのだろうか。
大会終了から約1カ月後、私はJリーグ執行役員の樋口順也さんに約1時間のインタビューを行った。実は樋口さんには今年1月にも、開幕前の百年構想リーグの制度設計について話を聞いている。今回の取材は、その「答え合わせ」という位置付け。まずは今大会への自己採点から、今回のインタビューは始まった。
「100点」という自己採点と想定を超えたファン・サポーターの力
「通常のシーズンに比べると、いろいろ難しさがありました。われわれとしても『こういうことが起こるんじゃないか』『ここはうまくいかないんじゃないか』と、かなりネガティブなシミュレーションをしていました。その中で、想定を上回る熱狂をファン・サポーターの皆さんがつくってくださいました。そうした意味での100点だったと思います」
もちろん「課題がなかった」という意味ではない。樋口さん自身「もっとこうすれば良かった、というのはあります」と認めている。それでも100点と評価した理由は、リーグが最も懸念していた部分が、結果的には杞憂に終わったからにほかならない。
最大の不安は、やはり集客。半年間だけの特別大会で昇降格もない。J1の優勝クラブにはACLEの出場権が与えられるが、それ以外のインセンティブは、勝ち点ごとに賞金が与えられるくらいである(勝ち点1につき、J1では200万円、J2・J3では50万円)。
「開幕前、通常シーズンを上回る入場者数は正直、難しいと思っていました」
樋口さんは率直にそう振り返る。開幕当初は、PK戦という新しい試みもあり、新鮮味から盛り上がることは予想できた。問題は、その熱がいつまで続くか。順位が固まり始め、PK戦にも見慣れてくると、入場者数が大きく落ち込むことも想定していたという。
「ところが、実際にはそうならなかったんです」と樋口さん。開幕後も観客数は大きく落ち込むことなく推移し、そのまま半年間を走り切ったのである。
実際の数字が、それを裏付けている。百年構想リーグ全体の総入場者数は650万人を突破。前年同時期と比較すると、J1は106.7%、J2は91.2%、J3は113.7%という結果となった。J2こそ前年を下回ったものの、カテゴリーをまたいだ大会となったJ3は大きく数字を伸ばし、リーグ全体でも前年を上回る集客を記録している。
これは、リーグが最も悲観的に見積もっていた「昇降格がないとスタジアムへ足を運ばなくなる」という懸念が杞憂であったことを意味する。加えてもうひとつ、樋口さんが「予想以上でした」と挙げたのが、各クラブが見せていたピッチ上の熱量であった。
「昇降格がないので、もっと若い選手を思い切って起用するクラブが増えるかなとも思っていました。でも実際には、どのクラブも目の前の勝ち点3を本気で取りにいっていたんです。ファン・サポーターの皆さんも含めて、フットボールの熱量は想像を上回りました」
私自身もこの半年間、J1のみならずJ2・J3での試合を数多く取材したが、その感想には同意しかない。「どうせ特別大会だから」という空気を感じた試合は、ほとんど記憶になかった。選手や監督はもちろん、スタンドのファン・サポーターもまた、目の前の試合に必死であった。
もちろん、終盤に順位が確定してくると、観客数に陰りが見えるクラブもないわけではなかった。またプレーオフラウンドの位置付けなど、大会のレギュレーション周知されていないという側面もあった。それでも大会期間中、多くのクラブが目の前の勝利に執着し、それを見守るファン・サポーターも勝敗に一喜一憂していた。
だからこそ、ユアスタで見た仙台と富山の決勝もまた、あれほどまでに重みを持つ試合になったのだろう。その熱量を生み出した制度設計について、Jリーグはどのような評価をしているのであろうか。とりわけ気になるのが、通常のリーグ戦にはなかったレギュレーションである。